上 下
63 / 69
10章 崩壊と再生(最終章)

63.俺の合図を見逃したか

しおりを挟む
 幕間を挟んで俺たちの出番になった。
 最近練習を重ねた新しいダンス曲で、飾り紐を体に巻きつけたり絡めながら踊るSMチックなダンスだ。

 リックと息を合わせて操りながら立ち位置に注意が必要。なぜなら絡まって転けそうになるからだ。
 そんな演技の裏事情は見せないように余裕のダンスを披露する。じゃないとエロスが霧散してしまう。

 跪き、腕を紐で絡め上げられながらウォーレンの様子を伺う。覆面の下からでも目があった気がするほど、ずっと俺を見ていた。
 ピーコックグリーンの目は舞台照明の照り返しにキラキラ光っている。

 その目に体をなぞられている……筋肉のラインを辿るように。その想像がウォーレンの手の感触まで思い起こさせてカッと体が熱くなった。

「ランス」

 リックの小さな合図にウォーレンの視線を振り切り、縄抜けの要領で紐を解いて立ち上がる。後ろを向いて腰を捻りながらダンスをするうちに、だんだんと余計な火照りが消えていった。
 それでもウォーレンの視線がまだ追いかけてくるのを感じるし、腹の奥の熱は灯ったままだった。



 舞台が終わってウォーレンの席に向かうと、待ち侘びたような親しげな笑顔で迎えられた。

「新しいダンスだったな。とても良かったよ」
「そーなんよ、同じのばっかりだとマンネリだろ? これでもまじめに練習してんだ」
「ランスは努力家だ、怠け者だとは思っていない。体づくりも、気配りも、何も考えてない者に到達できるレベルじゃない」

 て、照れるぜ! ってかベタ褒めすぎだしぃ顔が熱いぃ!

「ウォーレンだめだ、俺を甘やかすなら違うだろ? そこは新ダンスのお披露目祝いにワイン樽で持ってこーいッ!」

 笑ったウォーレンの太っ腹により、場内客に1本ずつ振る舞い酒が配られた。
 俺とウォーレンはワインを乾杯して飲み干した。
 喉が熱い、呼気が熱い、体が熱い。体の熱さがアルコールのせいか他のなんなのか、分からなくなるといい。

「久しぶりだな。あの、あれの証拠が揃ったから、もう店に来る必要はないのかと思ってた」

 熱さで額に汗が流れた。腕で拭おうとしたのを止められ、ウォーレンの手拭いを当てられた。
 ウォーレンに握られた手首が熱いし、手拭いのサラリとした感触は心地いい。手拭いからもウォーレンの香りがする。

「ランスと約束していたからな。ホールから間近でランスを見るって。投げキッスをしてくれる約束じゃなかったか?」
「しただろ~? ほら、こんな感じで?」

 チムチムッと投げキッスポーズをするとウォーレンがニヤッと笑った。

「嘘だな。私はずっと見ていたんだから、見逃すはずがない。あなたも私の視線を意識していただろう? だから私との約束から逃げたんだ。コレに隠れていてもわかるよ」

 ウォーレンに覆面の上から目の下をなぞられた。
 その指の感触は俺の背をゾクゾクと感じさせる。

「なん……くそッ! 投げキッスなんて冗談に決まってんだろ!」

 逃げたことを白状させられた。羞恥に舌が震える俺をウォーレンはしたり顔で笑った。
 その顔が可愛いけどやっぱりムカつく!

「しかたねぇから今してやんよッ!」

 ウォーレンの後頭部を掴み、噛みつくようにキスした。ハグハグと唇を噛んでやったら、ウォーレンに耳を撫でて引っ張られた。
 勢いで離れた唇にウォーレンの吐息がかかる。

「あなたの事がかなり分かってきた。恥ずかしくなると私の口をふさぎにくるんだ」
「……ッ!」
「でも約束して。次のショーではきっと舞台の上で、あなたは私のものだって合図をしてくれるって」

 ウォーレンに俺がどう見えているのか怖い。
 俺をつぶさに解剖して分からせようとしてるのは羞恥プレイの一貫なのか?

「俺は……あんたのものだ」
「そうだ。この時間、あなたを買った時間、あなたは俺のものだって教えてくれた」

 グッと後ろ髪を引っ張られた。のけぞった喉にウォーレンがキスしてくる。

「ふ……ッ、ぅ」
「私はそんな言葉で私との関係を線引きするあなたの残酷さに気づいているよ。でも、もっと奥底まであなたを欲してしまう強欲な私を許して欲しい」

 喉にキスされているとくすぐったいのに体が疼く。髪を引っ張られるのは不快なはずなのに、その頭皮の痛みがウォーレンによる心の痛みに思えてグッと喉が詰まった。
 ウォーレンの手が俺の腹を撫で上げ、胸の頂に到達する。そのウォーレンの目に危険なものを感じて思わず手を掴んで制止した。

「まて……ッて! わかったから、それ以上は部屋で……だろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

モブがモブであるために

BL
腐男子従兄弟の策略によって男限定でモテる仕様になってしまった平凡男子高校生が、モブに戻るために王道男子校内で奮闘する話。ギャグです。 R15つけていますが本編での主人公絡みのそういうシーンはない予定です、すみません…。 他投稿サイトにも載せています。

処理中です...