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2章 王子とペット
9.王子と乳兄弟(2) sideレオン
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入室者の気配にレオンの眠気が覚めた。
逆にラシャはうたた寝からいつの間にか机に突っ伏していて、侵入者に気づかないまま本格的に寝入っていた。
レオンは胸に置いていた本を顔の上までずらして寝たふりをしながら、本の影から薄目で侵入者の様子を伺った。
入ってきた男はグレーの長髪を背に流し、スラリと背の高い優男だった。身のこなしが綺麗なので足音も小さくラシャは居眠りしたまま気づいていない。
こんなに静かに入室してきて寝ているラシャに近づくところを見ると、使用人とも思えないし、親族の可能性が高いか。
そう思ったが、ふとレオンの脳裏を青い髪に青い目の男がよぎる。
第3王子のブレーズだ。
ラシャからの紹介では、血の繋がった兄弟であるはずだが、そのラシャに対する態度は異常だ。
弟につく虫を払おうとする兄というには、やけに粘度の高いものを感じる。
レオンの目から見ると、第3王子がレオンに向けてくる視線は嫉妬に狂った男のものだ。
おもちゃを取られた子供の嫉妬なのか、恋人を寝取られた男の嫉妬か。経緯をしらないレオンに判断はできないが、あれほど弟に執着している兄なんて変態しか知らない。
ヤバそうなのに目をつけられているな、とは思った。
そして、どうやらそういう感情に疎いラシャが心配でもある。
その前提があるので、その侵入者がラシャの近くに寄り、うつ伏せになったラシャの晒されたうなじに顔を寄せた時――――
長身の男の胸ぐらを掴んで引き離した。
積み上げられていた本がバサバサと雪崩を起こし、流石にラシャも目覚めたようだ。
「ん……?」
レオンが銀髪の男の胸ぐらを掴んでいる状況を目をこすりながら見上げた。
「あれ? いつ来たんだ?」
「今来たところだよ。とりあえず、この狂犬にリードをつけてくれるかな。今にも噛みつかれそうだ」
「ペットにリードはつけない主義だ」
ラシャの銀髪の男に対する口調は軽い。
やはり、知り合いには違いないらしい。
「レオン、この人は俺の乳兄弟のフェルディナン。乳母に一緒に育てられた。実兄よりも近い兄みたいなものだ。あと、竜騎士団の団長をしている」
ラシャがレオンに向かって頷くので、レオンは男から手を離してまたソファに座った。先程立ち上がった時に落としてしまった本をまた拾って読むふりをする。
実兄よりも近い……ということは、あの変態第3王子よりマシな関係ということか、とレオンは思うが……鈍い主人に変わって警戒はしておく。
そんなレオンをみてフェルディナンは感心した声で言う。
「字が読めるとは、賢いペットだね」
「もう、からかうのはよせ」
「いや、人間にしても本が読めるくらいに字を知っているというのは、かなり教育を受けたってことだよ。ブレーズが奴隷奴隷とうるさいからどんなのかと思ったら」
「そうか? でも確かに奴隷だったんだ。貴族ではないだろ? そしたら商人かな」
そのラシャの言葉にフェルディナンが驚いた声を上げる。
「えぇ……?イヤイヤイヤイヤあの身のこなしで商人とか冗談だよね」
「冗談だよ!」
ラシャは軽くフェルディナンの尻を殴った。
本を読むふりをするレオンの横顔にラシャの視線を感じる。
「でも過去は何でもいいんだ。今は俺のペットなんだから。変に詮索するなよ」
そんな軽口を叩く2人は確かに気安い関係のようだ。
ただ、レオンの脳裏にはまだ先ほど見た光景がこびりついている。寝ているラシャの首にキスしようと近づいたフェルディナンの…………。
困惑した顔でチラリとフェルディナンをみる。そんなレオンにフェルディナンは肩をすくめた。
「勘違いされても困るけど、私はブレーズのような気持ちはないよ。さっきのは匂いを嗅いでいたんだ」
「…………?」
キスではないにしても、匂いを嗅ぐ? やっぱり変態なのか?
レオンは怪訝な顔でフェルディナンを見たが、横でそれを聞いたラシャには特別驚いた様子はない。ただ、確認するように聞き返した。
「匂いがしたのか? あれ? もうそんな時期だったか?」
「そうだよ、もう今夜だ。匂いも少し。またあの薬草がいるのか、今回はペットを使うのか、どっちなのか聞こうと思って」
ペットを使うと言うのはどう言う意味か分からず、レオンは思わずラシャを見た。
困った顔をしたラシャと目があったが、ラシャは目を逸らすと気まずげに笑って否定した。
「いや……このペットはそういう契約をしてないから。薬草を用意してくれ」
「え? どういう契約なの?」
「騎竜と魔族みたいな」
「ふ~~~~ん? ラシャが上に乗るの?」
「え? ……まてよ? 何か変なニュアンスになるよな、それ。本当は分かって俺をからかっているよな?」
「分かった、つまりマダムが膝に乗せてる猫みたいな愛玩ペットってことね」
「俺のイメージでは! 信頼を寄せ合った騎竜と魔族の対等な関係なんだけど……」
「そうかな。下男のマルゴからも聞いてるよ。猫可愛がりしていてみっともないレベルって」
「事前に聞いてたんだ! そしてマルゴ!そんなことを思っていたのか!」
頭を抱えて突っ伏したラシャに、フェルディナンはクスクス笑う。
「じゃあ薬草を準備するとして、ペットは私が預かろうか? 1人にしておくのは心配だろう?」
「……そうだな。頼めるか?」
「もちろん、騎士寮だから安全とは思うけど、変な輩は近づけさせないようにするね」
どう言うことか分からないまま、今夜のペットは乳兄弟に預けられることになった。
だがその夜、乳兄弟の策略によって、レオンは予想外の事態となる。
「あ! 大変だ~~。 ラシャに渡す薬草を間違えちゃったよ。すまないけど、持っていってくれるかな? 私は執事長に用事を言いつけられていてね、時間がないんだ」
どこか嘘くさいフェルディナンの言葉を不審に思いながら、レオンは預かった薬草の入った袋を持って、ラシャの居室に戻ってしまった。
逆にラシャはうたた寝からいつの間にか机に突っ伏していて、侵入者に気づかないまま本格的に寝入っていた。
レオンは胸に置いていた本を顔の上までずらして寝たふりをしながら、本の影から薄目で侵入者の様子を伺った。
入ってきた男はグレーの長髪を背に流し、スラリと背の高い優男だった。身のこなしが綺麗なので足音も小さくラシャは居眠りしたまま気づいていない。
こんなに静かに入室してきて寝ているラシャに近づくところを見ると、使用人とも思えないし、親族の可能性が高いか。
そう思ったが、ふとレオンの脳裏を青い髪に青い目の男がよぎる。
第3王子のブレーズだ。
ラシャからの紹介では、血の繋がった兄弟であるはずだが、そのラシャに対する態度は異常だ。
弟につく虫を払おうとする兄というには、やけに粘度の高いものを感じる。
レオンの目から見ると、第3王子がレオンに向けてくる視線は嫉妬に狂った男のものだ。
おもちゃを取られた子供の嫉妬なのか、恋人を寝取られた男の嫉妬か。経緯をしらないレオンに判断はできないが、あれほど弟に執着している兄なんて変態しか知らない。
ヤバそうなのに目をつけられているな、とは思った。
そして、どうやらそういう感情に疎いラシャが心配でもある。
その前提があるので、その侵入者がラシャの近くに寄り、うつ伏せになったラシャの晒されたうなじに顔を寄せた時――――
長身の男の胸ぐらを掴んで引き離した。
積み上げられていた本がバサバサと雪崩を起こし、流石にラシャも目覚めたようだ。
「ん……?」
レオンが銀髪の男の胸ぐらを掴んでいる状況を目をこすりながら見上げた。
「あれ? いつ来たんだ?」
「今来たところだよ。とりあえず、この狂犬にリードをつけてくれるかな。今にも噛みつかれそうだ」
「ペットにリードはつけない主義だ」
ラシャの銀髪の男に対する口調は軽い。
やはり、知り合いには違いないらしい。
「レオン、この人は俺の乳兄弟のフェルディナン。乳母に一緒に育てられた。実兄よりも近い兄みたいなものだ。あと、竜騎士団の団長をしている」
ラシャがレオンに向かって頷くので、レオンは男から手を離してまたソファに座った。先程立ち上がった時に落としてしまった本をまた拾って読むふりをする。
実兄よりも近い……ということは、あの変態第3王子よりマシな関係ということか、とレオンは思うが……鈍い主人に変わって警戒はしておく。
そんなレオンをみてフェルディナンは感心した声で言う。
「字が読めるとは、賢いペットだね」
「もう、からかうのはよせ」
「いや、人間にしても本が読めるくらいに字を知っているというのは、かなり教育を受けたってことだよ。ブレーズが奴隷奴隷とうるさいからどんなのかと思ったら」
「そうか? でも確かに奴隷だったんだ。貴族ではないだろ? そしたら商人かな」
そのラシャの言葉にフェルディナンが驚いた声を上げる。
「えぇ……?イヤイヤイヤイヤあの身のこなしで商人とか冗談だよね」
「冗談だよ!」
ラシャは軽くフェルディナンの尻を殴った。
本を読むふりをするレオンの横顔にラシャの視線を感じる。
「でも過去は何でもいいんだ。今は俺のペットなんだから。変に詮索するなよ」
そんな軽口を叩く2人は確かに気安い関係のようだ。
ただ、レオンの脳裏にはまだ先ほど見た光景がこびりついている。寝ているラシャの首にキスしようと近づいたフェルディナンの…………。
困惑した顔でチラリとフェルディナンをみる。そんなレオンにフェルディナンは肩をすくめた。
「勘違いされても困るけど、私はブレーズのような気持ちはないよ。さっきのは匂いを嗅いでいたんだ」
「…………?」
キスではないにしても、匂いを嗅ぐ? やっぱり変態なのか?
レオンは怪訝な顔でフェルディナンを見たが、横でそれを聞いたラシャには特別驚いた様子はない。ただ、確認するように聞き返した。
「匂いがしたのか? あれ? もうそんな時期だったか?」
「そうだよ、もう今夜だ。匂いも少し。またあの薬草がいるのか、今回はペットを使うのか、どっちなのか聞こうと思って」
ペットを使うと言うのはどう言う意味か分からず、レオンは思わずラシャを見た。
困った顔をしたラシャと目があったが、ラシャは目を逸らすと気まずげに笑って否定した。
「いや……このペットはそういう契約をしてないから。薬草を用意してくれ」
「え? どういう契約なの?」
「騎竜と魔族みたいな」
「ふ~~~~ん? ラシャが上に乗るの?」
「え? ……まてよ? 何か変なニュアンスになるよな、それ。本当は分かって俺をからかっているよな?」
「分かった、つまりマダムが膝に乗せてる猫みたいな愛玩ペットってことね」
「俺のイメージでは! 信頼を寄せ合った騎竜と魔族の対等な関係なんだけど……」
「そうかな。下男のマルゴからも聞いてるよ。猫可愛がりしていてみっともないレベルって」
「事前に聞いてたんだ! そしてマルゴ!そんなことを思っていたのか!」
頭を抱えて突っ伏したラシャに、フェルディナンはクスクス笑う。
「じゃあ薬草を準備するとして、ペットは私が預かろうか? 1人にしておくのは心配だろう?」
「……そうだな。頼めるか?」
「もちろん、騎士寮だから安全とは思うけど、変な輩は近づけさせないようにするね」
どう言うことか分からないまま、今夜のペットは乳兄弟に預けられることになった。
だがその夜、乳兄弟の策略によって、レオンは予想外の事態となる。
「あ! 大変だ~~。 ラシャに渡す薬草を間違えちゃったよ。すまないけど、持っていってくれるかな? 私は執事長に用事を言いつけられていてね、時間がないんだ」
どこか嘘くさいフェルディナンの言葉を不審に思いながら、レオンは預かった薬草の入った袋を持って、ラシャの居室に戻ってしまった。
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