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ヒロインの転落
44. ゲームと掛け離れた日々
しおりを挟む怒涛の一年目が終わり、十三歳になった。
俺、ラウル、ヴィオレット兄妹、カルネ殿は高等部の一年生になった。初等部の頃と同じ最上位クラスで、その他クラスメイトも全員が学年上位を維持し、顔ぶれが全く変わらない。
ジャッロ殿とアルジェント殿は二年、ニコラは三年生である。
高等部に上がっても、ランチ時になればみんな集まるのは相変わらずだ。
ただし最近のランチは、食堂ではなく高位貴族専用のサロンに集まっている。利用者の治安がいいからだ。
連れであれば下位貴族の生徒でも入れる。オープンな場所なので、ご令嬢と一緒でも問題ない。
食堂では俺達と同じクラスになれなかった生徒が、なんとかこっちに近付ける口実はないかとギラついている。落ち着いてメシを食うどころではないのだ。
食事は学園のメイドに事前に頼んでおけば、全員分を昼食時に合わせて食堂からサロンに運んでくれる。
余談だが、悪役令息は出禁をくらっていた。
「今年度早々に、いいことがあった」
「本当に。幸先いいですね」
ルドヴィクが嬉しそうに言い、俺も頷いた。
彼らが遠巻きにされる元凶となった迷信は、俺やラウルが普通に友達をやっているうちに薄まってはいたけれど、勇気を出して話しかけてくれたクラスメイトのおかげで、完全に消し飛ばされたのだ。
「例えば黒髪黒瞳の民族しかいない国では、それ以外の色すべてが不吉とされていたり、別の国では逆に黒い瞳が不吉だったりと、世界中にそんな話が残っているのです」
彼は、外国の昔話を趣味で調べているという。
「中には戦の時、恐れられた敵国の将兵の髪と瞳の組み合わせが、後代まで悪魔の色と語り継がれていた例もあります。ほかにも、詐欺師が王に取り入ろうとして悪魔の化身の特徴を創作したら、民衆にそれが広まってしまったというとんでもない例もあるのです。ヴィオレット様ご兄妹も、そういうのの一例なのじゃないかな、と思います」
なんと彼は、ヴィオレット兄妹が恐れられていたわけをこれまで知らなかったという。俺やラウルが教室で何気なく話題に出したのが耳に入り、初めて知ったのだ。
そこで俺はもしや、と思って立ち上がった。
「すみません、クラスの皆さん。ご協力いただきたいのですが、もしご存知であれば挙手願えますか?」
「ロッソ様?」
「なんですの?」
「我々の祖父母世代では、黒髪に紫の瞳が悪魔の化身という迷信があります。そのことをご存知の方は?」
そして結果は。
「え……」
「えぇ……?」
「皆様、ご存知なかったの?」
「あ、ああ……初めて聞いた」
なんと元ネタを知っている者は三分の一ほどだった。これにはネタを知っているクラスメイトも目を丸くしていた。大半は理由も知らずに、「みんながあの双子は不吉だと怖がっているから何かあるんだろう」と深読みしてビビっていたのである。
「なぁ~んだ」という空気が教室じゅうに満ち、そこからは打ち解けるのが早かった。
「申し訳ございません、ヴィオレット様、ヴィオレット嬢」
「わたくし達、とても感じが悪かったですわよね……」
「自分が恥ずかしいです」
「まったくだよ。このようなバカバカしいことで……」
ほんとバカバカしいよねえ。
この変化に兄妹はびっくりしつつ、嬉しそうにほんのり赤面していた。
ただ、彼らの周辺が少々わずらわしくなったのは、そのせいでもある。好意的な者が増えた半面、無駄な野心を燃やす輩も増えてしまった。
ニコラは高等部三年にして、学年主席になった。
年度末の試験で、ほぼ全教科満点だったらしい。ゲームでは卒業するまでずっと残念な秀才呼ばわりされていたのに、心の余裕と時間さえあれば、そんな成績を取れる奴だった。
それまで主席だった生徒は、よくニコラを嘲笑していた伯爵令息だった。ニコラは俺の部下となり、家の格は俺のほうが上。二重の意味でそいつは負けた。
いや、三重か。アレッシオが教育しまくった甲斐あって、最近のニコラは一段と有能な秘書っぽい。髪型や服装にも気を遣うようになったし、姿勢はまっすぐ、喋り方も明瞭になって、イケメン度が爆上がり。
教育が効きすぎて、彼はネクストステージに行ってしまった……。モサいネガティブ青年よいずこ……。
冗談抜きで、一年経って断罪の日の外見に近付くかと思いきや、逆に掛け離れた。
「皆さんすみません、遅くなりました」
少し遅れてラウルが到着した。
ラウルの外見はさほど変化がない。多少背が伸びたかな? ぐらいだ。小柄さで相手の油断を誘うのを得意としているから、このメンバーの中で一番小さくても本人に悲壮感はない。
「やあ、ラウル殿」
「我々も食べ始めたばかりだからさほど待ってはいないよ」
「何かあったのか? 野暮用と聞いたが」
「面識のない後輩に呼び出されたんです。相手は上位のご令嬢だったのと、やけに高圧的で面倒そうな方でしたので、目的を確認するために応じました。室内ではなく、人目もある場所です。―――早い話が、若様目当てでした」
「私?」
俺に何の用だ。仕事の話ならラウルを通させているが、それは無関係ということだよな。
「わたくしこそがあの麗しいロッソ様に相応しいのですおまえもそう思うでしょうとか、平民上がりごとき逆らわずにわたくしをロッソ様に紹介すればいいのとか、笑いを取りにくる作戦かなと思いました。ヴィオレット様が周りをガチガチに固めてくださっているから、若様に近付く隙がなくて、僕やニコラ先輩を使おうとするご令嬢がいるんですよ」
「……冗談だろう?」
ヴィオレット兄目当てじゃなく、婚活ターゲット俺?
「僕らの苦労を冗談で片付ける気ですか?」
ラウルの目が据わっている。ご、ごめんよ。でもホントに?
ニコラに目で問うたら、苦笑された。……マジですか。
でもそうか、悪役をやんなきゃ俺、普通に優良物件だったわ。舅に目を瞑りさえすれば、公爵令息みたいなド狭い門より、妥協して俺を狙うほうが勝率高いって思われるか。
「一周回って愉快な方だったんですが、残念ながら昼休みを潰すわけにいかず、キイキイやかましいのを放置してきたんですけど。その後に妙なのに遭遇しまして……」
放置して支障のない上の身分のご令嬢か。お嬢さんが知らないだけで、パパがラウルくんちに借金でもしてたりして。
それを超える妙なのとは一体?
「若様、アンジェラ=ローザという令嬢をご存知ですか?」
「アンジェラ=ローザ? さあ……親戚にもその名前の令嬢はいないはずだが」
「お知り合いではないんですよね?」
「全く」
「ごめん、ちょっといいかい? そのご令嬢、もしや初等部の一年生かな?」
カルネ殿が尋ね、ラウルは頷いた。
「カルネ様のお知り合いでしたか?」
「いや、姓に心当たりがあるんだ。エテルニア王国の駐在大使の秘書の名が、確かローザ男爵だった。先代の大使が任期を終えて、新しい大使と一緒にこの国に来たんだけれど、ローザ男爵は妻子を伴っていて、末娘が今年学園に入ると聞いた。その娘じゃないかな」
へえええ~…………ヒロインちゃんのパパ、そんな職業だったんだ?
ゲームでは職業の設定がなかったから、全然知らなかったよ。
いつか来るとは思っていた。
だけどラウルのこの様子だと、妙なヒロインムーブしやがったな?
「若様。あの令嬢は気を付けてください。何らかの方法で呼び出そうとしてきても、決してお会いにならないように。何を企んでいるのやらわかりません」
何をやったの、ヒロイン。
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