4 / 6
4
しおりを挟む
ある日の帰りの電車で、清佳は耐えきれなくなって、ついに親友の夏実に一連の事を話すことにした。彼女は中学時代からの友達で、今はクラスが違うがこうやって部活の無い日にはよく一緒に帰っていた。この時間はまだ帰宅ラッシュも始まっていなくて、座席に空きがあるくらいに電車はすいている。
とはいえ、この悩みを打ち明けることは、気心の知れた夏実相手でもかなり勇気のいる事だった。清佳は思い切るあまりに、声量を間違えた。
「私、どうしても痴漢に遭いたいんだけど、どうしたらいいだろう?」
電車の走る音以外は静かな車内で、女子高生の口から発せられた驚くべき言葉に、周囲は驚いて思わず彼女たちの方を見る。注目を集めている事に気づいて慌てたのは夏実の方で、彼女はしぃっと唇の前で人差し指を立てた。
「ちょっと、声の音量は下げて!」
「あ、ごめん!」
清佳は顔を真っ赤にしてうつむいた。夏実は隣に座る清佳にギリギリ聞こえる声量で、聞き返した。
「一体どういう事か、よくわからないんだけど? 遭いたくない、の間違いじゃないの?」
「夏実は、……ある?」
「痴漢? んー。一回だけ、遭ったことあるよ」
「うそぉ、夏実もあるの? この裏切り者ー!」
「なんでそうなるのよ。私は二度と嫌だよ。ちょっとお尻撫でられただけで、物凄い嫌悪感だったもん」
「今いるグループさ、何回痴漢に遭ったか、何をされたかでマウント取り合ってるの。ついに私が最後の一人、最底辺なの!」
「実際に遭わなくても、嘘つきゃいいじゃない。犯人捕まえたとかじゃない限り、誰がその自己申告を本当だと証明するの?」
「それは……。でも、私にも女のプライドがあるっていうか……」
「そんなプライドいらないって。遭わないで済むならそれでいいじゃない」
清佳は反論できずにうぅ、と言い淀み、口をつぐんだ。誰にも言えなかったモヤモヤはすっきりしたものの、何も解決はしていない。夏実の言っていることは確かに正しいけれど、正しい事などとっくに自問自答済みだ。その上で、清佳は痴漢に遭いたいと思っているのだ。
とはいえ、この悩みを打ち明けることは、気心の知れた夏実相手でもかなり勇気のいる事だった。清佳は思い切るあまりに、声量を間違えた。
「私、どうしても痴漢に遭いたいんだけど、どうしたらいいだろう?」
電車の走る音以外は静かな車内で、女子高生の口から発せられた驚くべき言葉に、周囲は驚いて思わず彼女たちの方を見る。注目を集めている事に気づいて慌てたのは夏実の方で、彼女はしぃっと唇の前で人差し指を立てた。
「ちょっと、声の音量は下げて!」
「あ、ごめん!」
清佳は顔を真っ赤にしてうつむいた。夏実は隣に座る清佳にギリギリ聞こえる声量で、聞き返した。
「一体どういう事か、よくわからないんだけど? 遭いたくない、の間違いじゃないの?」
「夏実は、……ある?」
「痴漢? んー。一回だけ、遭ったことあるよ」
「うそぉ、夏実もあるの? この裏切り者ー!」
「なんでそうなるのよ。私は二度と嫌だよ。ちょっとお尻撫でられただけで、物凄い嫌悪感だったもん」
「今いるグループさ、何回痴漢に遭ったか、何をされたかでマウント取り合ってるの。ついに私が最後の一人、最底辺なの!」
「実際に遭わなくても、嘘つきゃいいじゃない。犯人捕まえたとかじゃない限り、誰がその自己申告を本当だと証明するの?」
「それは……。でも、私にも女のプライドがあるっていうか……」
「そんなプライドいらないって。遭わないで済むならそれでいいじゃない」
清佳は反論できずにうぅ、と言い淀み、口をつぐんだ。誰にも言えなかったモヤモヤはすっきりしたものの、何も解決はしていない。夏実の言っていることは確かに正しいけれど、正しい事などとっくに自問自答済みだ。その上で、清佳は痴漢に遭いたいと思っているのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる