上 下
32 / 34

32.明かされた性癖

しおりを挟む
のぞき穴からドルバインとアロナの獣のような交わりを見ていたナリアは、ちらりと隣に視線を向けた。
夫のフェイデンは恐ろしい形相でのぞき穴の向こうを睨みつけている。
そのぎらついた目の奥に、男の本質に迫る原始的な欲求が目覚めつつあるように見えて、ナリアは物欲しそうに舌で唇を舐めた。

「偶然彼らの交わりを見て、私はようやく気が付いたの。これが見たかったのだと。あの子、よく見たら可愛いでしょう?ドルバインに比べたら子猫のようだし、まるで引き裂かれて食べられてしまいそう。
恐ろしい野獣に犯されている子猫の姿を憐れみながら、私はあなたに抱かれたかった。
姿かたちも素敵だし、紳士的で私を愛してくれる。私にはこんなに素敵な人がいるのに、あの子はあんな獣に犯されて可哀そうじゃない?すごく興奮するの」

拷問を仕事にすることもあるフェイデンは、なんとなくその興奮がわかる気がしたが、目の前の光景はそういった感じには見えなかった。
フェイデンは眉をひそめた。

「可哀そう?犯されているようには見えるが……彼女は明らかに喜んでいる」

ナリアはのぞき穴からアロナの姿を見た。
獣のように四つん這いにされ、悲鳴をあげながらドルバインに貫かれている。
乳房の宝石はきらきら揺れ、弄ばれているかのように鈴の音が鳴っている。
おもちゃのように犯されているアロナの姿は、哀れでとても美しく見えた。

「でも相手がドルバインだから、どう見たって襲われているようにしか見えないわ。それに……あの子の体、これからもどんどん変えられてしまうわよ。
あんなにみっともない乳首にされて、胸だって強い力で引っ張られるからあんなに赤くなっている。大切にされているなら傷一つ付けたくないはずよ」

夫が所有している妻の体を蹂躙することに喜びを覚えるドルバインらしい遊びだったが、ナリアはまた別の快感を引き出していた。

「夫以外の野獣のような男に、支配され壊されていく子猫ちゃんの姿が最高に興奮するの」

ナリアは夫の手を取り、自分のドレスの下に導くと、そのまま下着の中に突っ込んだ。
妻のぐっしょりと濡れた肉の間に触れたフェイデンは、ナリアの欲望の深さに驚き、指を中に入れた。

「あっ……」

うっとりと声を発したナリアは、のぞき穴の向こうをもう一度見た。
ドルバインは壁に向かってあぐらをかいて座り、その上にアロナを乗せて下から突き上げている。
その結合部は白く泡立ち、赤黒い棒が凄まじい迫力で小さなアロナの中をこじ開け、奥に何度も沈み込んでいく。

苦悶の表情でアロナは目を閉じ、喉をのけぞらせて喘いでいる。自分で制御できないほどの強烈な快感に翻弄されているのかもしれないが、見ようによっては無理矢理感じさせられ、苦しんでいるようにも見える。

「ああいうのがいいの。成す術もなく、蹂躙されている感じがいいじゃない。相手はあれぐらい醜くて狂暴な男が良い」

ナリアは夫に視線を向け、ドレスを脱ぎ始めた。

「興奮しているの。これを知ってしまって……それでドルバインに秘密の会の後に、私にあの光景を見せて欲しいと頼んだの。実際に見なければ信じてもらえないと思って、あなたに、何も言えなかった。フェイデン、私も変態なの……彼とは違う趣味なの。抱いてくれる?」

フェイデンは半裸のナリアを抱きよせながらも、まだ事実を受けられないでいた。

「ドルバインのことは、本当に好きではないのか?本当に何もない?」

「言ったでしょう?あんな醜くて野獣みたいな男、私には相応しくないとずっと思っていた。だから、結婚してからもあの男に触れられるのが嫌で仕方がなかった。
惹かれているのに、なぜ触れられたくないのか、本当にわからなかったの。でもようやくわかった。私が性的な興奮を覚えるためには、彼が必要なのよ。あの光景を見るとたまらなく気持ちが良いの。心から満たされる。野獣に犯される子猫を眺めながら、素敵なあなたに抱かれて優越感に浸りたくなる。ね、抱いて」

ナリアは自ら寝台に仰向けになり、下着の紐をほどき始めた。
その初めて見る妻の淫らな姿に、フェイデンも強く惹き付けられた。

ドルバインとアロナの交わりは正直どうでも良かった。男であるから、本能的な部分では興奮するが、憎いドルバインの裸を見ても楽しくもなんともない。
アロナは淫靡で美しいと思うが、哀れでもあった。
ドルバインに命じられたら逃げられない立場であり、夫がいても抱かれるしかない状況だ。

「本当に、何でもないんだな?」

フェイデンは確認した。

「もちろん。あの子に自慢したいわ。こんなに素敵な男性に私は愛されているのよって。見せてあげないけど……。だって、あなたは私だけのものだもの」

貴族らしい高慢さで、ナリアは勝ち誇ったように微笑んだ。

「こうした特殊な性癖は、誰にも迷惑をかけない形でなければ発散してはいけないのよ。それがここの決まりなの。だから、きれいな女の子に命じてむりやり醜い男と交わらせてはいけないの。フェイデン、私を軽蔑した?」

もし、最愛の女性が特殊な性癖を持っていたら、男はどう振舞うべきなのか。
フェイデンは仰向けに寝そべったナリアの上に四つん這いになり、その淫らな表情を見下ろしながら考えた。

ふと、ドルバインの裁判の日に、押しかけて来た裸の村人たちのことを思い出した。
アロナは証言台の上に立ち、夫とドルバインを助けるために、全てを投げうった。

愛とは相手を従わせることではなく、受け入れることなのかもしれない。

誰よりもナリアに愛されるためには、浮気相手を排除するのではなく、その欲望を知り、その願いを叶えてやるべきだったのだとフェイデンはようやく悟った。

変態だとわかっても、ナリアを捨てる気にはどうしてもなれなかったのだ。

「俺にも……隠れた欲求があるかもしれない」

フェイデンに見下ろされながら、ナリアは悠然と微笑んだ。

「もしそれがわかったら。私も付き合うわ。だって、愛しているもの」

ドルバインと夫婦だった時より、その愛はずっと強いとナリアは感じていた。
結局、ドルバインとは相性が悪かったのだと、今ならはっきりとわかる。

「ナリア、教えてくれ。どうしたらいい?」

「あなたのやり方が好き。いつものように抱いて」

ドルバインの口づけとは対照的な、甘く、優しい口づけがナリアの唇に降ってきた。
最高に気分よく、ナリアはフェイデンの首に抱き着いた。
その時、壁の向こうから耳をつんざくような悲鳴があがった。

「きゃああああっ」

見事に甘い雰囲気を台無しにされ、二人は不機嫌な顔をして飛び起きると、壁の向こうを睨むようにのぞき穴に顔を押し付けた。


壁向こうでは、アロナがドルバインの胡坐の上で貫かれた姿勢のまま、体をひねってその首に抱き着いていた。
その表情は恐怖でかたまり、淫靡な雰囲気は吹き飛んでいる。

アロナの視線の先にあるシーツの上には、ちょっと見たことがないような光景があった。
そこに、顔の形が浮かび上がっていたのだ。

ドルバインの胸に背を押し付け、座った形で交わっていたアロナは、シーツの一部が盛り上がっていく様子を目撃し、それが顔の形に見えたところで悲鳴をあげたのだ。

マットの下に誰かがいるのだとわかったが、その光景はあまりにも異様だった。
誰かの顔を覆っているシーツが、その顔の下にするすると引っ張られ、中に吸い込まれていく。
寝台の下にいる誰かが、穴からシーツを引っ張り込んでいるのだとわかったが、それにしても、不気味な光景であり、アロナは声もなくその様子を見守った。

最後に、顔を覆っているシーツまで寝台下に吸い込まれた。
やはりそこには穴が現れ、カインが顔を突き出していた。

「カイン?!」

ほっとしていいのか、驚いていいのかわからず、アロナはただただカインの顔を凝視した。

「アロナ、きれいだったよ。本当に素敵だった。体はドルバイン様のものだと言われて、うれしいと言ったね。アロナ、最高に苦しくて最高だった。やっぱり見てみたくて我慢が出来なくなって出てきてしまった。驚かせてごめん」

ドルバインに惹かれている気持ちを夫に聞かれてしまったのだと知り、アロナは真っ青になった。
マットの下からアロナを見上げるカインは、そんなアロナを安心させるように微笑んだ。

「アロナ、ドルバイン様に惹かれているならそれでいいのに、俺に遠慮することはない」

アロナの中にはまだドルバインの肉棒がおさまっている。
その結合部に視線を向け、カインはうっとりした顔になった。
それから重い宝石飾りで少し伸びた乳首を見上げ、犬のように舌を出す。

「君に捨てられることだって俺にとっては快感なのに」

とんでもないとアロナはドルバインから離れ、寝台からも滑り降りた。

「カイン!そんなこと言わないで!私達、子供のころから一緒だったのよ?離れるなんてそんなこと出来ない!」

アロナにとってカインは物心ついたときからずっと一緒にいる家族であり、空気のようになくてはならない存在だった。ほんの少し離れてしまうことすら、アロナにとっては耐え難い恐怖だった。

「アロナ……君が俺とドルバイン様を同時に愛したとしても、誰の迷惑にもならないし、誰を傷つけることもない。ならば、ここでは許されると思わないか?」

愛は一人だけに捧げるものだと思ってきたアロナは、驚いて立ち尽くした。
その体をドルバインが引き寄せ、寝台に乗せた。
カインの顔がマットの穴に引っ込み、がたがたと寝台の下で音がしたかと思うと、側面からカインの全身が現れた。

服は着ておらず、股間に拘束具だけを付けている。
興奮で乳首は尖って赤くなり、袋の部分はぱんぱんに腫れている。
痛そうに顔を歪めながらも、カインは笑顔で寝台に腰を下ろした。

「アロナ、ドルバイン様に惹かれる気持ちを抑える必要はない。俺は絶対にどこにもいかない。君を生涯愛している」

真っすぐなカインの眼差しを受け、アロナはドルバインを振り返った。
迸るような愛情を伝えたくてたまらなかったが、それは出来ないとずっと諦めてきた。
でも二人を同じように愛してもいいのであれば、ドルバインの愛を望んでもいいのだろうか。

ドルバインがアロナを情熱的に抱きしめ、そのまま寝台に押し倒した。
荒々しい口づけをしながら、体を擦りつけるように重ね、蹂躙するように体に手を這わせる。
激しい愛撫に、アロナは甘く喘ぎながらドルバインの顔を必死に見ようとした。

二人の目がぴたりと合った。

「アロナ、カインのことも俺にとっては大切だ。そしてアロナ、お前のことはもうただの人妻とは思っていない。俺にとっては……最後の最愛の女性だ」

「私……カインを愛しているのに、ドルバイン様のことも、愛してしまっていいのでしょうか……」

「俺のことも愛してくれるか?」

ドルバインの問いかけに、アロナは夫の姿を見ようとして、それをやめた。
夫の意見に頼るのではなく、自分の心に問いかけた。

心の欲求のままに動いても本当に良いのだろうか。
自分の本来の欲求を抑えて生きることは辛いことだ。他人を傷つけるような欲求であれば生涯我慢しなければならないこともある。
でもドルバインもカインもアロナの欲求を受け入れると言ってくれているのだ。

二人の夫を愛せない理由があるとすれば、それはアロナ自身がそれを受け入れられないからだ。
障害は自分自身の心の中にある。

「ドルバイン様、愛しています……。カインと同じぐらい。でも体を重ねるたびに好きになるから怖くて……。カインより好きになってしまったらどうしようかと」

「それはないだろう。お前達はまるで二人で一人のようだ。お前がいるところにはカインがいるし、カインがいるところにはお前がいる。俺は生涯お前達を大切にしたいと思っている。俺を愛し、ついてきてくれるか?」

「はい!」

答えたのはカインだった。
貞操帯の先から、感動の涙が滴っている。
アロナは少しだけ考えた。

「私も……変態かもしれません……」

世間的に変態と呼ばれる寝取られ好きのカインに必死に付き合ってきたが、アロナ自身も、また違う性癖の持ち主だったのだ。
困惑したように目を潤ませているアロナを見おろし、ドルバインは珍しくにやりと笑った。

「ここには変態しかいない。気にすることはない」

ドルバインと熱い口づけを交わしながら、アロナはやっと二人と同類になれた気がして、心からほっとしていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

服飾文化研究部にようこそ!~僕が女装させられて、先輩たちのオモチャにされるにされる日々~

桃ノ木ネネコ
青春
主人公白石圭太は、美人保険医赤崎沙由美が顧問の「服飾文化研究会」に強引に入れられて、 女装コスプレ姿で沙由美と部員である一条葵や松山翠らよってに日々オモチャにされ翻弄され続け、 自分の在り方について悩み続けるのだった。 自分の中の「俺」と「僕」で揺れる圭太の明日はどっちだ?! そんな不幸な少年の非日常的な日常をかいた、 AIと人間のタッグによる女装コスプレHコメディ。 ※実験的に書いてるので実験的な話が多いです

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

こっぴどく振られたこともあったけど、今はけっこう幸せです

せいめ
恋愛
 マリアは田舎の平民として育ってきた。  クルクルの天然パーマが特徴的だが、それ以外は見た目も能力も特別なところは何もなく、明るく元気なことだけが取り柄の普通の女の子だ。  わんぱくな男の子達に囲まれて育ってきたので、マリア自身に女の子らしさは全くなく、ガサツでお転婆な性格でもある。  そんなマリアは、十五歳の時に幼馴染のテッドに告白されたことがきっかけで付き合うことになる。  テッドはマリアの初恋の相手で幼い頃から大好きだった。  しかし騎士を目指すテッドは、王都の騎士団に入りたいと言って旅立つことになる。  騎士として身を立てられるようになったら結婚しようと言ってくれたテッドを、マリアは待つことに決めたのであった。  しかし、マリアの一途な想いは裏切られることになる。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

復縁して欲しい? 嫌です

柚木ゆず
恋愛
※8月14日、本編完結いたしました。明日15日より、番外編を投稿させていただきます。  婚約中に浮気を行い、しかもそれを私のせいにした方、ノズエルズ侯爵家のヒューゴ様。僅かの謝罪もなく去っていったそんな人が、11か月後に平然と復縁を申し込んできました。 「ケティリア伯爵令嬢、アニエス。俺に再び、貴方の恋人となる栄誉をお与えください」  嫌です。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...