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第一章

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 原口源左衛門と雪乃は江戸を迂回し、母方の親戚筋に当たる遠江掛浜藩の藩士を頼って東海道を下った。
 掛浜藩で仕官の口を捜したが、仕官を望む剣術自慢の浪人は数多く、源左衛門はその剣の腕を披露する場を得ることなく掛浜での仕官の道を諦めた。
 源左衛門は頼っていった掛浜藩士に、尾張で道場を営む剣術家を紹介された。
 尾張で源左衛門の剣術は大いに称賛され、仕官の道は近いとの言葉を貰った。
 そうしているうちに仕官の声の掛かることなく一年が経った。米形から持ってきた金はほとんど尽きかけていた。しびれを切らした源左衛門が道場主を通じて何度目かの仕官の催促をしたところ、数年待つことになるだろうとの返事が返ってきた。源左衛門の人格が評価されていずれは仕官できるという話であったが、剣術については何の評価もされていなかったことも源左衛門は気に入らなかった。
 尾張で剣術を教えている道場主は、どうしても剣術家として仕官の道を目指すのなら、文武両道、質実剛健の厳しい藩政を敷いている美濃赤吹藩を訪ねてみればどうかと言い、昔、稽古をつけていたという赤吹藩の目付け役の大村という男に紹介状を書いてくれた。

 源左衛門の刀は、米形の名工、二代目米形光兼の作である。
 当代随一と言われ、米形城下に居を構える二代目光兼は、藩主に刀を献上したことがある。藩主である上杉宗勝はその刀を痛く気に入り、さらに三振り作らせた。そして源左衛門が御前試合で三年連続優勝を果たすと、その褒美としてそのうちの一振りを与えた。源左衛門が木村の腕を折る一年前の事である。
 源左衛門は刀の手入れをし、輝いて浮かび上がる刃文を見るたびに、たとえ赤吹藩で仕官が叶わず武士を辞めたとしても、この刀だけは一生大切に持っていたいと思うのであった。
 源左衛門は尾張を出て赤吹の城下町に向かった。

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