グルドフ旅行記

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
97 / 100
グルドフ旅行記・12 オオカミ親分の涙

しおりを挟む
 オオカミ親分の勢力はますます強大になっていった。
 マットアン王国とジング王国を隔てる険しい山脈のみならず、その周辺の山々に潜む魔物たちまで、オオカミ親分の一家やその配下にあるキング・ナイト一味、ひとつ目一家を恐れて配下に入れてくれと言ってくる魔物たちが多かったからだ。
 オオカミ親分は怖い勇者の言いつけ通り、マットアン王国とジング王国の間を旅する人間に危害を加える魔物がいなければ、そのほかの土地のことなどどうでもよかった。だから親分の配下に入れてくださいと言ってくる魔物たちには、好きにしろと答えるのが常だった。
 オオカミ親分に好きにしろと言われた魔物たちは、親分の配下に入れてもらったものと勝手に解釈して、親分に忠誠の言葉を述べると喜々として自分の暮らす地へと戻っていった。
 また、魔物界にオオカミ親分ありとその名を轟かせてしまったために、世界中から力自慢、喧嘩自慢の魔物がやってきて親分に勝負を挑むようになった。それはオオカミ親分を打ち負かしてその名声や権力を手に入れたいという野心のある魔物たちだった。
 オオカミ親分は次から次へとやってくる魔物と戦い、必ず勝った。そういった強い魔物たちとのタイマン勝負を重ねるたびに、オオカミ親分はそう望んでいるわけでもないのにますます強くなっていった。
 しかし親分は次から次へとやってくる魔物たちを、いちいち相手にしているのが面倒くさくなってしまった。
 そこでオオカミ一家の幹部で戦いの経験も豊富なフラケンや鬼之助を、自分の代わりを務めるように指名した。
 フラケンや鬼之助はオオカミ親分に次ぐ実力者と言われるだけあって強かった。オオカミ親分と勝負しにやってくる魔物は先にフラケンか鬼之助と勝負し、大抵負けた。
 フラケンや鬼之助が負けた時は、仕方なくオオカミ親分がねぐらの洞窟から出てきて相手をした。
 やっぱり親分は強かった。一度も負けることはなかった。
 オオカミ親分に打ちのめされた魔物たちは自分の国に帰ると、親分の強さを語って歩いた。
 また、親分の強さと度量の広さに惚れこみ、親分の手下になることを望む魔物もいた。
 オオカミ親分をはじめ、フラケンや鬼之助が強い魔物との戦いを重ねてどんどん強くなっていくと同時に、強い魔物がオオカミ親分の子分になっていくので、親分の一家はますます強くなっていった。
 そんなある日・・・・

 空にいくつもの大きな物体が舞った。
 早速オオカミ親分の子分の鳥型の魔物が様子を見に行ったが、話しをする間もなく打ちのめされて地面に落ちてきた。
 空を舞う強力な魔物が現れたと聞き、慌ててオオカミ親分が洞窟から跳び出してきた。そいつらが峠を旅する人間どもに手を出したら大変なことになる。
 オオカミ親分の姿を認めたのか、空を舞っていた魔物たちが次々と降りてきた。
 それは大型のドラゴンだった。
 ドラゴンは魔物の中でも最高の魔物の部類に入る。強力な力に鋭い爪をもち、空を飛ぶこともできる。口からは鉄をも溶かすといわれる炎を吐く。
 そんなドラゴン十体ほどが翼をバタバタさせてオオカミ親分の前に降り立った。小さな魔物はその翼の風力に飛ばされた。
(なんだ、お前たちは?)
 オオカミ親分は身構えながら言った。ドラゴンたちは交流を目的にやってきたようには見えない。
(お前がオオカミ親分だな?)
 ドラゴンたちの中央にいるひときわ大きなドラゴンが重々しい声を出した。
(そうだ。何しに来たんだ?)
(私はリュウ。タツのことは覚えているか?)
(タツ? は! お前はタツ様の)
 タツとはオオカミ親分が慕っていたドラゴンだった。
(そうだ。タツは私の兄だ。兄を見殺しにしたキサマがこの世で最強の魔物だと? 笑わせるな)
(俺はこの世で最強の魔物だなんて一言も言ってねえ)
(何を言う!)
 そう言うとドラゴンは口から炎を吐きだした。
 オオカミ親分は素早い身のこなしで炎をかわした。周りにいた魔物たちがちりちりと焼かれて黒焦げになった。
(お前らは下がっていろ!)
 オオカミ親分は子分たちに命じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...