白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人

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「赤ちゃんできたんだ」

 あおいは頭の中で何度もシュミレーションしたセリフを口にした。
 そして、その都度想像していた相手の反応の中でも取り分け悪いものが目の前にある。
 常に不機嫌そうな雪路せつじの端正な顔には眉間の皺が何時もより深く刻まれ、鋭い眼光が細められる事で厳しさが滲んでいる。
 葵はやっぱりな、と落胆しながらも、雪路の言葉を待った。
 ほんの数秒。
 だが、長く感じられる沈黙の後に発せられたのは。

「誰の子だ?」

 咎める様な酷く冷淡な声だった。

 表情と今の一言で歓迎されていない事は明確で、番って欲しいと求めようものなら堕ろせと言われるかも知れない。
そんな恐怖から慌てて言葉をすり替えた。

りゅうちゃんの子だよ」

 咄嗟に出たのは共通の幼馴染の名前だった。
 発情期を迎えてからはβの竜と居る事が多かったからか、葵の嘘を疑う事もなく雪路は「そうか」と納得した。

「それで何で態々俺に報告するんだ?」

 小学校から三人仲良く過ごした幼馴染だ。

 ――例え本当に胎児の父親が竜だとしても報告するよ。

 そう心で呟き、面倒臭そうにしている雪路にそれらしい嘘を再び吐く。

「カンパ……お願いできないかな?」
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