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甘く誘う悪魔
109. 約束の日、初志貫徹*
しおりを挟む朝食を食べたら、アレッシオとお庭デート。ランチを食べて、少しばかり爛れたイチャイチャをして、軽い午睡の後、午後のティータイムを楽しむ。その後また爛れたイチャイチャをして、少し休んだら夕食。読書をして風呂に入り、就寝前に濃厚なおやすみのキス。
最近の俺のルーティーンがこれだ。爛れ過ぎている。この半月、ほぼ毎日これ。
いいのか、これ?
俺とアレッシオのただならぬ関係を、おそらく最初期から勘付いていたエルメリンダに相談したら、「反動でしょうねえ」だそうだ。
「ずうっとプラトニックでいらしたんでしょう? でもアレッシオ様は案外、ガツガツしたそうな感じのお方ですよ」
がつがつなのか。そうなのか……。
指摘されて思い出した。乙女ゲームにおけるアレッシオ=ブルーノはいわゆる一匹狼タイプで、お上品に『待て』をするタイプじゃないキャラとして設定されたんだった。いつも完璧執事だからそのへん失念しちゃうんだけど、アウトローな人間になれる素質があったんだよ。
エルメリンダから見て、アレッシオという人物の気質は、我慢を強要されておとなしく従うのが得意なタイプじゃない。なのに俺自身が多忙でそれどころじゃなかったから、彼はずっと我慢をしてくれていて、ようやく暇と呼べる時間が出来た今、一気に来たんじゃないかということだった。
俺達の人に言えない約束事については、エルメリンダにも言っていない。でも彼女の見立ては的の近くを射ている気がする。
「しかし、その、領主をやっている私が毎日こんなだと、周りにどう思われているのか、いい加減心配になってくるんだが……」
「このお館のみんなは歓迎してますよ。だって閣下、アレッシオ様が構わない時はお仕事しちゃうじゃないですか」
「そんなことはないぞ? 何か仕事はないかと探して、結局見つからなかったことだってある」
「閣下?」
「……すまん」
アレッシオなら俺を『仕事』から引っぺがせる上に、ほどよく体力を使わせて休ませることができるから歓迎、らしい。今日みたいにアレッシオが執務室に詰めている時なんか、「閣下のお傍にいなくて大丈夫なのか」と訊かれるほどだそうだ……。
肩書きが側近だから、あいつも立派な執務室メンバーなんだよ。それでもってうちの執務室は、アレッシオ・ニコラ・ラウルと元攻略対象が三人もいるせいで、歴代最強の疑惑がある。こいつらが揃っている時は、本当に俺へ仕事が紙一枚分も回ってこない。
いや別に、その日がとうとう今夜だから、気を紛らわせたいとかそういうんじゃないよ?
確かに怖いさ。怖くないと言ったら嘘になる。だが俺は逃げも隠れもしない。アレッシオに山ほど迷惑をかけてきたお礼もしたいし、俺自身もそうされることを望んでいる。
あいつの気の済むまで、徹底的に、これでもかとやってもらうのだ。
手加減ゼロがなんだ、受けて立とうじゃないか!
ならばなぜ仕事を探そうとするのかって? 決まっている。
仕事が 俺を 呼んでいるからだ……!
……いかん。この仕事中毒脳、真面目にどうにかしないと。
■ ■ ■
四月一日。
アレッシオは「あなたを睡眠不足にさせることなど許されません」と言い、日付が変わった直後ではなく、その日の夕刻にすると決めた。
そして俺はアレッシオの部屋で待機。なんとなくこっちの部屋が好きなのと、する時に子猫に見られたくないからだよ。
夕食前にはアレッシオが戻って来た。今夜の食事は彼自身が運んできてくれて、エルメリンダとミラの姿はない。
執事モードのアレッシオがセットしてくれた夕食を、二人静かに味わう。……わお、味がしない。食後の飲み物はハーブ水かな。口の中がさっぱり。
アレッシオが今日の日中の出来事を話してくれて、気もそぞろに返事をする。彼の会話術が巧みなおかげで、気づまりな沈黙は生まれなかった。
サラリと風呂をすすめられ、内心どっきどきで風呂を借りる。ひょっとしたらお風呂でするかも、と思っていた自分に気付いて赤面した。多分ここは配管の関係で声が聞こえてしまう。
アレッシオの使っている香りつき石鹸は、俺がプレゼントしようと目論んでいたら先に買われてしまった切ない過去のあるひとつだった。超・念入りに身体を洗わせてもらい、湯から上がって浴室を出ると、衝立の前には《セグレート》のバスタオルとナイトガウン一着のみ。
これは……ぱんつが、ないのですね。了解です!
全身を丁寧に拭き上げてナイトガウンを身に纏い、いざ! と衝立から出た。
「先に、湯をもらった」
上着を脱いでラフな格好のアレッシオが小さく笑み……笑顔なんだが、目が少し怖かった。
交代でアレッシオが浴室に消えるのを見送り、「は~…」と大きく息を吐いた。俺の心臓、保つんだろうか? どこで待っていればいいのかわからなくて、椅子にちょこーんと座って待つことにした。
気を張りつめていると聴覚がするどくなるのか、ささいな音にも反応してしまう。やがてアレッシオが風呂から上がり、衝立の向こうで身体を拭いてガウンを着込むのがハッキリと聞こえる。
でもそっちを見られない。心臓、やっぱり持たないかも。爆発しそうだ……。
「―――ぅわっ?」
いきなり足の裏と背に腕を回され、ガバリと抱き上げられた。決して小さくはない俺を軽々と横抱きにし、無言で運んでいく。
風呂上がりの熱、石鹸の香り、いつもより近く感じる体温にふわりと包まれ、頭がくらくらする。
強引に俺を椅子から掻っ攫った男は、裏腹に丁寧な手つきでゆっくり寝台に横たえた。
見おろしてくる端正な顔に笑みはない。鳶色の瞳が爛々と燃えている。どこから食べようかと、舌なめずりをしているような。
全身で俺の退路を塞ぐようにギシリと乗り上げてきて、ガウンの上から太ももを、腰を、腹を撫で上げられた。
「は、あっ……!?」
そういえば。後ろと、前だけは数えきれないぐらい刺激されてきたけれど、それ以外の場所はそんな風に触れられたことがなかった。
性的な行為を意識させる動きで初めて胸を撫でられ、ぞわぞわ全身に鳥肌が立つ。
身体を洗う時に何度だって触れているのに、なんでこんなに感覚が違うんだ。
ぐい、と前を左右に開けられ、胸からヘソの部分まですべてが晒された。
かああ…と熱くなり、鎖骨の辺りまで赤く染まったのが自分でもわかる。
しかも胸の粒が、少し立っていた。
彼の視線が、じ、とそこにそそがれている。寒くもないのに震えてきた……。
見せつけるように舌なめずりをし、その赤い舌先を尖らせ、ゆっくりと顔を近付けてきた。
「ひうっ!?」
ちろり、と舌の先が、粒を舐める。そこからビリリと走った電流が腰の中心まで一気に貫いた。
なんで。そんなところ、自分で触った時は何の感覚もなかったのに!?
ちろちろ弄ぶように這わされていた舌は、今度は全体を使って粒を押し潰しながら舐めてきた。たちまちそこはツンと育ち、濡れて少し光っている。
すさまじい刺激とあからさまな変化に、どんどん顔が熱く息が荒くなる。
唇全体を使って、胸に吸い付かれた。たまらず小さな悲鳴をあげてアレッシオの頭を抱え込んだ。口の中でぬるぬる舌が蠢き、胸の尖りをなぶっている。腰の中心に熱が集中し、勝手に跳ねて、足がシーツを蹴った。
両足の間に身体を挟みこまれ、大きな手が太ももの内側を這い、やがて形をもった芯に到達する。
「あっ……だめ、だめだっ……!」
軽くふたつのふくらみを撫で、指が会陰を辿り、その下の窄まりに触れた。
ぬくりと、指が入ってくる。この日のためにほぐされたそこへ、何の痛みもなく。
めまいがした。
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