スーパースター

原口源太郎

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 俺は日向子とコーヒーでも飲みに行こうかと思って、大学に戻った。
 講義が終わり、人でごった返す廊下に日向子が出てきた時、俺は声をかけ損なった。日向子は廊下の壁にへばり付いている俺に気付かず、顔いっぱいに笑みを浮かべて人ごみの中に消えていった。日向子の隣を歩いていたのは川口の野郎だ。
 元々俺と日向子は特別の間柄ではない。恋人同士なんて言えない。
 一年生の時、少人数で受ける語学の授業で一緒になり、たまたま俺の座る場所の隣に日向子が座ったことから親しくなった。日向子は綺麗だったから、俺にこれっぽっちの下心もなかったといえば嘘になる。実を言うと、初めての授業で隣に座った日向子を見た時から、俺は参っていたのかもしれない。ただ、それから三年近く過ぎようとしているのに、未だに状況はあまり変わっていない。日向子とは今以上の関係になりたいと思っているのに、何もできない自分のことが本当に情けなく思えるし、逆に日向子みたいな美人を他の奴らが放っておくのも不思議な気がしていた。
 そんな訳だから、日向子は俺の親しい友人の一人なだけだし、他の男と親しげに話をしていようと、あるいは他の誰かとどこかに行こうと、俺がどうのこうのと言える立場じゃない。
 俺はむしゃくしゃする気分と、深く落ち込んでいきそうな気分になり、そんな感情に支配される自分に腹を立ててその場を離れた。
「おい、北村」
 名前を呼ばれて俺は声の主を捜した。
 俺の数少ない友人の一人、中沢だった。
「よう」
「珍しいな。この講義を受けに来たのか?」
「もちろん。単位、危ねえし」
 俺は適当にごまかした。
「ふーん。それにしても元気ねえな。女に振られたような顔して。講義がよっぽど退屈だったか?」
 中沢が明るく言う。いつも鋭い男だ。
「これから何かある? 彼女とデートとか」
「何も無い。彼女なんていねえし」
「あれ? そう? ま、いいや。暇なら玉突きに行こう。原も来るし」
「原? 原とお前じゃ、面白くない」
 原も数少ない俺の友人の一人だ。
「いいだろ。本当言うと、原は彼女と何かもめてるみたいで、来られるかどうかわからねえって言うんだ」
「ふーん、じゃ行くか」
 俺たちは近くのビリヤード場に向かった。
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