その女子高生は痴漢されたい

冲田

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 ある日の帰りの電車で、清佳は耐えきれなくなって、ついに親友の夏実に一連の事を話すことにした。彼女は中学時代からの友達で、今はクラスが違うがこうやって部活の無い日にはよく一緒に帰っていた。この時間はまだ帰宅ラッシュも始まっていなくて、座席に空きがあるくらいに電車はすいている。
 とはいえ、この悩みを打ち明けることは、気心の知れた夏実相手でもかなり勇気のいる事だった。清佳は思い切るあまりに、声量を間違えた。

「私、どうしても痴漢に遭いたいんだけど、どうしたらいいだろう?」

 電車の走る音以外は静かな車内で、女子高生の口から発せられた驚くべき言葉に、周囲は驚いて思わず彼女たちの方を見る。注目を集めている事に気づいて慌てたのは夏実の方で、彼女はしぃっと唇の前で人差し指を立てた。

「ちょっと、声の音量は下げて!」

「あ、ごめん!」

 清佳は顔を真っ赤にしてうつむいた。夏実は隣に座る清佳にギリギリ聞こえる声量で、聞き返した。

「一体どういう事か、よくわからないんだけど? 遭いたくない、の間違いじゃないの?」

「夏実は、……ある?」

「痴漢? んー。一回だけ、遭ったことあるよ」

「うそぉ、夏実もあるの? この裏切り者ー!」

「なんでそうなるのよ。私は二度と嫌だよ。ちょっとお尻撫でられただけで、物凄い嫌悪感だったもん」

「今いるグループさ、何回痴漢に遭ったか、何をされたかでマウント取り合ってるの。ついに私が最後の一人、最底辺なの!」

「実際に遭わなくても、嘘つきゃいいじゃない。犯人捕まえたとかじゃない限り、誰がその自己申告を本当だと証明するの?」

「それは……。でも、私にも女のプライドがあるっていうか……」

「そんなプライドいらないって。遭わないで済むならそれでいいじゃない」

 清佳は反論できずにうぅ、と言い淀み、口をつぐんだ。誰にも言えなかったモヤモヤはすっきりしたものの、何も解決はしていない。夏実の言っていることは確かに正しいけれど、正しい事などとっくに自問自答済みだ。その上で、清佳は痴漢に遭いたいと思っているのだ。

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