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グルドフ旅行記・4 怪しい奴らの正体を暴け!
ニタリキの役人
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「やはりバムトであったか」
手足を縛られた魔法使いを見てイナハが言った。
「この者を知っているのですか」
「マットアン王国で、勇者と共に冒険をする魔法使いとして修行を積んできた者であります」
「そのような者がなぜ?」
「ふむ」
バムトという若い魔法使いは、役人たちに連れていかれた。広間で燃えていた火は全て消され、床は水浸しになっている。
グルドフとイナハは、バムトの後ろ姿を見送った。
「この国に勇者は一人しかおりませぬ。しかし魔法使いや武道家、弓道家などの冒険者は二人いるのであります。一人が冒険に出かけ、もう一人は控えという立場になります。ただ、冒険者になりたいという者はもっとたくさんおります。私も幼い頃から武道家になり、勇者と共に冒険の旅をするということを夢見て修行に励んできました。しかし私は冒険者となる二人には選ばれませんでした。グルドフ殿は、武道家ターロウという名前を聞いたことがありませぬか?」
「もちろんあります。私の旅の目的はまさにそれ。ターロウ殿に会いに行くことです」
「そうでありましたか。それはそれは。私は修行中にターロウと出会い、その剣術の素晴らしさに驚き、自分より優れた者がいると知り、心置きなく冒険者になるという夢を捨てることができました。もちろん幼い頃から冒険者になるという夢を見て修行を積んできたので、その当時は自分の技量に対して、かなり落胆はしましたが」
「それほどターロウ殿は」
「素晴らしかったのであります。冒険者を目指す武道家は大勢いましたが、選ばれるのは二人のみ。ですが選ばれなかった者たちは武道家の道場を継いだり、師範となったりします。あるいは兵士となったり。私も王様に声をかけられ、兵士となりましたが、どうも団体行動になじめずにすぐに辞めてしまいましたわい」
「はは。そうでありますか」
「他に旅の商人や役人のボディーガードとなる者もおります。武道家は冒険者になれなくても他に生きていく道は色々とあるのであります。しかし魔法使いは違います。冒険者に選ばれなかった魔法使いは、次世代の魔法使いを育てる教育係になるか、他の仕事に転職するしかないのであります」
「そうですな。それはどこの国でも同じですな」
「この国では、幼い子の中から才能ある者数名が選ばれ、魔法使いとなるための英才教育を受けます。そして最終的に冒険者として認められたのが、今、勇者と共に冒険に出ている魔法使いとバムトだったのであります。魔法の技量はバムトが一番優れていたと聞きました。しかし王様が主力の冒険家に選んだのはバムトではない魔法使いでありました。バムトはそれから酒に溺れ、素行が悪くなったようであります。王様はそんなバムトの心の弱さを感じて控えの魔法使いにしたのかもしれませぬが、もしバムトが主力に選ばれていたら、素晴らしい冒険家となっていたかもしれませぬ。人の心はどのようにでも変わるものでありますからの」
「そうですな」
「王様はバムトの噂を聞き、城に呼びつけて注意をしたそうであります。しかしそれ以来バムトは姿を消してしまいました。王様は心配してあちこち捜させたそうですが、結局、今に至るまでバムトは行方知れずとなっていたのであります」
「そうでしたか」
グルドフは悲しげな眼で、広間の床を掃除している人たちを見つめた。
「ミナルテで火薬を手に入れるのに苦労したよ。やっと見つけても、少しだけだったし」
「それであのような火薬玉を?」
「ミナルテの特産品が胡椒だと知って、中に火薬の代わりに入れてみようと思いついて。胡椒なら幾らでも手に入れることができたからね」
グルドフとポポンは集会場の外に出て、役人たちに引っ立てられている盗賊たちを見ていた。
イナハは傷の手当てを受けているレイのもとに行った。
「背負っていた液体は何だったのですか?」
「ただの水だよ」
ポポンはまだ空になったタンクを背負っていた。
「ただの水ですか」
「自分の経験上、一番厄介なのは水だったからね。火種がなくなると使えなくなる魔法は多いし、サンダー系の魔法だと、自分が感電してしまう危険もあるしね」
「そういえば、あの魔法使いも水を浴びて、慌てて背負っていたバッグを降ろそうとしていました」
「バッテリーか何かだったんだろうね。雨の日とか、水に濡れそうなときは防水対策をするのだけれど、あいつもまさかこんなところで水をかけられるとは思ってもいなかったのじゃないかね」
「さすがポポン殿」
「人間の魔法使いと戦うのは初めてだったけれど、うまくやれたと思うよ」
「もちろんですとも。では、我々もレイ殿の様子を見に行くとしましょうか」
グルドフとポポンは人でごった返す町の通りを歩き始めた。
「グルドフさん」
歩くグルドフに声をかけたのは、ニタリキの村から来ていた若い役人だった。
「この度は色々とお世話になりました」
「いえ。そなたこそご苦労様でありました」
「ニタリキの村長も、あなたが慌ただしく旅立ってしまい、ろくにお礼も言うことができなかったので、もし村の近くに来るようなことがあれば、ぜひ寄っていただきたいと言っていました」
「お礼なんてとんでもない。しかしあなたの今の言葉は頭に入れておきます」
「この町に来て色々と聞いたのですが、あなたはすごい勇者だったとか」
「いえ、そんなこともない・・・・」
「しかしニタリキで捕らえた悪人たちを脅している時のあなたの剣術は見事でした。一ミリ単位で剣を振るなんて、人間業とは思えませんでした」
「人間業じゃないですね」
グルドフも若い役人の言葉に同意した。
「その人間業じゃないことをあなたはやってのけられる」
「いや、さすがの私でも、一ミリ単位で剣を振うなんてことはできません」
「しかしあの時」
「まあ、時にはハッタリも必要ということです」
「そうだったのですか。それにしても、・・・・今のことも含めて、ニタリキでのあなたの働きはさすがでした。そして今日。あなたがいらしたからこそ、窃盗団一味を捕らえることができました」
「いやいや、そんなことはないですな。あなたたちは私が勇者だったということで、私のことを過大評価しておられる」
「いえいえ、そんなことはありません。全てあなたのおかげです。あなたこそ自分のことを過小評価しすぎています」
「まあ、そんなことはどうでもいいのです。私は人々のお役に立てれば、それでいいのです」
「そうですね。私もあなたを見習って生きていきたいと思います。私はいつまでニタリキにいるかわかりませんが、私からも、村の近くに来るようなことがあれば、ぜひ村に寄っていただきたいと思います。それでは」
ニタリキの村に派遣されている若い役人は、グルドフとポポンに頭を下げて去っていった。
手足を縛られた魔法使いを見てイナハが言った。
「この者を知っているのですか」
「マットアン王国で、勇者と共に冒険をする魔法使いとして修行を積んできた者であります」
「そのような者がなぜ?」
「ふむ」
バムトという若い魔法使いは、役人たちに連れていかれた。広間で燃えていた火は全て消され、床は水浸しになっている。
グルドフとイナハは、バムトの後ろ姿を見送った。
「この国に勇者は一人しかおりませぬ。しかし魔法使いや武道家、弓道家などの冒険者は二人いるのであります。一人が冒険に出かけ、もう一人は控えという立場になります。ただ、冒険者になりたいという者はもっとたくさんおります。私も幼い頃から武道家になり、勇者と共に冒険の旅をするということを夢見て修行に励んできました。しかし私は冒険者となる二人には選ばれませんでした。グルドフ殿は、武道家ターロウという名前を聞いたことがありませぬか?」
「もちろんあります。私の旅の目的はまさにそれ。ターロウ殿に会いに行くことです」
「そうでありましたか。それはそれは。私は修行中にターロウと出会い、その剣術の素晴らしさに驚き、自分より優れた者がいると知り、心置きなく冒険者になるという夢を捨てることができました。もちろん幼い頃から冒険者になるという夢を見て修行を積んできたので、その当時は自分の技量に対して、かなり落胆はしましたが」
「それほどターロウ殿は」
「素晴らしかったのであります。冒険者を目指す武道家は大勢いましたが、選ばれるのは二人のみ。ですが選ばれなかった者たちは武道家の道場を継いだり、師範となったりします。あるいは兵士となったり。私も王様に声をかけられ、兵士となりましたが、どうも団体行動になじめずにすぐに辞めてしまいましたわい」
「はは。そうでありますか」
「他に旅の商人や役人のボディーガードとなる者もおります。武道家は冒険者になれなくても他に生きていく道は色々とあるのであります。しかし魔法使いは違います。冒険者に選ばれなかった魔法使いは、次世代の魔法使いを育てる教育係になるか、他の仕事に転職するしかないのであります」
「そうですな。それはどこの国でも同じですな」
「この国では、幼い子の中から才能ある者数名が選ばれ、魔法使いとなるための英才教育を受けます。そして最終的に冒険者として認められたのが、今、勇者と共に冒険に出ている魔法使いとバムトだったのであります。魔法の技量はバムトが一番優れていたと聞きました。しかし王様が主力の冒険家に選んだのはバムトではない魔法使いでありました。バムトはそれから酒に溺れ、素行が悪くなったようであります。王様はそんなバムトの心の弱さを感じて控えの魔法使いにしたのかもしれませぬが、もしバムトが主力に選ばれていたら、素晴らしい冒険家となっていたかもしれませぬ。人の心はどのようにでも変わるものでありますからの」
「そうですな」
「王様はバムトの噂を聞き、城に呼びつけて注意をしたそうであります。しかしそれ以来バムトは姿を消してしまいました。王様は心配してあちこち捜させたそうですが、結局、今に至るまでバムトは行方知れずとなっていたのであります」
「そうでしたか」
グルドフは悲しげな眼で、広間の床を掃除している人たちを見つめた。
「ミナルテで火薬を手に入れるのに苦労したよ。やっと見つけても、少しだけだったし」
「それであのような火薬玉を?」
「ミナルテの特産品が胡椒だと知って、中に火薬の代わりに入れてみようと思いついて。胡椒なら幾らでも手に入れることができたからね」
グルドフとポポンは集会場の外に出て、役人たちに引っ立てられている盗賊たちを見ていた。
イナハは傷の手当てを受けているレイのもとに行った。
「背負っていた液体は何だったのですか?」
「ただの水だよ」
ポポンはまだ空になったタンクを背負っていた。
「ただの水ですか」
「自分の経験上、一番厄介なのは水だったからね。火種がなくなると使えなくなる魔法は多いし、サンダー系の魔法だと、自分が感電してしまう危険もあるしね」
「そういえば、あの魔法使いも水を浴びて、慌てて背負っていたバッグを降ろそうとしていました」
「バッテリーか何かだったんだろうね。雨の日とか、水に濡れそうなときは防水対策をするのだけれど、あいつもまさかこんなところで水をかけられるとは思ってもいなかったのじゃないかね」
「さすがポポン殿」
「人間の魔法使いと戦うのは初めてだったけれど、うまくやれたと思うよ」
「もちろんですとも。では、我々もレイ殿の様子を見に行くとしましょうか」
グルドフとポポンは人でごった返す町の通りを歩き始めた。
「グルドフさん」
歩くグルドフに声をかけたのは、ニタリキの村から来ていた若い役人だった。
「この度は色々とお世話になりました」
「いえ。そなたこそご苦労様でありました」
「ニタリキの村長も、あなたが慌ただしく旅立ってしまい、ろくにお礼も言うことができなかったので、もし村の近くに来るようなことがあれば、ぜひ寄っていただきたいと言っていました」
「お礼なんてとんでもない。しかしあなたの今の言葉は頭に入れておきます」
「この町に来て色々と聞いたのですが、あなたはすごい勇者だったとか」
「いえ、そんなこともない・・・・」
「しかしニタリキで捕らえた悪人たちを脅している時のあなたの剣術は見事でした。一ミリ単位で剣を振るなんて、人間業とは思えませんでした」
「人間業じゃないですね」
グルドフも若い役人の言葉に同意した。
「その人間業じゃないことをあなたはやってのけられる」
「いや、さすがの私でも、一ミリ単位で剣を振うなんてことはできません」
「しかしあの時」
「まあ、時にはハッタリも必要ということです」
「そうだったのですか。それにしても、・・・・今のことも含めて、ニタリキでのあなたの働きはさすがでした。そして今日。あなたがいらしたからこそ、窃盗団一味を捕らえることができました」
「いやいや、そんなことはないですな。あなたたちは私が勇者だったということで、私のことを過大評価しておられる」
「いえいえ、そんなことはありません。全てあなたのおかげです。あなたこそ自分のことを過小評価しすぎています」
「まあ、そんなことはどうでもいいのです。私は人々のお役に立てれば、それでいいのです」
「そうですね。私もあなたを見習って生きていきたいと思います。私はいつまでニタリキにいるかわかりませんが、私からも、村の近くに来るようなことがあれば、ぜひ村に寄っていただきたいと思います。それでは」
ニタリキの村に派遣されている若い役人は、グルドフとポポンに頭を下げて去っていった。
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