少年少女たちの日々

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
10 / 15

10

しおりを挟む
 翌日もからりと晴れて南国らしく青い空が広がり、真っ白い雲が幾つも浮かんでいる。
 俊輔と翔司、修が果物を抱えて皆のいるところに戻ってきた。
「ちょっと待った。見ろよ」
 先頭を歩いていた俊輔が後の二人を制した。
 皆が寝ていた近くの浜辺に軍用のジープが止まっている。
 三人は果物を抱えたまま身を低くして近くまで走った。
 ジープの近くに軍人が立っていろ。俊輔たちの国の軍服とは違う。
「ここでちょっと待っていて。様子を見てくる」
 俊輔はジープの近くに立つ軍人に見つからないようにして皆がいる場所に近づく。
 三人の少女と老人夫婦、親子の他に銃を構える二人の軍人がいた。
「だからさっきから言っているじゃない。私たちはボートで流されてきただけだって」
 真希が興奮した様子で話している。
「そうだ。わしらの乗った船は敵国に攻撃されて沈没した。乗り込んだボートは嵐に遭ってここまで流されてきたのだ」
 老人が真希を援護するように言う。
「よりによって最新式戦車の開発場所に?」
「私たちがスパイか何かだっていうの?」
「そうだ」
「嘘でしょう? スパイならこんな姿でこんな所にいるわけがないじゃない」
「そこが付け目だ。見つかった時の。第一、女子供と年寄りだけで、どうやってボートをこんな所まで運んだのだ?」
「私達だけじゃないから」
「他にも仲間がいるのか? ますます怪しい。こんな戦時中に」
「だから言っているでしょ、大陸に行く途中に襲われて乗っていた大きな船は沈んじゃって、気が付いたらここまで流されてきていたの」
「取りあえず基地まで連行する。大人しく言うことを聞くんだ」
「だから違うって言っているでしょ!」
「うるさい!」
 軍人が真希の頬を叩いた。
 俊輔は飛び出したいのをぐっとこらえて、翔司たちのところに戻った。
「マズいぞ、スパイと間違われた」
「何とかしなきゃ」
 翔司が言う。
「あのジープを壊しちまおうぜ」
 修が続いて言う。
「そんなことしたってしょうがないだろ」
 その時、ガサガサと音がした。
 少年たちがハッとして振り返る。
 山田だった。
「どうした、こんな所で」
 俊輔はジープを指差した。
「見つかったのか」
 その時、ダーンと銃声が響いた。キャーという悲鳴。
 少年たちが走りだそうとした。
「待て! 銃声は一発だけだ」
 見ていると二人の軍人とみゆきと梨花、親子に続き、腕から血を流す老人とそれを助けるようにして老女と真希が現れた。
「あいつら」
 修がそれを怒りの目で見ながら言う。
「どうしよう」
 翔司は心配そうに言った。
「捕まってよかったんじゃないか。捕虜になっていれば食い物と寝るところは保証される」
 山田が冷静に言う。
 ジープのところで話をしていた男が俊輔たちを見つけて声を出した。
「見つかった」
 敵の軍人たちが銃で撃ってきた。弾が俊輔の近くをキュン、キュンと飛んでいき、近くの木に当たって音を立てる。
「やばい、逃げろ!」
 四人は一目散に逃げた。そして木の陰に身を隠す。山田は肩を押さえていた。そこから血がツーッと流れ落ちる。
「いきなり撃ってくるなんてひどい奴らだ」
「戦争なんだから仕方がない」
 山田が血に染まる肩をタオルで縛りながら言う。
「それじゃ、彼女たち、殺されちゃう」
 修が言った。
「そう簡単に捕虜は殺さんよ」
「それでも」
「ちょっと冷静に考えよう。時間はあまりないが」
「これからのこと?」
 俊輔が軍人に尋ねる。
「そうだ。このままいたって、いずれはあいつらに捕まってしまうだろう」
「どうします?」
「うむ」
 山田は考え込んだ。
「やっぱり捕まった人たちを助けよう」
 修が言う。
「どうやって?」
 軍人が尋ねる。
「それは・・・・これから考えるとして」
「じゃ、無事助け出せたとして、それからどうするんだ? またすぐに捕まるだけだ」
「逃げるんです、ここから」
「どうやって? また海に出るつもりか?」
「それは・・・・」
 修は言いよどんだ。
 その時、山田は何か閃いたようだった。
「よし、やれるだけやってみるか。ただし命の保証はできない。捕虜になれば命だけは保証されるだろう。それでもやるか?」
 翔司が頷く。
「あとの二人は?」
 修も頷く。
「君は?」
 山田が俊輔を見る。
「俺はやってもいいです。けど、彼女たちの命だって必ず保証できるとは言えないんでしょ?」
「そうだ」
「そうなると」
「あいつら、丸腰の老人を撃ったんだぞ」
 修が言う。
 俊輔は先ほどのテントでの光景を思い出した。真希と話をして相手の言い分を聞こうとしない軍人。真希をいきなり殴りつけた軍人。
「わかった」
「よし、そうと決まったら早速やろう」
「え? その傷で?」
「こんなのはいい。早くしないと助け出すのが困難になる」
「で、どうやって?」
「うーん。・・・・戦車だ。あれを奪えば」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...