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番外・後日談

14. 避けられない話題とめでたい話題

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 夏期休暇中のジルベルトが本邸に戻り、前々から来るかもと曖昧な予定だけは聞いていたヴィオレット兄妹も、おつかいの仕事だか息抜きだかで訪れた。
 ルドヴィクの奥さんはおめでたが判明してお留守番。久々に双子と側近の皆でお喋りを楽しむことになったんだが。
 ―――陞爵しょうしゃくってマジすか。
 しかも領地が増えるって?
 ヤダ! と言いたくてもそれは既に決定事項であり、ルドヴィクが持ってきた無敵の『王様からのお手紙』には抗えなかった……。
 ちくしょう。だったら新しい領地で好き放題してやる! あとで文句言うなよーっ!

 しかし俺が侯爵になるとなれば、いよいよジルベルトを後継者に指名することはできなくなっちゃったな。
 侯爵以上の身分は、相続の条件が一段厳しくなる。
 血族ではないジルベルトがロッソを継ぐことは、これで完全にできなくなった。だから次の後継者はシルヴィアの息子、ということになるんだが。
 全員姉妹だったらどうすんだよ? 息子が生まれたとしても、成人するまで爵位を継げないんだぞ。何十年後だよ。
 だいたい女の子だったっていいじゃんか。シルヴィアとラウル、どっちに似てもきっといい子だ。なのにこの流れだと、一部の周囲が勝手に「女児か……(がっかり)」みたいな反応をする未来が見えて、めちゃくちゃ不愉快なんだが。

 晩餐の後、部屋に戻ってアレッシオとエルメリンダに愚痴まじりの相談をした。
 俺だけ一人掛けのソファに座り、二人はそれぞれ前に立っている。三人で真面目な話をする時は、アレッシオも立っていることが多い。

「年頃になったシシィに、周りがいらん催促をしないか心配だ。ラウルとは二人のペースで、仲良く楽しく過ごしてもらいたいんだよ、私は」

 俺の言葉に、アレッシオは微笑ましそうな顔で頷く。こら、俺は真面目な話をしているんだぞ。
 エルメリンダは「そうですねえ」と言いつつ、首を傾げた。

「このお話、ラウル様が同席じゃなくていいんですか? あの方も当事者ですよね?」
「それはそうなんだが」
「『キサマなどにオレの妹はヨメにやらんぞ!』とか思ってらっしゃるわけじゃないんでしょう?」
「当たり前だ。もしそうだったら婚約など許すか」

 そりゃ血涙は流したが、俺は妹が幸せになるのを見守ってあげたいのと同じぐらい、ラウルの幸せだって守ってやりたいんだよ。
 シルヴィアの都合だけじゃなく、きっとラウルも幸せになれるだろうなと思ったから許可をしたんだ。

「……こういうデリケートな話題は、本人達には言いにくい」

 要するに、それに尽きる。
 正直に言うと、アレッシオは苦笑しながら同意した。

「心中お察しいたします。妹君はお心の強い方に育っておられますし、多少のことは跳ね返せそうとは思いますが、デリカシーのない方々の余計なお世話は鬱陶しいものですからね。ラウル殿もラウル殿で、商会の次代について考えねばならない立場ですから、他者に言われずとも気にしているでしょう

 理想としては男児が二人。片方がアランツォーネの跡取りになり、片方はロッソへ。
 でも、そんな都合よくいかなかったらどうするんだ。
 第一、妹夫婦に子づくり強制するなんて嫌だぞ!

「そもそも私はシシィに相続権がないこと自体、気に入らないんだがな。教育が徹底的に制限されていた時代ならまだしも、今は学園で男以上の成績を取っている令嬢なんて大勢いるだろう。男子にこだわり過ぎて、自称血縁者の詐欺師に家を乗っ取られた例だっていくつもあるのに、このへんどうにかしようと思わないのか?」
「そうですね……ヴィオレットの側近の方々から耳にしたのですが、あなたの次代に限り、初の女侯爵が誕生するかもしれません」

 え、なんだそれ。
 エルメリンダも初耳だったようで、俺達が目で問うと、アレッシオは「確定のお話ではありませんが」と前置きした。

「王宮では、ロッソ家に限り特例を認めるべきではないかという声が出ているそうです。ロッソ家は力ある上に『特殊な家』となり、どこの誰かもわからぬ馬の骨に後継者を名乗らせるぐらいなら、妹君の子が女児であろうと、あなたの教育を受けた確かな血縁者に相続させるべきではないか、と」

 つまり俺に結婚は無理だと、王宮の皆々様にもよ~くご理解いただけているわけですな……。
 ええ、隠してはおりませんからね。
 ほんのちょっぴり気まずくなり、手の中で白い毛玉をもにょもにょしながら足を組み直した。

「み~。適当にすんなよう」

 おっとすまん。
 反省してマッサージのツボを丁寧に押さえ直したら、毛玉は「みゅ♡ そこそこ♡」と目を細めた。アレッシオが心なしか半眼になっているんだけど、どうしたんだろう。
 ところで、気になった点があるんだが。おまえの半眼の件じゃないぞ。

「そういう議論をしていただけるのはありがたい。しかし、特殊な家とは?」
「特殊でしょう? 昔から『ロッソは変わり者』と有名でしたが、あなたの代でその特殊性が顕著になった形ですね。生半可な者にロッソを継がせてはならない、というのが上の方々の総意とのことでした」

 エルメリンダが「なるほど」と頷いている。
 何がなるほどなんだ。俺、中途半端でいい加減で自分勝手な奴なんですけど?
 だいたい俺が貴族の義務である結婚を放棄しているから面倒な話になっているんだ。割り切って子供を作る決断をすれば、万事解決する話なんだよ。
 だけどそれは無理だし、やりたくない。よくあることだって言われても嫌だ。相手の女性にだって失礼だろうが。
 そんな俺の身勝手さを承知の上で言わせてもらいたいんだが、シルヴィアみたいに賢くて勉強もできる子を後継者にできないなんて、それが一番わけがわからない。
 是非そういうところは、上の方々にどんどん変えていって欲しいと思う。

 それでも話がまとまらなかった時のことを考え、分家の中から能力も人格もまともそうなのに目星をつけて、囲い込んでおいたほうがいいかな。
 幼い内から洗の……ゴホゴホ、きちんとした調きょ……げふんげふん! ……教育、を受けさせて、優秀な真人間に育てておけば後々の憂いは減るかもしれない。
 もちろん私欲で後継の地位を奪おうなんて大望は欠片も抱けないように、『躾』はがっつりしておく。これ大事。

「おまえらほんと、つまんニャイことでいちいち悩むよなー。能力があってまともなヤツだったら、血縁どーたら関係なく継がせたっていいだろーがよ。王族だって二~三回は血ィ途切れてんのがフツーなのに、建国王の正統な血がどーたらとかアホとしか思えんわ」

 だよなー。血縁関係を証明できる魔法もなけりゃDNA鑑定もないんだから、絶対どっかで途切れてるよねー。でもそれを外で口にしちゃったら、一族郎党、物理的に首がちょん! ってされちゃうんだよー。
 うんうん頷いていたらエルメリンダが「?」と首を傾げ、アレッシオが頭痛をこらえるように額を指で押さえた。
 すまんな、ちょっと刺激の強い話だったか。



 俺達がそんな話をした数日後、ミラが産気付いた。
 翌日になって、無事生まれたと報告があった。
 可愛い女の子で、母子ともに健康だという。めでたい!
 もしミラに似た子だったら、馬が好きになるかもしれない。俺は可愛い仔馬の描かれたフワフワのおくるみを出産祝いに贈った。ニコラに似たとしても、馬は臣下への信頼の証だから良い意味になるしね。
 ニコラは強制的に長期休暇をとらせたよ。乳母がいるから子供の世話に人手は足りてるとか、そんな問題じゃない。
 絶対、顔も頭もでろっでろになって仕事にならんわ。休んどけ!


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