46 / 69
8章 飲み会とアフター
46.年頃の女の子は繊細
しおりを挟む
親父が食後のコーヒーを飲むと、声をひそめて話し始めた。
「さっきの話だがな、おまえとアンナはまだ幼かったから詳しい話をしていなかったが、アンナの病気のことなんだ。おまえからも騎士団の給料を借金返済に当ててもらってるんだから、もっと早く教えるべきだったのかもしれんが……」
「病気って、もう治ったことだろ? 病気は完治、後に残ったのは莫大な借金だけ」
その莫大な借金のために、俺も昼は騎士、夜はセクシーダンサーで稼いでるんだ。副業については親には内緒だけど。
「病気は完治したと思っていたんだが、最近、アンナの体調が悪くてな。長く咳をしていて食欲もない。だから、神官長様に見てもらえないか、手紙を出したんだよ」
「なんでそこで神官長なんだ? 昔、治してもらったのが神官長ってこと? 普通は病気を治すなら医者だろ」
基本的に農民は村医者や町医者に見せるのが普通だ。大聖堂の神官がやるのは、神の加護とか祈祷になるから、貴族や金持ちの神頼み、みたいな話になる。
だからお布施もかなりの高額になる。農民が手を出していいもんじゃない。
「もちろん、おれも医者に頼ったさ。でも、どんな高価な薬を飲ませても、有名な医者に診てもらっても治らなくてな、その間に貯金は消えて借金は増える一方だった」
「……普通には治らない病気だったってことか?」
「そういうことだ。おまえは当時のアンナの様子を覚えているか?」
「そりゃあ、もう13にはなってたし、俺だって面倒を見るのに手伝ってた」
「変だと思わなかったか? 赤い目をして、干からびたように皮膚がやつれて、食欲もないのに凶暴で以前を見る影もなくなった」
言われて思い出すと、たしかにそんな様子だった。
2歳の小さな体とは思えないほど強い力で暴れて、力尽きたら長く眠り込んでいた。
「まさか……」
「『ゾンビ化』って病だったんだ」
「ゾンビ!? ダンジョンにいるっているゾンビ!?」
「本来はダンジョンでゾンビから人に感染する病なんだが、非常に稀だが地上でも発生することがあるそうだ。そのことを冒険者をしていた流れの医者に指摘されてな、大聖堂に駆け込んで治療を頼んだ」
「そうか、ダンジョン由来の病気は魔法で治すのが一般的で、医者の治療の範囲外だからな」
「このあたりに魔術医がいれば……、それかダンジョンの近くの町なら、もっと早く判明したんだろうが、ここはそういう土地柄じゃないからな。医者による対処療法じゃ治らずに悪化していくばかりだった。流れの医者が、神官なら神聖魔法でゾンビ治療ができるって教えてくれたんだ」
思い出した記憶では、妹の赤い目に目薬を差し、シワだらけの肌に薬を塗り込んでいた。 暴れるのは寝不足だからと睡眠薬も飲ませていた。
これでゾンビ化が治るはずがない。
「その時に治療してくれたのが、神官長か」
「その当時はまだヒラの神官だったがな」
神官長の冒険者時代は、神聖魔法を使う白魔法士だったと聞いた覚えがある。
冒険者と聞いた時には意外で驚いたけど、妹があの神官長の神聖魔法に救われていた。
その奇跡を思うと体が震えた。
「とても親身になって治療してくれて、その後もなにかとアンナの状態の確認に手紙をくれているんだ。今回もアフターケアは当時のお布施に含まれてるって言ってくれてな。あれ以来、会うことはなかったが、あのかたが神官長ならおまえも安心して預けられる」
「いや、俺を預けるって逆! 俺が護衛している立場なんだけど!」
「しっかり護衛するんだぞ! 傷ひとつつけるのは許さん!」
「……まさか俺の家族、みんな神官長のファンなの?」
「当たり前だ。母さんも財布に神官長様の姿絵を入れているぞ」
「嫉妬しろよ」
「おれの公認に決まってる」
いつのまにか家族が神官長ガチ勢だったどうしよう。
「アンナはこの話を知らないのか」
「神官長に治療してもらったことは言ったが、病気の詳しい話は伏せているんだ。年頃の女の子がゾンビになりそうだったなんて過去を知ったら……」
「恐ろしい未来が見えるな」
「それに大きな声で話せない事もあってな。まだ完全なゾンビになる前だったから周りに感染しなかったけど、完全なゾンビになっていたらパンデミックだ。村がいくつか滅んでいたらしい」
「……そうなれば、俺も今頃はゾンビ村のゾンビ騎士か」
「おれもゾンビ村のゾンビ親父だ」
真面目な顔で黙った親父と目があった。
同時に笑いが漏れる。
「って冗談じゃないんだぞ。おまえも話すときは気をつけろよ」
「なになに~、父ちゃんたち何をゲラゲラ笑ってんの??」
アンナが戻ってくる頃には深刻な顔は消し去り、親父から神官長の手紙を預かった。
「さっきの話だがな、おまえとアンナはまだ幼かったから詳しい話をしていなかったが、アンナの病気のことなんだ。おまえからも騎士団の給料を借金返済に当ててもらってるんだから、もっと早く教えるべきだったのかもしれんが……」
「病気って、もう治ったことだろ? 病気は完治、後に残ったのは莫大な借金だけ」
その莫大な借金のために、俺も昼は騎士、夜はセクシーダンサーで稼いでるんだ。副業については親には内緒だけど。
「病気は完治したと思っていたんだが、最近、アンナの体調が悪くてな。長く咳をしていて食欲もない。だから、神官長様に見てもらえないか、手紙を出したんだよ」
「なんでそこで神官長なんだ? 昔、治してもらったのが神官長ってこと? 普通は病気を治すなら医者だろ」
基本的に農民は村医者や町医者に見せるのが普通だ。大聖堂の神官がやるのは、神の加護とか祈祷になるから、貴族や金持ちの神頼み、みたいな話になる。
だからお布施もかなりの高額になる。農民が手を出していいもんじゃない。
「もちろん、おれも医者に頼ったさ。でも、どんな高価な薬を飲ませても、有名な医者に診てもらっても治らなくてな、その間に貯金は消えて借金は増える一方だった」
「……普通には治らない病気だったってことか?」
「そういうことだ。おまえは当時のアンナの様子を覚えているか?」
「そりゃあ、もう13にはなってたし、俺だって面倒を見るのに手伝ってた」
「変だと思わなかったか? 赤い目をして、干からびたように皮膚がやつれて、食欲もないのに凶暴で以前を見る影もなくなった」
言われて思い出すと、たしかにそんな様子だった。
2歳の小さな体とは思えないほど強い力で暴れて、力尽きたら長く眠り込んでいた。
「まさか……」
「『ゾンビ化』って病だったんだ」
「ゾンビ!? ダンジョンにいるっているゾンビ!?」
「本来はダンジョンでゾンビから人に感染する病なんだが、非常に稀だが地上でも発生することがあるそうだ。そのことを冒険者をしていた流れの医者に指摘されてな、大聖堂に駆け込んで治療を頼んだ」
「そうか、ダンジョン由来の病気は魔法で治すのが一般的で、医者の治療の範囲外だからな」
「このあたりに魔術医がいれば……、それかダンジョンの近くの町なら、もっと早く判明したんだろうが、ここはそういう土地柄じゃないからな。医者による対処療法じゃ治らずに悪化していくばかりだった。流れの医者が、神官なら神聖魔法でゾンビ治療ができるって教えてくれたんだ」
思い出した記憶では、妹の赤い目に目薬を差し、シワだらけの肌に薬を塗り込んでいた。 暴れるのは寝不足だからと睡眠薬も飲ませていた。
これでゾンビ化が治るはずがない。
「その時に治療してくれたのが、神官長か」
「その当時はまだヒラの神官だったがな」
神官長の冒険者時代は、神聖魔法を使う白魔法士だったと聞いた覚えがある。
冒険者と聞いた時には意外で驚いたけど、妹があの神官長の神聖魔法に救われていた。
その奇跡を思うと体が震えた。
「とても親身になって治療してくれて、その後もなにかとアンナの状態の確認に手紙をくれているんだ。今回もアフターケアは当時のお布施に含まれてるって言ってくれてな。あれ以来、会うことはなかったが、あのかたが神官長ならおまえも安心して預けられる」
「いや、俺を預けるって逆! 俺が護衛している立場なんだけど!」
「しっかり護衛するんだぞ! 傷ひとつつけるのは許さん!」
「……まさか俺の家族、みんな神官長のファンなの?」
「当たり前だ。母さんも財布に神官長様の姿絵を入れているぞ」
「嫉妬しろよ」
「おれの公認に決まってる」
いつのまにか家族が神官長ガチ勢だったどうしよう。
「アンナはこの話を知らないのか」
「神官長に治療してもらったことは言ったが、病気の詳しい話は伏せているんだ。年頃の女の子がゾンビになりそうだったなんて過去を知ったら……」
「恐ろしい未来が見えるな」
「それに大きな声で話せない事もあってな。まだ完全なゾンビになる前だったから周りに感染しなかったけど、完全なゾンビになっていたらパンデミックだ。村がいくつか滅んでいたらしい」
「……そうなれば、俺も今頃はゾンビ村のゾンビ騎士か」
「おれもゾンビ村のゾンビ親父だ」
真面目な顔で黙った親父と目があった。
同時に笑いが漏れる。
「って冗談じゃないんだぞ。おまえも話すときは気をつけろよ」
「なになに~、父ちゃんたち何をゲラゲラ笑ってんの??」
アンナが戻ってくる頃には深刻な顔は消し去り、親父から神官長の手紙を預かった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる