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 手足の自由を取り戻したアキラは、立ち上がるとハルカから拳銃を受け取った。
 二人で拳銃を構えて後ずさる。
 アキラは悲しげな表情のユウと目が合った。不思議な感情に一瞬支配されたが、すぐにそれを振り払うようにして部屋を出た。
 廊下には血を流して横たわる男たちがいた。
「これ、お前が?」
 アキラはハルカに尋ねた。
「そうよ」
 二人は廊下を走り、その先の闇に消えた。

 とある地方都市の郊外に、白い壁に鋭角的な屋根を乗せた洒落た喫茶店があった。
 昼の店内はほとんどのテーブルが埋まり、店員が忙しげに歩き回っている。
 その中、窓際のテーブルにアキラとハルカが座っていた。
「ここもすぐに見つかると思う」
 紅茶を一口飲んでからハルカが言った。
「わかってる」
「外国にでも行く?」
「いや」
「じゃ、どうするの?」
「奴らの組織を潰す」
「その前に殺されるわ」
「その前に潰す」
「アキラ一人じゃ無理よ。ハヤトは? 私も手伝う。三人なら何とかなる。ハヤトはどこにいるの?」
「ハヤトはいない」
「いない?」
「死んだんだ。身を隠していた北海道で。それは組織とは関係ない。単なる事故だった」
「本当に?」
「ああ」
「・・・・嘘」
「嘘じゃない」
「なんだ、そうだったの」
 ハルカの口調が変わった。
 眉をひそめてアキラはハルカの顔を見た。
「いくら捜しても見つからないわけだ」
「おまえ」
「それじゃ、あなたも死んでもらうしかないわね」
 ハルカはテーブルの下で拳銃を構えている。
「やっぱりな」
 アキラは落ち着いた声で言った。
「やっぱり?」
「俺を助けに来た時、あまりにも上手くいきすぎると思ったんだ」
 アキラはそのままの体勢でテーブルの下のハルカの拳銃を蹴りあげた。それと同時にテーブルを力いっぱい押し出す。
 ハルカはテーブルと共に派手な音を立てて床に倒れた。カップと皿が床に落ちて割れる。ハルカの手から離れた拳銃も遠くの床に落ちて転がった。
 アキラがそこに走り拳銃を拾う。
 ハルカは窓に体当たりをして外に出た。
「伏せろ!」
 アキラは大きな声で叫んだ。
 激しい音を立ててマシンガンの弾が店の中に撃ち込まれた。
 窓ガラスが粉々に砕け、テーブルがバリバリと音を立てる。何人かの客が銃弾に撃ち抜かれて倒れ、何人かは床にうずくまり頭を抱えて悲鳴を上げた。
 アキラは腹這いになって進んだ。頭上から壊れた陶器や木の破片が降り注ぐ。
「これが殺し屋のやり方かよ。ふざけんな」
 銃声が収まった。人のうめき声と泣き声が幾重にも重なる。
「こっち」
 店の厨房に続く通路からユウが顔を出した。
 アキラはハルカから奪った拳銃を咄嗟に構える。
「お願い、信じて。あなたを助けたいの」
 アキラはユウの所に行き、立ち上がった。
「裏に車がある。来て」
 ユウが厨房の中を走り、アキラもそれに続く。
 店を出てユウが車のドアを開けた時、数発の銃声が響いた。
 ユウが胸を撃ち抜かれて倒れた。
「ユウ!」
 アキラはユウを抱えて車に乗り込む。
 スタートボタンを押してアクセルを目いっぱい踏み込んだ。
 さらに数発の銃声がした。
 アキラの運転する車の窓ガラスが砕ける。バンパーにはいくつもの穴が開いた。しかし車は止まることなく走り去っていった。
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