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1.愛ある関係

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季節は冬であり、外は白銀の世界だが、ドルバインの別荘内にはいたるところに大型の暖炉が置かれ、全ての部屋は十分に温まっていた。
招いた客が一人も風邪をひくことなく帰れるようにと、寝室と浴室には床暖房まで完備している。

そんな屋敷の中を、管理人であり召使のカインが暖炉を消して回っていた。
王国の北田舎にある、この森にひっそりとたたずむ屋敷では、毎冬、秘密の会が行われている。
それは妻を寝取られたい男や誰かの妻を寝取りたい男が、妻や恋人を連れて、その欲望を叶えに来る会であり、主催者は領主の徴税管理官を引退した領地持ちの貴族、ドルバインだった。

一つの寝室と食堂を残し、全ての火の始末を終えたカインは、ドルバインのいる部屋の扉を叩いた。

「火の始末が終わりました」

「入れ」

扉越しに聞こえたドルバインの声に、カインは頬を赤らめ、ドアノブに手をかける。
弾けそうな高揚感にひたりながら、カインはゆっくり扉を開けた。

そこには夢のような光景が待っていた。

広々とした寝室の中央に置かれた寝台には、最愛の妻が全裸で横たわっている。
その妻の後ろには腹の出たドルバインが毛むくじゃらの体を密着させ、カインの妻の乳首を引っ張って遊んでいる。

妻を寝取られることに興奮を覚えるカインは、前かがみになって股間をかくした。
それを横目に、ドルバインも満足そうに、ほくそ笑む。
ドルバインは他人の妻や恋人を抱くことに興奮を覚える。

利害の一致した男二人に挟まれた、カインの妻であるアロナは、そんな性癖とは無縁に生きてきたが、最愛の夫に性癖を告白され、紆余曲折あって、いまではこちらの世界にどっぷり嵌ってしまっていた。
最初は夫の為と、嫌悪感に目を瞑り、心を奮い立たせドルバインと寝ていたが、今ではすっかり夫の次に好きな人になってしまっている。

「カイン、見てみろ」

ドルバインが得意げにカインを手招いた。
顔を赤くしたカインは、小走りに寝台に近づく。

ドルバインに背後から抱かれたアロナの胸に、小さなアクセサリーが取り付けられていた。
乳首を左右から挟み込んでいる金属の飾りには、花の形をした鈴がみっつも連なっている。
ドルバインは、飾りの方ではなく、アロナの乳首を指先でつまみ、絶妙な強さで引っ張り、くりくりといじっている。

夫の前で乳首を引き延ばされているアロナは、恥ずかしさに頬を紅潮させ、カインが歓喜の表情をしていることを確かめると、ほっとしたように力を抜いた。

ドルバインは赤く充血したアロナの乳首をこねくり回し、ひっぱりながら飾りの鈴を鳴らす。

「お前が、屋敷の片づけをしている間、俺はお前の妻の乳首をずっと伸ばしておいてやったぞ。みてみろ、左に比べて右の乳首がだいぶ伸びたと思わないか?」

何も考えずに、ドルバインに身を任せていたアロナは、ぎょっとして自分の胸に視線を落とす。
ドルバインの指に挟まれた右の乳首は、確かに引っ張られ赤くなって伸びてしまっているように見える。

その間近にカインの顔が迫り、感動に唇を震わせながら熱心にアロナの乳首を見つめている。

「ああ……本当だ……なんてきれいなんだ……美しいよ、アロナ……」

その言葉にもぎょっとして、アロナは混乱気味に二人の男を見比べた。
ドルバインは、人妻の乳首を夫に無断で引き延ばし、嫌らしく改造してみせたことをみせびらかし、股間の物を大きくしている。

そして夫のカインは、最愛の妻の体が他の男によって変えられてしまったことに歓喜し、ズボンに大きな染みを作っている。

「あっ……んっ」

ドルバインが、さらにアロナの乳首を引っ張り、アロナは微妙な痛さに小さな悲鳴をあげた。
犬のように舌を出したカインが、たまりかねて四つん這いになり、股間に手を当てて布地のうえから撫で始めた。

「カイン、触れてはだめだと言っただろう。もう脱いでしまってはどうだ?」

ドルバインの意地悪な言葉に、またもや喜んでカインはズボンを脱ぎ、四つん這いになると腰を細かくふりだした。

心から楽しそうな夫の姿に、アロナの胸にはやはり愛しさが込み上げる。
カインに性癖を告白された時には、本当に驚いたが、愛を確かめ合い、二人で手を取り合って互いが満足する形を模索してきた。
運よく、紳士的な寝とり趣味のドルバインに出会え、冬限定でカインは自分の性的欲求を満たすことが出来るようになった。
おかげで、一年を通して夫婦仲は良好で、夜の営みも戻ってきた。

「あっ……あっ……ドルバイン様……」

掠れた声でカインが懇願した。
アロナの引き延ばされた胸を凝視し、舌を出して股間をふる。
手を触れてはいけないため、両手は床についているが、体は前後に揺れ、まるで一人で交尾をしているような動きだ。

ドルバインがアロナの乳首から指を離し、長さを比べやすいように左右の乳首を寄せて並べて見せた。

右の方が赤くなって少しだけ伸びている気もする。

「あっ……」

さらにカインが激しく腰を振りだした。
最愛の妻の体が、他の男の手により変えられてしまうことが、それほどうれしいのだろうかと、アロナは疑問に思うが、快感を貪るカインの邪魔にならないように黙っていた。

手も触れず、カインは感極まったような声を出し、白濁した液体を床に吐き出した。

「ああ……」

力無くうなだれたカインの股間には、力を失った肉棒が揺れている。
ところがそれは、すぐにむくむく起き上がる。

「楽しめたようだな」

ドルバインは凄みのきいた声で笑い、アロナを優しく引き寄せ、仰向けにした。

「舌で舐めてきれいにしておけよ。俺のものはお前の妻の中に出してやろう」

その言葉にも興奮したらしく、カインのはぁはぁと喘ぐ声が大きくなった。

本当に乳首は伸びてしまったのだろうかと不安な様子のアロナに、ドルバインは覆いかぶさりながら耳元で囁いた。

「すぐに元に戻る。大丈夫だ」

その優しい声音に、アロナはほっとしてドルバインを見上げた。
強面のドルバインの顔は、半分が黒いひげで覆われている。
頭髪は薄く、頭頂部の禿げている部分を伸ばしている側面の髪で覆って隠している。
鍛えた筋肉の感触はあるが、上を覆っているのは脂肪のかたまりで、お腹は出ているし、胸から股間までびっしり黒い毛が生えている。

足と腕は軍人らしく鍛えた筋肉が浮き出ているが、ずんぐりとした体形で、全体的にみればどう見ても、もてる容姿とは言えない。

最初は生理的に受け付けないと思っていたが、今はその全てが好ましいとアロナは感じていた。夫とは正反対の容姿だが、ドルバインは紳士的で誠実であり、アロナは心から信頼している。

寝台の下から、カインが自分の出したものをぺちゃぺちゃと舐める音が聞こえている。
そんな音を聞きながら、アロナはドルバインの熱く大きな物に貫かれ、甘い声をあげた。

「んっ……んっ……」

体を揺すられるたびに乳首の鈴が鳴り、ドルバインが乳首を軽く弾いてその刺激を楽しんでいる。

「あっ……」

疼くような快感が胸からもわきあがり、子宮が痛いぐらい収縮している。
いつの間にか、カインが寝台のすぐ横でアロナを見つめていた。

「きれいだ……アロナ……」

夫の目を見ながら、アロナはうっとりと微笑んだ。
少し変わっているかもしれないが、これが二人の幸福な夫婦の形だった。


ドルバインは、アロナを抱き終えると、さっさとシャツを着てズボンをはいた。

カインはアロナの肩にガウンをかけ、他の男の匂いがついた体を愛し気に抱きしめ、早く家に帰って君を抱きたいと囁いた。

秘密の会に参加する人々は全員貴族で、春から秋にかけてはただの農民として慎ましく暮らすアロナとカインには馴染みのない人々だ。
給料も良く、村に多額の寄付も出来るため、冬の出稼ぎとしても有難い場ではあるが、とても緊張する場でもある。

アロナは、やはりそんな緊張感から解放された後の夫婦の時間が一番好きだった。

カインがアロナの着替えを手伝い、帰り支度を始めると、ドルバインが椅子に座り二人を眺めながら口を開いた。

「ところで、俺の元妻の話は覚えているか?」

唐突な問いかけに、二人は驚いた顔でドルバインを振り返る。

「はい。あの、暖炉の上に飾ってあった絵の女性ですよね?とてもおきれいな……」

他人の妻ではないと欲望を抱けないドルバインは、満足に愛する妻を抱けず、最後には妻の幸せを考え、妻が他の男性と恋に落ちるように仕向けて離縁したのだ。
それまでの間、妻は愛人とこの屋敷で暮らしていたこともあると二人は聞いていた。
秘密の会を行うようになる前に、ドルバインは元妻に自分の性癖を告白しに行き、夫婦であった時のことを謝罪していた。

「妻に俺の性癖のことを告白した時、妻は俺の言葉を信じず、周囲の人々に俺がそんな言い訳をしにきたと話したようなのだ。
その話を聞いた者から、同じ性癖の者同士が集まれるサロンを開いて欲しいと頼まれ、今の冬の会が生まれたわけだが、実は元妻のナリアから、俺の話が信じられないから見に来たいと連絡があった」

アロナとカインは同時に首を横に傾けた。

「何を見に来られるのですか?」

「俺が、人妻しか愛せない性癖なのかどうかを、自分の目で見て確かめたいそうだ」

ますます難解な表情になり、アロナとカインは反対側に首を傾ける。

「確かめるのですか?目で?」

それはどういうことになるのかと、難しい顔で聞いている二人を愉快そうに眺め、ドルバインはアロナを手招いた。
アロナが手の届く場所まで近づくと、ドルバインはアロナの腕をとって膝に抱き上げた。

途端に、カインの表情が輝きだす。

また始めるのかとアロナはさすがに体を固くした。
そろそろ帰宅して夫とゆっくり過ごしたい。

「どう思う?こうしたことをしてみせれば納得すると思うか?」

服の上から胸の形をなぞり、あっさり手を引いたドルバインに、露骨にがっかりした顔をしたカインは、腕組みをして首をひねった。

「もう離縁された元奥様ですよね?確認してどうなさるのでしょう?今更のことでしょうし、その……奥様にそのような性癖が?」

「まさか。彼女は普通の女性だった。俺は……妻を抱けず背中を向けて寝るようになり、彼女は自分から誘うようなことはしない女性だったから、ひたすら我慢をさせたと思う。若い体で人並みに性欲もあっただろう。貴族である彼女がそれを外に出すことはないが、愛人を連れ込んでいることは気づいていた」

思いついたように、アロナが手を叩いた。

「ドルバイン様と復縁なさりたいのではないでしょうか?私とカインが愛し合う夫婦ではないとお疑いなのでは?その、これをきっかけに仲を深めたいのかもしれません!」

ドルバインはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「俺の容姿は妻の好みに合わない。俺が触れると嫌そうな顔をしていた」

「夫婦生活は……あったのですよね?その、少しは……。確かに私は最初、ドルバイン様を禿げで太っていて好みではないと言ったかもしれませんが、今は全くそんなこと思っていません。素敵な方だと思っていますし、夫の前では言いにくいですが、怖いお顔なのにうっとりすることもあります」

ドルバインは複雑な表情だった。
自分が醜く、太っているのはわかっているが、訓練もしているし、生まれつきの顔だ。そこまで酷くもないつもりだった。
カインも貴族のドルバイン様に言い過ぎではないかとひやひやした顔をしている。

「とにかく、面倒ごとはごめんだが、元妻には迷惑をかけた。ナリアには借りがある。来たいというのであれば、来てもらっても構わないと返事を出した」

ドルバインらしい答えだったが、それはどういうことになるのかと、アロナとカインは目を見合わせた。
言いにくそうにカインが口を開く。

「あの……私たちは春から秋は忙しく、こうした会は仕事の少ない冬限定ということで働かせて頂いております……。会場の準備や当日のお世話など、数日に及ぶ仕事になるでしょうし……」

じろりとドルバインがカインを睨んだ。

「領内の召使を連れてきて準備はさせるつもりだ。当日は多少動いてもらうかもしれないが、何十組も招くわけではない。ナリアの侍女たちが数人ついてくるかもしれない」

困惑する二人を尻目に、ドルバインは、これは決定事項だといわんばかりの口調で告げ、さっさと部屋の出口に向かう。

「春先を予定している。給料は弾む。知らせを出すから、その時は馬でここに来い」

二人は部屋を出ていくドルバインを見送り、頭を下げた。


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