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第二章 拡がりゆく世界
第34話 ペテロの帰還
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ペテロだ。
ヨハネの心に衝撃が走った。ヨハネは馬車の側から離れるわけにはいかなかったが、夢中で手を振り返した。
そのうちハシケは桟橋にたどり着き、その若者は、縦長の背嚢を背負いなおすとヨハネに向かって大股で走ってきた。そしてヨハネに肩で思い切り体当たりをした。ヨハネは吹き飛ばされて仰向けに倒れた。その上からその男はヨハネを満面の笑みで覗き込んだ。
「よお! 久しぶりだな! 半年ぶりか!」
金髪に茶色の目、そして平らな顔。すっかり日焼けして別人のようになっていたが、間違いなくペテロだった。
ヨハネは仰向けのまま下から思いっきりペテロの股間を右足で蹴り上げた。ペテロはとっさに股間をかばおうと足をすぼめたが足の先が急所に当たった。呻うめき声を上げてペテロがしゃがみ込むと、ヨハネは背中をさすりながら起きあがり、叫んだ。
「ほら、立て!」
ペテロは股間を押さえながら立ち上がると、しばらくヨハネを睨んでいたが、破顔一笑すると、大声でヨハネに笑いかけた。
「元気だったが!」
二人は肩を抱き合って再会を喜んだ。
「どうしたんだ、これ。この古い箱馬車!」
ペテロは馬車を見て大声で言った。彼は船の上にいたせいか声の大きさの加減ができなくなっていた。
「カピタンから借りてきた馬車だよ。お前を迎えに来るために借りたんだ。荷物もあるだろ」
「よく借りられたな!」
「頼み込んだんだ。そしたら一番古いのなら使ってもいいってさ」
「ほんとかよ! これはすごいな。早速行こうぜ。みやげ話は山ほどあるんだ」
「その背嚢を中に入れてしまえよ」
ヨハネが箱馬車の扉を開けると、大きな音がして扉は外れてしまった。蝶番が腐っていたのだ。
「ははっ、ほんとボロだな。これ昔、カピタンが使ってたのだろ? まだあったのか」
「そうだよ。その背嚢、渡せよ。中に入れてしまおう」
ヨハネがペテロの背嚢をひったくるとその背嚢は異常な臭いを放っていた。
「これ何が入っているんだ?」
ヨハネが背嚢の口を開けた。中から黒カビと汗の臭いが噴き出して彼は咳き込んだ。
「なんだこれ! 何入れたんだよ」
「ははっ、洗濯もんだ。船じゃ洗濯なんかできないからな!」
「これ腐ってるだろ。もう着られないぞ」
「大丈夫さ。灰をぶっ掛けて桶の水に一日漬けとときゃ、なんとでもなる。さあ、早く商館に帰ってカピタンに報告だ。俺は斥候に行ってきたんだからな。報告をしなくちゃならない」
「分かった。急ごう」
ヨハネは御者台に上がり、ペテロは背嚢と取れてしまった扉を持って箱馬車の中に入った。
ヨハネが馬に一鞭を与えると、老馬はまた苦しそうに走り出した。
ヨハネの心に衝撃が走った。ヨハネは馬車の側から離れるわけにはいかなかったが、夢中で手を振り返した。
そのうちハシケは桟橋にたどり着き、その若者は、縦長の背嚢を背負いなおすとヨハネに向かって大股で走ってきた。そしてヨハネに肩で思い切り体当たりをした。ヨハネは吹き飛ばされて仰向けに倒れた。その上からその男はヨハネを満面の笑みで覗き込んだ。
「よお! 久しぶりだな! 半年ぶりか!」
金髪に茶色の目、そして平らな顔。すっかり日焼けして別人のようになっていたが、間違いなくペテロだった。
ヨハネは仰向けのまま下から思いっきりペテロの股間を右足で蹴り上げた。ペテロはとっさに股間をかばおうと足をすぼめたが足の先が急所に当たった。呻うめき声を上げてペテロがしゃがみ込むと、ヨハネは背中をさすりながら起きあがり、叫んだ。
「ほら、立て!」
ペテロは股間を押さえながら立ち上がると、しばらくヨハネを睨んでいたが、破顔一笑すると、大声でヨハネに笑いかけた。
「元気だったが!」
二人は肩を抱き合って再会を喜んだ。
「どうしたんだ、これ。この古い箱馬車!」
ペテロは馬車を見て大声で言った。彼は船の上にいたせいか声の大きさの加減ができなくなっていた。
「カピタンから借りてきた馬車だよ。お前を迎えに来るために借りたんだ。荷物もあるだろ」
「よく借りられたな!」
「頼み込んだんだ。そしたら一番古いのなら使ってもいいってさ」
「ほんとかよ! これはすごいな。早速行こうぜ。みやげ話は山ほどあるんだ」
「その背嚢を中に入れてしまえよ」
ヨハネが箱馬車の扉を開けると、大きな音がして扉は外れてしまった。蝶番が腐っていたのだ。
「ははっ、ほんとボロだな。これ昔、カピタンが使ってたのだろ? まだあったのか」
「そうだよ。その背嚢、渡せよ。中に入れてしまおう」
ヨハネがペテロの背嚢をひったくるとその背嚢は異常な臭いを放っていた。
「これ何が入っているんだ?」
ヨハネが背嚢の口を開けた。中から黒カビと汗の臭いが噴き出して彼は咳き込んだ。
「なんだこれ! 何入れたんだよ」
「ははっ、洗濯もんだ。船じゃ洗濯なんかできないからな!」
「これ腐ってるだろ。もう着られないぞ」
「大丈夫さ。灰をぶっ掛けて桶の水に一日漬けとときゃ、なんとでもなる。さあ、早く商館に帰ってカピタンに報告だ。俺は斥候に行ってきたんだからな。報告をしなくちゃならない」
「分かった。急ごう」
ヨハネは御者台に上がり、ペテロは背嚢と取れてしまった扉を持って箱馬車の中に入った。
ヨハネが馬に一鞭を与えると、老馬はまた苦しそうに走り出した。
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