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グルドフ旅行記・1 ジング王国の少年
武道家・1
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グルドフは元勇者から武道家の家の場所を聞き、そこに行った。
武道家の小さな道場では、小さな子供たちがきゃあきゃあ騒ぎながら木の棒を振っていた。
「ごめん下さいまし」
グルドフが入り口で呼びかけると、子供たちを相手にしていた武道家が来た。
子供たちはすぐにワーワー言って道場内を走り回り始めた。
「これ! お客人だ。静かにしていなさい」
武道家にたしなめられた子供たちは一瞬おとなしくなったが、またすぐに道場内を走り出した。
「おや、これはグルドフ殿ではあるまいか」
「覚えておいでですか。久しぶりでございます」
「おい、ばあさんに、客人が来たからお茶を入れるように言ってきてくれ」
武道家は近くを走っていた子供を捕まえて言った。
子供は返事をしてピューッと飛んでいった。
「何か御用で?」
武道家が上り口に腰かけたので、グルドフも隣に座った。
「それが・・・・」
グルドフは王様から頼まれたことと、元勇者の家に行ったことを話した。
「そうでありますか。ごらんの通りここは小さな子供たちしかおりませぬ。この国では、働ける年齢になると、皆、畑に出たり、家に籠って家業を行うようになり、剣術を学ぼうなどという者は一人もおりませぬ。ここの道場は忙しい親の代わりに、子供の面倒を見る託児所のようなものであります。ですから勇者になれそうな人物といわれましても、とんと当てはありませぬ」
「そうですか」
「私めも冒険に出なくなってから、こんな子供の相手ばかりで、剣の腕もすっかり錆びついてしまいましたわ」
「そうですか」
グルドフは剣術の修行のために旅をしているということは黙っておくことにした。
「あなた様にはご子息は?」
「息子はおります。幼い頃から私が剣術を教え込んできたので、今では私よりもよっぽど腕がたちます」
それを聞いて、グルドフの目がキラリーンと光った。
「ご子息は今、ご在宅で?」
「畑に行っております」
「畑?」
「息子は剣を振るよりも鍬を振るほうが好きでしてな。野菜作りに夢中になっております。道場はこのような状態でありますし、武道家を継ぐ気はまったくないようであります」
グルドフの瞳は急速に光を失っていった。
「農家になられると?」
「そのようですな」
グルドフは落胆したが、取りあえずその息子と剣を交えてみたいと思った。
「そろそろお昼になりますが、ご子息は家に戻られますか?」
「どうかな。どこぞの家で昼飯をご馳走になるときは夕方まで戻りませぬし、どこからも声がかからなければ昼は帰ってきます」
「ご子息の腕前を拝見したいと思います。少々待たしてもらっても構いませんか?」
「どうぞ、お好きなように。昼飯を食べていきますか?」
「いえ、ご心配なく」
待つほどもなく、武道家の子が帰ってきた。
ひょろりと背が高く、日に焼けた顔も長い。
「今日はゲルグ王国の元勇者殿がお見えになっておる。お前も稽古をつけてもらうといい」
武道家が言うと、息子はのろのろと動いて木刀を持ってきた。本当は少しだけ動作が遅いだけなのだろうが、手足が長い分、余計にのろのろとしているように見える。
グルドフはこの子と剣を交えると言ったことを後悔した。
武道家の小さな道場では、小さな子供たちがきゃあきゃあ騒ぎながら木の棒を振っていた。
「ごめん下さいまし」
グルドフが入り口で呼びかけると、子供たちを相手にしていた武道家が来た。
子供たちはすぐにワーワー言って道場内を走り回り始めた。
「これ! お客人だ。静かにしていなさい」
武道家にたしなめられた子供たちは一瞬おとなしくなったが、またすぐに道場内を走り出した。
「おや、これはグルドフ殿ではあるまいか」
「覚えておいでですか。久しぶりでございます」
「おい、ばあさんに、客人が来たからお茶を入れるように言ってきてくれ」
武道家は近くを走っていた子供を捕まえて言った。
子供は返事をしてピューッと飛んでいった。
「何か御用で?」
武道家が上り口に腰かけたので、グルドフも隣に座った。
「それが・・・・」
グルドフは王様から頼まれたことと、元勇者の家に行ったことを話した。
「そうでありますか。ごらんの通りここは小さな子供たちしかおりませぬ。この国では、働ける年齢になると、皆、畑に出たり、家に籠って家業を行うようになり、剣術を学ぼうなどという者は一人もおりませぬ。ここの道場は忙しい親の代わりに、子供の面倒を見る託児所のようなものであります。ですから勇者になれそうな人物といわれましても、とんと当てはありませぬ」
「そうですか」
「私めも冒険に出なくなってから、こんな子供の相手ばかりで、剣の腕もすっかり錆びついてしまいましたわ」
「そうですか」
グルドフは剣術の修行のために旅をしているということは黙っておくことにした。
「あなた様にはご子息は?」
「息子はおります。幼い頃から私が剣術を教え込んできたので、今では私よりもよっぽど腕がたちます」
それを聞いて、グルドフの目がキラリーンと光った。
「ご子息は今、ご在宅で?」
「畑に行っております」
「畑?」
「息子は剣を振るよりも鍬を振るほうが好きでしてな。野菜作りに夢中になっております。道場はこのような状態でありますし、武道家を継ぐ気はまったくないようであります」
グルドフの瞳は急速に光を失っていった。
「農家になられると?」
「そのようですな」
グルドフは落胆したが、取りあえずその息子と剣を交えてみたいと思った。
「そろそろお昼になりますが、ご子息は家に戻られますか?」
「どうかな。どこぞの家で昼飯をご馳走になるときは夕方まで戻りませぬし、どこからも声がかからなければ昼は帰ってきます」
「ご子息の腕前を拝見したいと思います。少々待たしてもらっても構いませんか?」
「どうぞ、お好きなように。昼飯を食べていきますか?」
「いえ、ご心配なく」
待つほどもなく、武道家の子が帰ってきた。
ひょろりと背が高く、日に焼けた顔も長い。
「今日はゲルグ王国の元勇者殿がお見えになっておる。お前も稽古をつけてもらうといい」
武道家が言うと、息子はのろのろと動いて木刀を持ってきた。本当は少しだけ動作が遅いだけなのだろうが、手足が長い分、余計にのろのろとしているように見える。
グルドフはこの子と剣を交えると言ったことを後悔した。
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