グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・11 本物の偽物グルドフ

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「どうだ?」
 偽物グルドフがグルドフに言った。
「しけた町だ。だがまあ、こんなもんだろう」
「報酬は山分けだからな」
「わかっとる。ちょっと待て」
 そう言うとグルドフは懐から封筒を取り出し、中の紙幣を数え、半分ほどを偽物に渡した。
「おい、ちゃんと数えたか?」
 偽物が受け取った金を見ながら言う。
「間違ってねえよ」
 グルドフが言った。
「やはりグルになっていたのですな」
 近くで声がした。
 グルドフと偽物グルドフ、それにポポンと偽物ポポンが辺りを見回した。
 岩の陰に、丸顔にちょび髭を蓄えた男が立っていた。
「何だてめえ」
「勇者の名を騙り悪事を働くとは。許せませんな」
「何だと」
 二人のグルドフと二人のポポンが腰の剣に手をかける。
「てめえは誰だ! 俺たちが勇者だと知って物を言ってんだろうな!」
「私はグルドフ。ゲルグ王国の元勇者」
「何だと? ゲルグ王国の元勇者グルドフは俺だ」
「俺もゲルグ王国の勇者のグルドフだ!」
「おまえは違うだろ」
「そうだった。俺は偽物だ」
「この期に及んで、まだ私の名を名乗るとは」
「おもしれえ、やるのか? てめえが本物だとしても、こっちは四人だ。痛え目にあわせてやる」
 四人の偽物が剣を抜き、ちょび髭の男に斬りかかった。
 本当の本物のグルドフは腰の木刀を構えるなり、四人を打ち据えた。ほんの一瞬の出来事だった。
 四人の偽物はうなり声をあげて地面に転がった。
「たとえ偽物であろうと、せめて勇者を名乗るならもう少し修業を積むべきでありますな」
 男たちを見てグルドフが言った。

 その先の岩の陰から馬に乗った兵士たちが現れた。先頭の男の後ろには本物のポポンが乗っていて、ゆっくりと馬から降りる。
「グルドフ殿。お見事です」
 ポポンが乗っていた馬の男がグルドフに声をかけた。後ろにいた数人の男が馬から降り、四人の偽物に縄をかける。
「それでは。領主様によろしくお伝えくだされ」
「はい。貴殿の素晴らしい腕前をこの目で拝見することができて、誠に光栄です。領主様の頼みをお聞きくださり、ありがとうございました」
 マゼルの兵士で、騎兵隊の隊長が頭を下げた。
 グルドフとポポンも隊長に一礼すると、目的地のミナルテの村に向かって歩き始めた。
 グルドフはミナルテで一泊し、久しぶりにイナハと話しをすることを楽しみにしていた。翌日には数日をかけ、険しい山脈を超えてジング王国に行く予定になっている。マットアン王国とジング王国を結ぶ道はぱったりと魔物が現れなくなり、行きかう人々が増えたと聞いている。
「整列!」
 後方で大きな声がした。
 グルドフとポポンが振り返る。
 馬に乗った兵士たちがきちんと一列に並んでいた。
「グルドフ殿、ポポン殿に、敬礼!」
 隊長の声と共に、馬上の兵士たちがビシッと片手をあげて敬礼をする。
 グルドフとポポンも同じように敬礼をしてから再びミナルテに向けて歩み始めた。
「直れ!」
 隊長の大きな声が青空に響き渡った。


   グルドフ旅行記・第11話 終わり 
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