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幸福の轍を描く
70. 祭り衣装の準備
しおりを挟む「まあ、参加できるの!? 嬉しいわ、わたくしあの創立祭が大好きだったのよ!」
「そうりつさい? 母さま、そうりつさいってなぁに?」
「それはねぇ……」
家族枠ではイレーネとシルヴィア。
ジルベルトの使用人枠で乳母とアレッシオとエルメリンダを招待。
俺の使用人枠ではニコラとミラを招待する。
メイド長も招待したいなと思ったんだが、「あの者もこの者もとなるとキリがありませんでしょう」と苦笑しながら辞退された。
全員呼びたくても、あくまで学園の行事だからね……。
メイド長はアレッシオと、彼の不在時の分担について話し合っていた。打ち合わせさえできていれば、三日程度いなくても問題ないとも言ってくれたが、もちろんその分の仕事は他の使用人に回り続けるし、執事でなければいけない仕事もストップする。
楽しんだ後がきつい結果になるのもあれなので、アレッシオは最終日だけ参加することになった。
祭りは十月八日から三日間。
ニコラとミラは最初の二日間は俺の使用人としてふるまい、アレッシオが参加する日にデートを楽しむことにしたそうだ。
―――ラブラブイベントの本番、三日目だもんな。
ニコラの収入なら、俺が着せられる予定のトンデモ派手派手(予想)衣装より何ランクも控えめになるとはいえ、充分相応しい衣装がレンタルできると聞いている。
その期間中は学園内外の警備を増強する上に、生徒含め出入りの人間を普段より厳重にチェックするので、護衛はあまり心配しなくていいとのことだった。
俺みたいに使用人にデートをさせたくて招待する奴はあんまりいないけど、感謝のプレゼントをしたいと招待する例はちらほらあるようで、禁止行為ではないと確認も取っている。
逆に、家族や使用人がいたら自由に遊べないので誰も招かないという生徒も一定数いるようだ。
今から学園に参加申請するのは早いかと思いきや、早い生徒は四月の段階で既に申し込んでおり、俺はどちらかといえばゆっくりめと言われてしまった。
衣装のレンタル希望の生徒が、申し込み開始直後から殺到するらしい。なるほど、遅いと良い衣装がゲットできないからか……。
俺みたいにレンタル不要の家でも、注文して出来上がるまでに普段の服とは段違いの日数がかかるから、一ヶ月前でも相当ギリギリなんだそうだ。耳が痛いな。
「ご親族の方などは、お衣装に凝り過ぎて仕上がりまでに一年かかる方などもおられますよ」
「一年も!? ―――私とジルベルトに一年は考えられん」
「わたくしどもも、若君やお坊ちゃまのお衣装にそこまでかけたくはございませんねえ。お子様のご衣類は布が少ないから楽だろうと言われることもあるのですが、とんでもないことでして」
「成長期という罠があるからな」
「罠にございます」
朝から採寸をしながら、今まで何度も祭り衣装を手掛けてきたという仕立て屋に話を聞いた。
注文した衣装がより早くより完璧に仕上がるかどうかは、ぶっちゃけ金次第だ。あと日頃の付き合い。しかしどんなにお得意様が金を積んでくださっても、成長期はコントロールできない。
「仮面もお忘れになってはなりませんからね。布を仮面のように仕立てて巻く方法もございますが、ちゃんとした仮面と比べ見劣りすると不評なことが多いのですよ。おそらくそれをご覧になった方が、これは急ごしらえか予算が足りなかったのだろうなと想像してしまうからではないかと思います」
「なるほど。実際はかなり手間をかけた品であろうと、見る者が事情を勝手に想像して視界が曇ってしまうわけか」
衣装に合わせたデザインの仮面だけでなく、祭り用の靴も必要になるから、今日はそちらの職人も呼んである。もし俺がぐずぐずしていたら危ないところだった。
しかし祭りに興味津々な割に、誰もそれを口にしなかったなと尋ねてみれば、いつも忙しそうな俺を自分達から遊びに誘うのは迷惑かと思って切り出しにくかったそうだ。それを聞いて反省しきりである……。
ラウルに言われなきゃ、実際に忘却の彼方だったもんな。あいつも忘れかけていたふしがあるとはいえ、ほぼ俺の影響のせいな気もするし。
ところで、俺の近くではジルベルトも採寸しているんだが……おまえまた伸びてない? 気のせい?
「ジルの罠に気を付けろよ」
「ええっ、僕が仕掛けたわけじゃないのにひどいですよ兄様!」
「ぷぷっ……これは失礼を。なんだかお懐かしいですねえ。若君の成長期に急ぎお衣装をお仕立てしたのが、もうずっと昔のようでございます」
「そんなこともあったな。あの時は急かしてすまない」
「とんでもないことでございます! わたくしどものお衣装をお気に召していただけて、それはもう光栄でございました!」
「僕もお礼を言いたいな。あの時は兄様の服がね……何も着られなくて」
ジルベルトはそこで言葉を濁した。仕立て屋は真相を知らないからな。
こちらへ来て俺の服装が似合うものにガラリと変わっているのを見て、ジルベルトはイレーネと一緒に手を叩いて喜んだそうだ。その頃はまだフェランドの力が大きくて、こっそり喜ぶしかなかったらしいけど。
なんかすまんな。
デザインについては例のごとく、俺以外全員のセンスにお任せした。男物の服は俺が触れてはならない領域なのだ。
今日は採寸だけだから着せ替えショーがなくていい。俺以外の全員はデザインについて白熱しているようだが、俺だけのんびりボッチ茶会だ。レモネードと蜂蜜入りの焼き菓子がうめぇな……。
などと油断していたら、仮縫い衣装の試着がきた。ジルベルトだけじゃなく俺も伸びるかもって思われて、しつこいぐらいサイズを計られることになったんだ。
祭り用の衣装だけじゃなく、俺まで普段着を新たに仕立てる必要が出てきて、着せ替えショー再び。なんてこった。
今までは大半を学生服で過ごしてきたけれど、卒業後は正装の機会が増えますから今のうちに準備しておきましょうって言われたら、そりゃあそうだなと納得するしかなかったよ。
とほほ。
■ ■ ■
そうこうしているうちに夏は過ぎ、秋が来て、祭り当日の朝になった。
フェランドは学生時代の友人から遊びに誘われ、そちらに連泊中なので変な妨害も入らない。今のあいつを平然と誘えるぐらいだから、ご友人とやらも同じ穴の狢だ。
ゲームストーリーだと一回目の祭りにおいて、ヒロインはレンタル衣装で参加する。そしてその時に最も好感度の高いキャラとお祭りデートをし、甘酸っぱい青春ラブが繰り広げられる。
二回目の時はレンタルではなく、彼氏から衣装をプレゼントしてもらうのだ。悪役令息の断罪後であり、心おきなく大人のラブラブが大量投下―――といっても全年齢のゲームだったからそこまで際どいことにはなりませんでしたけども。
アレッシオのラブシーンもあったんだよなあ……アレッシオルートではヒロインの婚約者として、逆ハーレムルートでは使用人として参加していた。今となっては思い出したくもねぇわ。
そのアンジェラは自粛させると連絡が来ていた。
信用というものは、ポタポタ落ちてくる水滴を器いっぱいに溜めるようなものだ。彼女はそれを面倒がった上、自ら器の底をぶち抜き、かろうじて溜まっていた水までが流れ落ちてしまった。慌てて塞いだ頃にはもうすっかり空っぽだ。
再び溜め直すには何年もかかる。今あのイベントに参加したって、「またあの娘が…」と言われるだけだ。
高等部三年まで真摯な態度を見せ、今の成績をキープしておくことができれば、さすがに誰も何も言わなくなるだろう。
十月八日の早朝。九月中には出来上がっていた衣装がずらりと並べられ、ずらりと並ぶメイドさん達。
ニコニコの笑顔に俺は騙されない。
これは戦闘態勢だ。
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