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人は見た目じゃわからない

人は見た目じゃわからない

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「あなたが好きです」
 菜々実に呼び出された喫茶店で、唐突に告げられた。
 長瀬は驚いて、目の前に座る美しい女性を見た。でも眩しすぎて、その目を見ることができなかった。
 長瀬は目の前のコーヒーカップを見つめ、ぐちゃぐちゃになって混乱している頭の中を整理して冷静になろうとした。
「長瀬さん?」
 名前を呼ばれ、長瀬は顔を上げて菜々実の顔をちらりと見た。
「その・・・・今なんて?」
 消え入りそうな声で、再び下を向いたまま長瀬は尋ねた。
「私と付き合ってください。私は自分を隠しておくのが嫌いだから、はっきり言うの。私と付き合ってください」
「でも、なんで僕みたいな男と」
「どうして? あなたは素敵だと思う」
「だって、顔はブサイクだし、デカくて太いし、人付き合いも悪いし」
「あなたはちょっと丸いけれど、身長が高いし、ブラック企業で深夜残業ばかりだけど高収入だし、大学院をクビになったとはいえ、一流大学卒の高学歴だし。一昔前だったらモテモテよ」
「イケメンというのが前提にあると思うけれど」
「私は見た目で人を判断しません。あなたの性格は素晴らしいと思う」
「僕は口下手だし、それで二重人格っていわれることもある」
「二重人格じゃない」
「他人からはそう見えるらしい」
「私から見ればあなたは普段から大人しくて喜怒哀楽に欠けるけれど、それって、裏表がないからでしょ? 私自身が自分の心に嘘をつくことが嫌いだから、あなたも私に似ているところがあると思うの」
「そうかなぁ」
「それで? 私と付き合ってくれますか? くれませんか? 私のことが嫌い?」
「いや、嫌いなんてことは全然ないけれど。僕とじゃあまりにも不釣り合いじゃないかと」
「それは他人の判断でしょ? 私たちが良ければそれでいいじゃない」
「うん。でも、まさか夢みたいだなあ」
 現実を受け入れた長瀬は、安心したようにつぶやいた。

 それからしばらく話をして、喫茶店を出たときには、空はすっかり夜の色に染まっていた。
 長瀬と菜々実は無言で通りを歩いた。二人でただ歩くということでさえ、深い幸せの中にいるように感じた。
 菜々実は人気のない場所へと長瀬を導いていった。何かを期待するかのように。

 一人で暗がりの通りを歩く菜々実は、充実した表情を浮かべていた。
「やっぱりAB型は最高だわ。この味を知っちゃうと、もう他のは飲めないね」
 そうつぶやいて、菜々実は手にしていた本のタイトルを見た。
『血液型による性格判断』
「この本に書いてあること、よく当たるし」
 そう言って菜々実は美しい顔に笑みを浮かべた。
 鋭く尖った犬歯に、まだわずかに血の色が残っていた。

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