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第三章 騎士の未来
55.騎士の再就職
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深い闇の中に宝石が浮いて輝いている。それは手を伸ばせば届きそうに見えて、遥か遠くにあるようにも見える。
目を覚ましたデレクは、まゆ型のボートの中で、まだ呆然としていた。腰から上は透明なガラスに覆われ、外の様子が三百六十度見られるようになっている。
どこを見ても、同じ景色で、底知れない闇の中に無数の宝石が輝き、ボードの進む先は吸い込まれそうな闇ばかりが続く。
一瞬、進んでいるのかそれとも、後ろ向きに進んでいるのかわからなくなる。
「ラーシア、ラーシア」
くつろいだ様子で隣で眠っているラーシアを揺り起こす。
「どうした?もう着いたか?」
うっすらと目を開けたラーシアは、デレクの顔を見上げてほっとしたように微笑む。
「デレク、起きたのか。大丈夫か?気分は?」
「いや、気分は、ちょっとよくわからないが、ここはどこだ?竜の国か?陸地が見えないが、これは海の底か?」
「逆だな」
ラーシアは体を起こし、また腕を伸ばして何かに触れる。
ベルトが消え、デレクは体を起こした。
今度は座席が緩やかに後ろに倒れ、平らなマットになる。
ラーシアは完全に仰向けになって、天井をみあげた。
その隣にデレクも横たわる。
透明なガラス越しに宝石を散りばめた闇を見上げ、デレクはようやく気が付いた。
「空だ!俺達は星空の中にいる……」
言い当てたのに、デレクの声はすぐに萎んでしまった。
声に出しながらも全く確信が持てなかったのだ。
「そうだ。私たちは星空の中だ。ここまで来たからには私は君に真実を話すことが出来る。
信じられない話だと思うが、聞いてくれるか?」
「どんな信じられない話でも今なら信じるさ、なにせ信じられない光景を見ているんだからな……」
デレクは国から持ってきた騎士の唯一の武器である剣の柄に触れ、脱力した。
こんなものはこの世界では何の役にも立ちそうにない。
ラーシアは静かに話し始めた。
「私は南の国の出身だと言ったが、それは嘘だ。
私はとある星から来た。私の星の人間は全員が思念を読める。
それは便利なことではあるが、煩わしさも生むものだ。
私達は次第に距離を置くようになった。だけど孤独が好きなわけじゃない。
同族ではないが、同じような思念を読む力を持ったものや、一緒に暮らすことのできる種族を探し始めたんだ。
思念が読めるというのは嫌がられるものだ。どこの星でも、どこの国でもね。
私達も恐れられ、嫌われ、迫害されるのは好きじゃない。
一番有力な場所はね、魔法がある星だ。
魔力がある星の人々は不思議なことに耐性がある。魔力使いが多い星であれば、私達も魔法使いといった職業になれば目立たず生きていけることもある。
君の国に落ちたのはそうした国を探している同族の男だった。
ちょっとした船のトラブルで不時着してね、村を一つ焼いてしまった。
君の国の人達には本当に悪いことをした。数百人が死んでしまった。
しかも私たちは他の星に行くときには慎重にしなければならない。それは宇宙で拾ってしまった未知の生命体や、物質などが他の星を破壊してしまう恐れがあるからだ。
君たちの星に不時着してしまった同族、あの預言者のことだ。
彼は船が壊れ、しかもバレア国の国土を汚染し、さらに人まで殺した。
その生態系を壊さず、彼らの文化を尊重しひっそりそこに馴染むべきなのに、かなり大きな事件を起こしてしまった。
彼は緊急脱出ポッドを使ってあの生贄の山の山頂に逃げたが、救助要請の信号を出した瞬間、迎えがこの星でいうと十年後になると知った。
そこで緊急脱出ポッドを石の椅子に擬態させ、山を下りた。
とにかく彼は君の国で安全に十年生きなければならない。さらにこのしでかしたことの後始末をする必要に迫られた。
汚染された場所を探し、そこを立ち入り禁止区域にしなければ、魔力のある星ではどんな変化がおきるかわからない。十年待つ間に悪い物がはびこって生き残れなくなるかもしれないしね。
彼は君たちの国を気に入っていろいろ調べている最中だったから、おとぎ話にあった竜の話を利用することにした。
なにせ一人で出来る仕事じゃないからね。君たちの国の協力が必要だ。
偉い人にとりいって預言者という立場になった。預言者という立場を貫いたまま、汚染を除去してあるいは除去できないものは悪い物に変化しないか監視を続けなければならない。
となれば十年では帰れない。竜も実際に現れてくれないと預言者の能力を疑われてしまう。
身を売らなければならないような、貧しい村の娘を住人名簿から見つけて生贄にすることを思いついた。
入れ替わりが起きたのは偶然だ。彼が確認を怠った。
彼は二、三回生贄の儀式を続けながら協力者を待つことにした。
逃げ出さなかった点だけは立派だった。この星がどうなっても良ければ彼は一人で帰れた。
さて、私はそうした救難信号を受け取って対応する仕事をしていた。
とにかく人手不足で他の星に行っていたんだ。戻ってきてみて驚いたよ。
避難ゲートに十三人も女の子たちが眠っていたんだ。
休眠ポッドで運ばれてきたままね。
定期的に発信される救助要請に対し自動で応答を続けていたわけだ。
基地に残っているのは私だけでね、思考出来るアンドロイドがいなかった。
アンドロイド達は事務的に届いたものを処理して保管していた。
一体何が起きているのかと緊急避難信号を調べたら君の星からだった。
預言者は思念が読めることが公になっていたものだから、人々に恐れられ迫害されることも心配で、なかなか生贄の山に登れなくなっていた。さらに汚染された土地の監視もある。
その星の生態系や健全な文化の成長を妨げず、私たちはその国に馴染み、ひそかに潜入する。
仕事は山ほどあったが、とにかく私がようやくバレア国に向かうことになった。
南の島に昔仲間達が君の星に遊びに行った時の着陸履歴が残っていた。
その座標を元に島におり、君たちの星の文化にあわせ、船の外観を変化させ、南の国に近づいた。
最初にシタ村のシーアの母親に会えたのは幸運だった。
すぐに生贄の話が聞けた。竜がいるような星ではなかったからすぐに怪しいと気が付いた。
しかも絵本の竜はかなりおとぎ話の要素が強い。
これは何かを隠蔽するために同族が企んだ結果ではないかと考えた。
しかしその竜というものがこの国の人々にどんな影響を与えているのか調べる必要がある。
王都にまずは向かい、その情報を調べ上げた。
君を見つけたのは騎士達を調べていたからだ。
あの国では騎士が体内を走る血液のように重要な役割を果たす。
君なら私を預言者の所と生贄の山に連れていってくれると確信した。
ヒューだったら無理だっただろうな。彼は情より使命を優先する。なかなか優秀な人材だ。
もちろん、デレク、君が優秀な騎士ではなかったから目を付けたわけじゃない。
ただ一人、あの国で正しい良心を持っている人間だと感じたんだ。
捻じ曲げられてしまった価値感の中で、君はただ真っすぐで人の心に正直だった。
ケティアのことも含めてね。あとは君が目で見た通りだ。
私は出来る限り自然な流れになるように道筋を立て、預言者にようやく会うことが出来た。
君の星をこれ以上捻じ曲げず、どうやってこの事態を収束させるか話し合った。
竜をでっちあげたからには竜にはきれいに消えてもらう必要がある。
理由が必要だし、人々の心を正しい位置に戻す必要もある。
いろいろこじつけたり、不自然な個所も多くなったけどね。
君を騙すのは本当に辛かった……。でも竜の花嫁になったと知れば、君は私を諦めてくれると思ったんだ。
あの国は良い国で、これからもっと発展して美しい国になる。
私のせいで、君の人生を狂わせてしまう。私たちは他の星をかき回したいわけじゃない。
まさか、君の愛がこんなに深いものだとは思いもしなかった」
「リジーは?君の娘は?!」
呆然と聞いていたデレクは叫んだ。
話の内容はほとんど理解出来なかったが、全てが仕組まれたことだというなら、リジーの死はどうなのか。
デレクは自分の娘が失われたように心を痛めたのだ。
「あれは……。君たちの国の伝説を参考に私が作った人工生命体だ。
リジーの本当の名前はND0042番だ。
でもリジーという名前は気に入ったな。作るのは本気で大変だったから、失った時は悲しかった。あれのせいで五年もかかった。だけどコアは回収できたから再生は可能だ。
竜の姿を誰も見たことがないのに、一目で竜とわかるように作らないといけなかった。
愛されるように猫の顔も参考にした。
リジーには預言者が不時着した時にばら撒いてしまった汚染物質を処理する機能を付けていた。だいたい二万度の熱で焼き殺す。
他の星の生命体が君たちの星の魔力と結びつき、未知のそれこそ竜のような化け物を生むかもしれない。預言者は最低限の封印をほどこし、人があまり近づかないように呪いだと言って人々を遠ざけた。
教会で清めと浄化があっただろう?あれは意外と効果がある。汚染物質を除去するための魔法を君の星の研究者たちに作らせた。
竜花もあれは汚染された奇形種で、観光資源にするから他では生やさないようにしていたのではなく、危険だから穴の中に隠した。
植物学者に研究させていたのは変化の様子をみるためだ。魔力を付着しやすく変化もしやすい。毒ではあるが、解毒が出来るようになれば安心だ。あれはもともと君たちの星にある種から生まれたものだから、扱いを考えればあの星に残ってもいいものだ」
ラーシアの説明は難解過ぎた。顔をしかめっぱなしのデレクの上に覆いかぶさり、ラーシアはデレクの目を覗き込む。
「デレク、言っただろう?私たちは孤独な種だ。一緒に暮らせる誰かを探している。
でも私はほとんど諦めていた。一人の方が気楽だし、喧嘩別れして嫌な思いをするぐらいなら最初から一人でいると決めておいた方が楽だ。
でも、君を見つけた。デレク、これからもずっと一緒にいてくれるか?私と一緒に」
デレクはラーシアの顔を見上げ、困ったような顔をした。
「ラーシア、もちろん一緒にいるが……。というか、ラーシア、一つだけ約束してくれないか?俺を置いてどこにも行かないと。
竜の世界ではまだ生きていける気がしていたが、ここでは、なんというか立っていられる気もしない。君に置いていかれたら俺はどうなるのか、さっぱりわからない」
不安でいっぱいのデレクの頬に口づけし、ラーシアは囁いた。
「もちろんだ。それに、君がこの広い宇宙でも一人で立派に生きていけるようにこれから私がみっちり教育する。
言っただろう?私たちは常に人手不足なんだ。
また百年以上もどこかで同族を待たせて、他の星に迷惑をかけないように、人を雇う必要がある。
デレク、君が私達の星の求人に応募してくれると助かるよ」
「俺で役に立つのか?」
半信半疑のデレクに、ラーシアは微笑んだ。
「ああ、誰かと一緒に働けるなんて、最高にうれしいよ」
熱く口づけを交わしながら、二人は抱き合い、夜空の下で転がった。
デレクが上に来る。
「よくわからないが、俺達の間に余計な男はいないのだな?」
ラーシアが大きく頷いた。
ほっとしたデレクがラーシアの体を強く抱きしめた時、ラーシアが「あっ!」と大きな声を出した。
「どうした?!」
「しまった。君の星に忘れ物をしてきてしまった……困ったな。また何か考えないといけないな……」
もう二度と戻らないとあれだけ念を押したのに、もう戻るのかと、デレクの方が呆れた顔をして、ラーシアを見おろした。
ラーシアも困ったように笑う。
「な?そういうことなんだよ。どうしてもさ、完璧な仕事っていうのは難しいものだ」
他の星に迷惑はかけたくないが、多少の失敗はあるものだ。
そんなことでは、神さえ失敗することがあるのだろうなと、デレクはぼんやりと考えた。
目を覚ましたデレクは、まゆ型のボートの中で、まだ呆然としていた。腰から上は透明なガラスに覆われ、外の様子が三百六十度見られるようになっている。
どこを見ても、同じ景色で、底知れない闇の中に無数の宝石が輝き、ボードの進む先は吸い込まれそうな闇ばかりが続く。
一瞬、進んでいるのかそれとも、後ろ向きに進んでいるのかわからなくなる。
「ラーシア、ラーシア」
くつろいだ様子で隣で眠っているラーシアを揺り起こす。
「どうした?もう着いたか?」
うっすらと目を開けたラーシアは、デレクの顔を見上げてほっとしたように微笑む。
「デレク、起きたのか。大丈夫か?気分は?」
「いや、気分は、ちょっとよくわからないが、ここはどこだ?竜の国か?陸地が見えないが、これは海の底か?」
「逆だな」
ラーシアは体を起こし、また腕を伸ばして何かに触れる。
ベルトが消え、デレクは体を起こした。
今度は座席が緩やかに後ろに倒れ、平らなマットになる。
ラーシアは完全に仰向けになって、天井をみあげた。
その隣にデレクも横たわる。
透明なガラス越しに宝石を散りばめた闇を見上げ、デレクはようやく気が付いた。
「空だ!俺達は星空の中にいる……」
言い当てたのに、デレクの声はすぐに萎んでしまった。
声に出しながらも全く確信が持てなかったのだ。
「そうだ。私たちは星空の中だ。ここまで来たからには私は君に真実を話すことが出来る。
信じられない話だと思うが、聞いてくれるか?」
「どんな信じられない話でも今なら信じるさ、なにせ信じられない光景を見ているんだからな……」
デレクは国から持ってきた騎士の唯一の武器である剣の柄に触れ、脱力した。
こんなものはこの世界では何の役にも立ちそうにない。
ラーシアは静かに話し始めた。
「私は南の国の出身だと言ったが、それは嘘だ。
私はとある星から来た。私の星の人間は全員が思念を読める。
それは便利なことではあるが、煩わしさも生むものだ。
私達は次第に距離を置くようになった。だけど孤独が好きなわけじゃない。
同族ではないが、同じような思念を読む力を持ったものや、一緒に暮らすことのできる種族を探し始めたんだ。
思念が読めるというのは嫌がられるものだ。どこの星でも、どこの国でもね。
私達も恐れられ、嫌われ、迫害されるのは好きじゃない。
一番有力な場所はね、魔法がある星だ。
魔力がある星の人々は不思議なことに耐性がある。魔力使いが多い星であれば、私達も魔法使いといった職業になれば目立たず生きていけることもある。
君の国に落ちたのはそうした国を探している同族の男だった。
ちょっとした船のトラブルで不時着してね、村を一つ焼いてしまった。
君の国の人達には本当に悪いことをした。数百人が死んでしまった。
しかも私たちは他の星に行くときには慎重にしなければならない。それは宇宙で拾ってしまった未知の生命体や、物質などが他の星を破壊してしまう恐れがあるからだ。
君たちの星に不時着してしまった同族、あの預言者のことだ。
彼は船が壊れ、しかもバレア国の国土を汚染し、さらに人まで殺した。
その生態系を壊さず、彼らの文化を尊重しひっそりそこに馴染むべきなのに、かなり大きな事件を起こしてしまった。
彼は緊急脱出ポッドを使ってあの生贄の山の山頂に逃げたが、救助要請の信号を出した瞬間、迎えがこの星でいうと十年後になると知った。
そこで緊急脱出ポッドを石の椅子に擬態させ、山を下りた。
とにかく彼は君の国で安全に十年生きなければならない。さらにこのしでかしたことの後始末をする必要に迫られた。
汚染された場所を探し、そこを立ち入り禁止区域にしなければ、魔力のある星ではどんな変化がおきるかわからない。十年待つ間に悪い物がはびこって生き残れなくなるかもしれないしね。
彼は君たちの国を気に入っていろいろ調べている最中だったから、おとぎ話にあった竜の話を利用することにした。
なにせ一人で出来る仕事じゃないからね。君たちの国の協力が必要だ。
偉い人にとりいって預言者という立場になった。預言者という立場を貫いたまま、汚染を除去してあるいは除去できないものは悪い物に変化しないか監視を続けなければならない。
となれば十年では帰れない。竜も実際に現れてくれないと預言者の能力を疑われてしまう。
身を売らなければならないような、貧しい村の娘を住人名簿から見つけて生贄にすることを思いついた。
入れ替わりが起きたのは偶然だ。彼が確認を怠った。
彼は二、三回生贄の儀式を続けながら協力者を待つことにした。
逃げ出さなかった点だけは立派だった。この星がどうなっても良ければ彼は一人で帰れた。
さて、私はそうした救難信号を受け取って対応する仕事をしていた。
とにかく人手不足で他の星に行っていたんだ。戻ってきてみて驚いたよ。
避難ゲートに十三人も女の子たちが眠っていたんだ。
休眠ポッドで運ばれてきたままね。
定期的に発信される救助要請に対し自動で応答を続けていたわけだ。
基地に残っているのは私だけでね、思考出来るアンドロイドがいなかった。
アンドロイド達は事務的に届いたものを処理して保管していた。
一体何が起きているのかと緊急避難信号を調べたら君の星からだった。
預言者は思念が読めることが公になっていたものだから、人々に恐れられ迫害されることも心配で、なかなか生贄の山に登れなくなっていた。さらに汚染された土地の監視もある。
その星の生態系や健全な文化の成長を妨げず、私たちはその国に馴染み、ひそかに潜入する。
仕事は山ほどあったが、とにかく私がようやくバレア国に向かうことになった。
南の島に昔仲間達が君の星に遊びに行った時の着陸履歴が残っていた。
その座標を元に島におり、君たちの星の文化にあわせ、船の外観を変化させ、南の国に近づいた。
最初にシタ村のシーアの母親に会えたのは幸運だった。
すぐに生贄の話が聞けた。竜がいるような星ではなかったからすぐに怪しいと気が付いた。
しかも絵本の竜はかなりおとぎ話の要素が強い。
これは何かを隠蔽するために同族が企んだ結果ではないかと考えた。
しかしその竜というものがこの国の人々にどんな影響を与えているのか調べる必要がある。
王都にまずは向かい、その情報を調べ上げた。
君を見つけたのは騎士達を調べていたからだ。
あの国では騎士が体内を走る血液のように重要な役割を果たす。
君なら私を預言者の所と生贄の山に連れていってくれると確信した。
ヒューだったら無理だっただろうな。彼は情より使命を優先する。なかなか優秀な人材だ。
もちろん、デレク、君が優秀な騎士ではなかったから目を付けたわけじゃない。
ただ一人、あの国で正しい良心を持っている人間だと感じたんだ。
捻じ曲げられてしまった価値感の中で、君はただ真っすぐで人の心に正直だった。
ケティアのことも含めてね。あとは君が目で見た通りだ。
私は出来る限り自然な流れになるように道筋を立て、預言者にようやく会うことが出来た。
君の星をこれ以上捻じ曲げず、どうやってこの事態を収束させるか話し合った。
竜をでっちあげたからには竜にはきれいに消えてもらう必要がある。
理由が必要だし、人々の心を正しい位置に戻す必要もある。
いろいろこじつけたり、不自然な個所も多くなったけどね。
君を騙すのは本当に辛かった……。でも竜の花嫁になったと知れば、君は私を諦めてくれると思ったんだ。
あの国は良い国で、これからもっと発展して美しい国になる。
私のせいで、君の人生を狂わせてしまう。私たちは他の星をかき回したいわけじゃない。
まさか、君の愛がこんなに深いものだとは思いもしなかった」
「リジーは?君の娘は?!」
呆然と聞いていたデレクは叫んだ。
話の内容はほとんど理解出来なかったが、全てが仕組まれたことだというなら、リジーの死はどうなのか。
デレクは自分の娘が失われたように心を痛めたのだ。
「あれは……。君たちの国の伝説を参考に私が作った人工生命体だ。
リジーの本当の名前はND0042番だ。
でもリジーという名前は気に入ったな。作るのは本気で大変だったから、失った時は悲しかった。あれのせいで五年もかかった。だけどコアは回収できたから再生は可能だ。
竜の姿を誰も見たことがないのに、一目で竜とわかるように作らないといけなかった。
愛されるように猫の顔も参考にした。
リジーには預言者が不時着した時にばら撒いてしまった汚染物質を処理する機能を付けていた。だいたい二万度の熱で焼き殺す。
他の星の生命体が君たちの星の魔力と結びつき、未知のそれこそ竜のような化け物を生むかもしれない。預言者は最低限の封印をほどこし、人があまり近づかないように呪いだと言って人々を遠ざけた。
教会で清めと浄化があっただろう?あれは意外と効果がある。汚染物質を除去するための魔法を君の星の研究者たちに作らせた。
竜花もあれは汚染された奇形種で、観光資源にするから他では生やさないようにしていたのではなく、危険だから穴の中に隠した。
植物学者に研究させていたのは変化の様子をみるためだ。魔力を付着しやすく変化もしやすい。毒ではあるが、解毒が出来るようになれば安心だ。あれはもともと君たちの星にある種から生まれたものだから、扱いを考えればあの星に残ってもいいものだ」
ラーシアの説明は難解過ぎた。顔をしかめっぱなしのデレクの上に覆いかぶさり、ラーシアはデレクの目を覗き込む。
「デレク、言っただろう?私たちは孤独な種だ。一緒に暮らせる誰かを探している。
でも私はほとんど諦めていた。一人の方が気楽だし、喧嘩別れして嫌な思いをするぐらいなら最初から一人でいると決めておいた方が楽だ。
でも、君を見つけた。デレク、これからもずっと一緒にいてくれるか?私と一緒に」
デレクはラーシアの顔を見上げ、困ったような顔をした。
「ラーシア、もちろん一緒にいるが……。というか、ラーシア、一つだけ約束してくれないか?俺を置いてどこにも行かないと。
竜の世界ではまだ生きていける気がしていたが、ここでは、なんというか立っていられる気もしない。君に置いていかれたら俺はどうなるのか、さっぱりわからない」
不安でいっぱいのデレクの頬に口づけし、ラーシアは囁いた。
「もちろんだ。それに、君がこの広い宇宙でも一人で立派に生きていけるようにこれから私がみっちり教育する。
言っただろう?私たちは常に人手不足なんだ。
また百年以上もどこかで同族を待たせて、他の星に迷惑をかけないように、人を雇う必要がある。
デレク、君が私達の星の求人に応募してくれると助かるよ」
「俺で役に立つのか?」
半信半疑のデレクに、ラーシアは微笑んだ。
「ああ、誰かと一緒に働けるなんて、最高にうれしいよ」
熱く口づけを交わしながら、二人は抱き合い、夜空の下で転がった。
デレクが上に来る。
「よくわからないが、俺達の間に余計な男はいないのだな?」
ラーシアが大きく頷いた。
ほっとしたデレクがラーシアの体を強く抱きしめた時、ラーシアが「あっ!」と大きな声を出した。
「どうした?!」
「しまった。君の星に忘れ物をしてきてしまった……困ったな。また何か考えないといけないな……」
もう二度と戻らないとあれだけ念を押したのに、もう戻るのかと、デレクの方が呆れた顔をして、ラーシアを見おろした。
ラーシアも困ったように笑う。
「な?そういうことなんだよ。どうしてもさ、完璧な仕事っていうのは難しいものだ」
他の星に迷惑はかけたくないが、多少の失敗はあるものだ。
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