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第四章
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ブルゼノたちは旅の支度を整え、南の国を目指して旅立った。
ジング王国は高い山脈に囲まれた広大な盆地にある。ブルゼノたちは二日かけて山脈を越え、アザム王国に入った。
それから数日を経てザジバルに到着した。
旅を経験しているパフラットとババロンは、旅の途中で出会う魔物との戦いも慣れたものだった。
べレストの数倍もあるザジバルの町は、町を囲む城壁の外側に堀を巡らせていた。町の中心にあるアザム王の城も、広くて深い二重の堀に囲まれた堅固な城だった。
「これはすごいなあ。マットアンの町も人が大勢いて賑やかだったけれど、こっちのほうがもっと賑やかかな」
ババロンが辺りをきょろきょろと見まわしながら言った。
「いよいよだ」
ブルゼノはリンという武道家に会うことをとても楽しみにしていた。半面、認められて無事に勇者の証を手に入れられるのだろうかという不安もあった。
パフラットはリンのことを少しばかり知っていた。
「マットアンの道場で話をしていて、よく名前が出てきたうちの一人です。身のこなしが素早く、相手の動きを読むことにも優れているので、並みの武道家では剣に触れることさえもできないという噂です。私も一度会ってみたいと思っていました」
パフラットは旅の途中でよくそんな話をした。もっと知っていることがありそうだったが、それ以上のことは言わなかった。
ブルゼノに先入観を持たせないためなのだろうと思った。
パフラットの道場とは比べ物にならないくらい大きくて新しい立派な建物だった。
「何だか足を踏み入れるのさえ怖い気がしますね」
ババロンが言った。
門から中に入ると、奥からカンカンカンという木刀を打ち合わす音や、いくつもの気合の入った掛け声が聞こえてきた。
声をかけながらブルゼノたちは奥へ進んだ。
すぐに一人の少年と美しい女性が出てきた。
ブルゼノが名前と来訪の目的を告げた。
「どうぞこちらへ」
女性に案内され、ブルゼノたちは玄関横の小さな応接室に入った。
椅子に腰かけた三人の前に、先ほどの女性がお盆にお茶を持って現れた。
「遠いところを、よくぞ参られました」
女性は三人の前のテーブルにお茶を置きながら言った。
ブルゼノは緊張した面持ちで身を固めていた。
その女性がブルゼノを見て微笑んだ。
「私がこの道場の主、リンです」
「え?」
ブルゼノは驚いて声を出した。
確かに先ほどからの身のこなしや体つきを見て、剣術をしているのだろうとは思っていたが、まさかこの若くて美しい女性が世に名の知られた武道家だとは思いもしなかった。
ブルゼノはパフラットを見た。
普段はそんな表情を見せたことのないパフラットが、笑いをかみ殺している。
パフラットは知っていたのだなと思った。
「私もあちこちに名前が知られ、様々な者が訪ねてくるようになりました。私が名を名乗ると、いきなり勝負だと言って剣を抜くような不届き者もいる始末で。そんなわけですぐに名乗らなかった無礼を許していただきたい」
「あなたは高名な武道家だと聞いていましたので、逞しい男の人だと思い込んでいました。ですから少しばかり驚きました」
リンはその言葉を聞いて微笑んだ。
「そなたのことはジング王から連絡を受けています。勇者になるということは国のため、民のために生きるということです。また、冒険者になれば命がけの日々を過ごさなければなりません。もちろんその覚悟あってここに来たのでしょうが、私もまた、未熟な者を勇者としておいそれと認めるわけにはいきません。すぐにジング王から預かった勇者の証を渡すことができればいいのですが、ことによったら何年も渡せないかもしれません。ご承知おきを。では、早速ですが、あなたたちの腕を見させていただきましょう」
そう言ってリンは立ち上がった。
ジング王国は高い山脈に囲まれた広大な盆地にある。ブルゼノたちは二日かけて山脈を越え、アザム王国に入った。
それから数日を経てザジバルに到着した。
旅を経験しているパフラットとババロンは、旅の途中で出会う魔物との戦いも慣れたものだった。
べレストの数倍もあるザジバルの町は、町を囲む城壁の外側に堀を巡らせていた。町の中心にあるアザム王の城も、広くて深い二重の堀に囲まれた堅固な城だった。
「これはすごいなあ。マットアンの町も人が大勢いて賑やかだったけれど、こっちのほうがもっと賑やかかな」
ババロンが辺りをきょろきょろと見まわしながら言った。
「いよいよだ」
ブルゼノはリンという武道家に会うことをとても楽しみにしていた。半面、認められて無事に勇者の証を手に入れられるのだろうかという不安もあった。
パフラットはリンのことを少しばかり知っていた。
「マットアンの道場で話をしていて、よく名前が出てきたうちの一人です。身のこなしが素早く、相手の動きを読むことにも優れているので、並みの武道家では剣に触れることさえもできないという噂です。私も一度会ってみたいと思っていました」
パフラットは旅の途中でよくそんな話をした。もっと知っていることがありそうだったが、それ以上のことは言わなかった。
ブルゼノに先入観を持たせないためなのだろうと思った。
パフラットの道場とは比べ物にならないくらい大きくて新しい立派な建物だった。
「何だか足を踏み入れるのさえ怖い気がしますね」
ババロンが言った。
門から中に入ると、奥からカンカンカンという木刀を打ち合わす音や、いくつもの気合の入った掛け声が聞こえてきた。
声をかけながらブルゼノたちは奥へ進んだ。
すぐに一人の少年と美しい女性が出てきた。
ブルゼノが名前と来訪の目的を告げた。
「どうぞこちらへ」
女性に案内され、ブルゼノたちは玄関横の小さな応接室に入った。
椅子に腰かけた三人の前に、先ほどの女性がお盆にお茶を持って現れた。
「遠いところを、よくぞ参られました」
女性は三人の前のテーブルにお茶を置きながら言った。
ブルゼノは緊張した面持ちで身を固めていた。
その女性がブルゼノを見て微笑んだ。
「私がこの道場の主、リンです」
「え?」
ブルゼノは驚いて声を出した。
確かに先ほどからの身のこなしや体つきを見て、剣術をしているのだろうとは思っていたが、まさかこの若くて美しい女性が世に名の知られた武道家だとは思いもしなかった。
ブルゼノはパフラットを見た。
普段はそんな表情を見せたことのないパフラットが、笑いをかみ殺している。
パフラットは知っていたのだなと思った。
「私もあちこちに名前が知られ、様々な者が訪ねてくるようになりました。私が名を名乗ると、いきなり勝負だと言って剣を抜くような不届き者もいる始末で。そんなわけですぐに名乗らなかった無礼を許していただきたい」
「あなたは高名な武道家だと聞いていましたので、逞しい男の人だと思い込んでいました。ですから少しばかり驚きました」
リンはその言葉を聞いて微笑んだ。
「そなたのことはジング王から連絡を受けています。勇者になるということは国のため、民のために生きるということです。また、冒険者になれば命がけの日々を過ごさなければなりません。もちろんその覚悟あってここに来たのでしょうが、私もまた、未熟な者を勇者としておいそれと認めるわけにはいきません。すぐにジング王から預かった勇者の証を渡すことができればいいのですが、ことによったら何年も渡せないかもしれません。ご承知おきを。では、早速ですが、あなたたちの腕を見させていただきましょう」
そう言ってリンは立ち上がった。
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