4 / 106
第一章 奴隷たちの島々
第1話 奴隷市場
しおりを挟む
「さあ! みなさん! お待ちかね! 女奴隷の時間だよ!」
背が高く固太りの女競売人が、手鐘を手にして声を張り上げた。
すり鉢型の奴隷市場に押し掛けた何百の善男善女は一斉にどよめいた。舞台に向かって左奥から、乳房も露わな女たちが短い腰布一枚で出てくると、最前列に座って顔を伏せていた奴隷仲買人たちは、一斉に身を乗り出して、血走った眼で品定めを始めた。
「まずは前菜! 食前酒! ワクワクの女奴隷たち! 年は下が15齢から上は20齢。1人500万ジェンからだ!」
女競売人は独特の節を付けて商品の説明をした。ワクワクと呼ばれた茶色い肌の女奴隷たちは、一様に胴長短足で、長い黒髪を背中に垂らしていた。みな皮の首輪をはめられ、それに繋げられた細い鎖で隣どうし数珠つなぎにされていた。彼女らの表情は石のように固く、目は伏し目で、下唇を咬んでいた。少しでも乳房を隠そうと背中を曲げ、腕を胸の前で組んでいた。みな識別のため、左腕にアルファベットの札を付けられていた。
「さあ! さあ!若くて健康なワクワク女が20人! 雑食、頑丈、従順と、奴隷にすればこの上なし。底値のたった500万ジェン! まとめ買いにはよい機会!」
女競売人の怒鳴り声が裏返り、かすれ始めた。
「ワクワクの女なんて見たくない!」
観客席の誰かが大声で叫ぶと、観客の大爆笑が起こり、奴隷市場の空気は割れんばかりにビリビリと震えた。
女競売人はイライラしたのか、半長靴の踵をカツカツ鳴らしながら、女奴隷たちに向かって怒鳴った。
「おい、お前ら、乳を隠すな! 胸を張れ! お客様方によく見てもらいな!」
女奴隷たちはノロノロと手を腰の後ろで組み、乳房が客によく見えるように胸を突き出した。
「全員を1億ジェンで」
左頬に大きな傷のある仲買人の一人が右手を大きく上げ、よく通る低い声で叫んだ。
その仲買人は異様な風体をしていた。
奴隷商人に多い、白い肌に太った赤ら顔の中年男ではなかった。中肉中背の引き締まった体、赤毛を短く刈り込んだ頭、青い目から飛ばされる鋭い眼光、そして何よりも人目を引いたのは、船綱の結び目のように強く縛ってある上着の左袖だった。
彼には左腕がなかったのだ。
背が高く固太りの女競売人が、手鐘を手にして声を張り上げた。
すり鉢型の奴隷市場に押し掛けた何百の善男善女は一斉にどよめいた。舞台に向かって左奥から、乳房も露わな女たちが短い腰布一枚で出てくると、最前列に座って顔を伏せていた奴隷仲買人たちは、一斉に身を乗り出して、血走った眼で品定めを始めた。
「まずは前菜! 食前酒! ワクワクの女奴隷たち! 年は下が15齢から上は20齢。1人500万ジェンからだ!」
女競売人は独特の節を付けて商品の説明をした。ワクワクと呼ばれた茶色い肌の女奴隷たちは、一様に胴長短足で、長い黒髪を背中に垂らしていた。みな皮の首輪をはめられ、それに繋げられた細い鎖で隣どうし数珠つなぎにされていた。彼女らの表情は石のように固く、目は伏し目で、下唇を咬んでいた。少しでも乳房を隠そうと背中を曲げ、腕を胸の前で組んでいた。みな識別のため、左腕にアルファベットの札を付けられていた。
「さあ! さあ!若くて健康なワクワク女が20人! 雑食、頑丈、従順と、奴隷にすればこの上なし。底値のたった500万ジェン! まとめ買いにはよい機会!」
女競売人の怒鳴り声が裏返り、かすれ始めた。
「ワクワクの女なんて見たくない!」
観客席の誰かが大声で叫ぶと、観客の大爆笑が起こり、奴隷市場の空気は割れんばかりにビリビリと震えた。
女競売人はイライラしたのか、半長靴の踵をカツカツ鳴らしながら、女奴隷たちに向かって怒鳴った。
「おい、お前ら、乳を隠すな! 胸を張れ! お客様方によく見てもらいな!」
女奴隷たちはノロノロと手を腰の後ろで組み、乳房が客によく見えるように胸を突き出した。
「全員を1億ジェンで」
左頬に大きな傷のある仲買人の一人が右手を大きく上げ、よく通る低い声で叫んだ。
その仲買人は異様な風体をしていた。
奴隷商人に多い、白い肌に太った赤ら顔の中年男ではなかった。中肉中背の引き締まった体、赤毛を短く刈り込んだ頭、青い目から飛ばされる鋭い眼光、そして何よりも人目を引いたのは、船綱の結び目のように強く縛ってある上着の左袖だった。
彼には左腕がなかったのだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
戦国ニート~さくは弥三郎の天下一統の志を信じるか~
ちんぽまんこのお年頃
歴史・時代
戦国時代にもニートがいた!駄目人間・甲斐性無しの若殿・弥三郎の教育係に抜擢されたさく。ところが弥三郎は性的な欲求をさくにぶつけ・・・・。叱咤激励しながら弥三郎を鍛え上げるさく。廃嫡の話が持ち上がる中、迎える初陣。敵はこちらの2倍の大軍勢。絶体絶命の危機をさくと弥三郎は如何に乗り越えるのか。実在した戦国ニートのサクセスストーリー開幕。
偽典尼子軍記
卦位
歴史・時代
何故に滅んだ。また滅ぶのか。やるしかない、機会を与えられたのだから。
戦国時代、出雲の国を本拠に山陰山陽十一カ国のうち、八カ国の守護を兼任し、当時の中国地方随一の大大名となった尼子家。しかしその栄華は長続きせず尼子義久の代で毛利家に滅ぼされる。その義久に生まれ変わったある男の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる