グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・3 勇者をやっつけろ

怖い勇者がやってきた!

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 怪我をした魔物を抱えてアジトの洞窟に帰り着くころには、空が白み始めていた。
(ちくしょう、このままではあいつら、山を下りてしまうぞ)
(親分、もう諦めましょう。ドラゴンのタツ様だって、あの世でよくやったと褒めてくださっていることでしょうよ)
(馬鹿を言うな。しかし・・・・何かいい手はないものか・・・・)
 その時、洞窟の入り口で大きな物音がした。
 続いてギャーッという魔物の悲鳴が聞こえ、子分の一体が洞窟の奥まで転がってきた。
(どうした!)
 オオカミ親分が叫んだ。
「誰か人間の言葉がわかる奴はおるか!」
 それは剣を手にした、ちょび髭の勇者だった。(魔物は目の前の勇者が、今は元勇者となっていることを知らない)
 オオカミ親分は子分たちを見回した。誰も知っていそうな奴はいない。
「おらぬか!」
 オオカミ親分はダバイン王の城にいるとき、ドラゴン配下の幹部として、ダバインやドラゴンから人間の言葉の聞き取りの特訓を受けていたので、いくらか分かった。
 親分は震えながら、おずおずと手を挙げた。
「ここのかしらは誰だ」
 勇者はオオカミ男に向かって尋ねた。
 オオカミ親分はもう一度おずおずと手を挙げた。
「お前か」
 勇者は幾分優しい声になって言った。
 親分は「ガウー」と言って頷いた。
「お前たちの腰の抜けたような襲い方を見ていると、ろくに人間を襲ったこともないように思える。違うか?」
(いや、そんなことはごぜーませんが)
 親分はそう言ったが、勇者には多分、ガウガウとしか聞こえていないと思った。
「今回だけは大目に見てやる。しかしこの峠で人間が襲われたと小耳にでも挟もうものなら、すぐにここに駆けつけて成敗してくれる。分かったか!」
 オオカミ親分は、はっきり全ての言葉を理解することはできなかったが、それでも大体勇者の言っていることが分かって、すっかり震え上がった。
 周りで訳も分からず勇者と親分を見ていた魔物たちも、親分がぶるぶると震えだすのを見て、自分たちも恐ろしくなってきた。
 勇者がギロリと周りの魔物たちを睨みつけた。
 周りの魔物たちも恐怖にすくみあがって震えだした。
(もう二度と悪さは致しません)
 オオカミ親分がひれ伏して言った。
 他の魔物たちも慌てて親分を真似てひれ伏した。
「忘れるなよ」
 そう言って勇者は堂々と魔物たちに背を向け、洞窟を出ていった。

 勇者が去ったのちも、魔物たちは放心したように洞窟の中に座り込んでいた。
 やがてオオカミ男の親分が立ち上がり、子分たちに先ほど勇者が言ったと思われることを話した。
(親分、それって)
 コウモリ似のドラ吉が言った。
(何だ)
(この山には俺たち以外にも魔物はいるんですぜ。そいつらが人間にちょっかい出しても、俺らの仕業と思ってあいつが乗り込んできますぜ)
 それを聞いて親分は青くなった。いや、親分の顔は毛に覆われているから、青くなったかはわからなかったが、青くなったような表情をした。
(どうすりゃいい?)
 魔物たちは真剣な表情で相談を始めた。

 その後、そこは魔物に襲われない世界一安全な峠として知られることになった。


 グルドフ旅行記・3話 終わり 
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