スーパースター

原口源太郎

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 夢を見ていた。えらく生々しくて現実味のある夢だった。
 たくさん並んだ国旗が萎んだように垂れている。雲ひとつない、よく晴れた日だった。
 オリンピックにはふさわしくない小さな競技場で、スタンドは満員電車のように観客で溢れている。俺は高校の同級生たちとスタンドの一番前に陣取っていた。なぜか遠くに一人、大勢の客の中にポツンといる日向子のことが気になって仕方がなかった。
 日向子を見ていたり、同級生と話をしたりしているうちに、これから走る選手の紹介は終わっていた。一コースにいる神谷が名前を呼ばれて頭を下げるところを見逃してしまい、俺はしまったと思いながらも、隣の女の子と話をしていた。女の子は神谷が他の外国の一流選手に付いていけるわけがないと言って笑った。周りにいる同級生たちも皆同じようなことを言って笑っていた。俺も調子を合わせて笑いながら、内心、今に見ていろよと思っていた。みんなあっと驚くことになる。真っ先にゴールに飛び込むのは神谷だ。
 遠くの日向子は笑っていなかった。真剣な表情で神谷を見ている。日向子は神谷のことを知っていたっけ? 俺は疑問に思った。
 パン!
 スタートの音に、俺は慌ててトラックを見た。ランナーたちが猛烈な勢いで走っていく。
 神谷の姿がなかった。
 ?
 あちこちで笑い声が上がった。俺の隣で女の子も大声で笑っていた。
 スタート地点から数メートルのところで、神谷がずっこけている。
 俺も、周りに合わせて声を出して笑った。笑い声が渦になって俺の周りをぐるぐると回った。日向子の泣き出しそうな顔がちらっと俺の視界に入った。
 そこで目が覚めた。
 時計は六時を少し回っている。電車の走る音が聞こえてきた。外はまだ暗い。
 起きる時間には早かった。もうひと眠りするつもりで布団に潜り込んだが、どうにも眠れない。少し頭も痛い。前の晩に酒を多く飲むと、早く目が覚めてしまう。
 俺は今見た夢のことを考えた。
 俺はどこかで神谷のことを恐れている。あのとぼけた風貌でいつも俺より上を行っている。勉強でも陸上でも。今ではとても俺が追い付けないスーパースターになってしまったが、心のどこかで神谷がしくじるのを願っている。
 そんなことない? そんなことは思っていない?
 でも、今の夢は俺の本心を表していたのではないか?
 いや。俺の本心は日向子があらわしていた。夢の中で本当の俺は日向子だった。
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