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8章 飲み会とアフター
45.兄ちゃんも欲しい姿絵
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希少な休日に合わせて、親父と妹が王都に来た。
王都から歩いて数日の場所にある村に住む親父は、定期的に村で取れた農作物や工芸品などを馬車の荷台に積み込み王都へやってくる。
妹を連れてくるのは珍しく、会うのは2年ぶりくらいになるか。
12歳になる妹は、以前に会った時は丸っこかったのが、ずいぶん縦長に成長していた。
「兄ちゃん!」
「アンナ、大きくなったな」
無邪気に駆け寄ってきた妹のアンナをキャッチして抱きしめた。重くなったもんで抱き上げてクルクル回すのも一苦労だ。
「兄ちゃんも前より大きくなったね。横に?」
「それじゃ太ったみたいだろ~。筋肉がついたっていうんだよ」
「ふふふふ……ケホケホ」
「風邪か?」
咳き込む背中をさすっていると、馬車を引く親父がようやく追いついてきた。
「ああ、アンナは体調を崩してな。だいぶよくなったんだが」
「そんな体で連れてきたのかよ。大丈夫か」
「わたしは大丈夫! 過保護だよ!」
町の南の1番大きな通用門近くで落ち合った親父は汗を拭きながら、困ったような笑顔を浮かべた。
「手伝わせてスマンな。おまえも仕事が忙しいだろうに」
「なぁに、休暇が溜まってんだ、気にすんな。宿はいつものところか? すぐに店に商品を卸に行くのか?」
「宿はいつものところだ。しかし、今日の暑さにはまいる。ちょっと宿の食堂で休憩しよう。あと、頼みたいこともあるしな」
頼みたいこと? いつもの荷物運びとは別で?
宿に荷物を置いて食堂に行くと、朝食がまだの2人にモーニングと、俺には珈琲を頼んだ。
食事しながら、親父はようやく話を切り出してきた。
「頼みたいことってのはな、アンナを大聖堂に連れて行ってやって欲しくてな」
思わず珈琲を吹き出しそうになった。
親父たちには大聖堂へ左遷された事をまだ話していないのに、どうして?!
「大聖堂?! なんで……観光か?」
「わたし、神官長様のファンなの! ッケホケホ」
「神官長のファン?!!」
アンナが小さいポーチからゴソゴソ紙を取り出した。
それを見たとたん、また吹き出しそうになって口を手で抑えた。
「?! ……な、なんだそれ?」
「村の雑貨屋で売ってるの。都会の有名人の姿絵。隣の村でも持ってる子が多いし、今ちょっとしたブームなんだよ」
「す、すげぇな、最近の女の子は。王子様の姿絵とかじゃないんだ? 兄ちゃんも興味あるからちょっと見せてよ」
「しかたないなぁ、汚さないでよ」
ツンとしながらも、自慢げな笑顔で姿絵を貸してくれた。
手のひらサイズの紙に、神官長の写実的なイラストが描かれていた。写実的……ではあるが、キラキラした装飾が施されて女の子が好みそうな絵になっている。
画家のサインも入っているけど、有名な画家ではない。
王宮騎士の時に教養を勉強したから一通りの有名人は知っている。きっと大衆向けの絵を描く画家なんだろう。
大聖堂近くの土産物店にもあるのか? おそらく大聖堂からの許諾は取ってなさそうだけど。
こういうのが出回っているから、神官長の朗読会に市井の女子が多かったのか~。
「ははっ! すっごい、イケメンだよな~。リアルもこんな感じだよ。俺、今は聖堂騎士をやってるから上司みたいなもんで、よく顔を合わせるんだ」
「ええっ?! 羨ましい!」
「おまえ、王宮騎士じゃなかったのか?!」
親父の食いつきもなかなか激しい。
左遷されたなんて恥ずかしくて言ってなかったけど、この神官長アゲの流れなら言い出しやすくて助かる。
「あぁ、しばらく前からな。ま、多少の配置換えがあったもんでよ」
「そうか……おまえがそんな高尚な職場に。何か縁があったのかもなぁ」
王宮騎士の方がエリートだったし、聖堂は左遷なんだけど……。そんなことまで知らない親父たちは尊敬の目で俺を見てくる。
俺はなにも騙してないぞ。
「それなら頼みやすいな。アンナが父ちゃんと歩くのは恥ずかしいから、兄ちゃんがいいんだとさ」
「そうは言っても、俺の妹と会ってくれ、なんて言える立場じゃねぇよ? 出来ても、神官長の朗読会に連れていくくらいかなぁ」
「あぁ、それは問題ないんだ。もう神官長様には会う約束をとっているからな」
神官長と約束してる?!
「なんっ?! 知らなかった! 親父って神官長の友達だったのか?」
「ははは、まさか! 昔お世話になった人でな。あ、アンナ、馬たちに水をやってきてくれるか?」
「はーい」
アンナが厩舎に向かうと、親父の顔が真剣な表情になった。
アンナに用事を言いつけたのは、あの子の前では話したくない話題らしい。
嫌な予感がして背筋が伸びた。
王都から歩いて数日の場所にある村に住む親父は、定期的に村で取れた農作物や工芸品などを馬車の荷台に積み込み王都へやってくる。
妹を連れてくるのは珍しく、会うのは2年ぶりくらいになるか。
12歳になる妹は、以前に会った時は丸っこかったのが、ずいぶん縦長に成長していた。
「兄ちゃん!」
「アンナ、大きくなったな」
無邪気に駆け寄ってきた妹のアンナをキャッチして抱きしめた。重くなったもんで抱き上げてクルクル回すのも一苦労だ。
「兄ちゃんも前より大きくなったね。横に?」
「それじゃ太ったみたいだろ~。筋肉がついたっていうんだよ」
「ふふふふ……ケホケホ」
「風邪か?」
咳き込む背中をさすっていると、馬車を引く親父がようやく追いついてきた。
「ああ、アンナは体調を崩してな。だいぶよくなったんだが」
「そんな体で連れてきたのかよ。大丈夫か」
「わたしは大丈夫! 過保護だよ!」
町の南の1番大きな通用門近くで落ち合った親父は汗を拭きながら、困ったような笑顔を浮かべた。
「手伝わせてスマンな。おまえも仕事が忙しいだろうに」
「なぁに、休暇が溜まってんだ、気にすんな。宿はいつものところか? すぐに店に商品を卸に行くのか?」
「宿はいつものところだ。しかし、今日の暑さにはまいる。ちょっと宿の食堂で休憩しよう。あと、頼みたいこともあるしな」
頼みたいこと? いつもの荷物運びとは別で?
宿に荷物を置いて食堂に行くと、朝食がまだの2人にモーニングと、俺には珈琲を頼んだ。
食事しながら、親父はようやく話を切り出してきた。
「頼みたいことってのはな、アンナを大聖堂に連れて行ってやって欲しくてな」
思わず珈琲を吹き出しそうになった。
親父たちには大聖堂へ左遷された事をまだ話していないのに、どうして?!
「大聖堂?! なんで……観光か?」
「わたし、神官長様のファンなの! ッケホケホ」
「神官長のファン?!!」
アンナが小さいポーチからゴソゴソ紙を取り出した。
それを見たとたん、また吹き出しそうになって口を手で抑えた。
「?! ……な、なんだそれ?」
「村の雑貨屋で売ってるの。都会の有名人の姿絵。隣の村でも持ってる子が多いし、今ちょっとしたブームなんだよ」
「す、すげぇな、最近の女の子は。王子様の姿絵とかじゃないんだ? 兄ちゃんも興味あるからちょっと見せてよ」
「しかたないなぁ、汚さないでよ」
ツンとしながらも、自慢げな笑顔で姿絵を貸してくれた。
手のひらサイズの紙に、神官長の写実的なイラストが描かれていた。写実的……ではあるが、キラキラした装飾が施されて女の子が好みそうな絵になっている。
画家のサインも入っているけど、有名な画家ではない。
王宮騎士の時に教養を勉強したから一通りの有名人は知っている。きっと大衆向けの絵を描く画家なんだろう。
大聖堂近くの土産物店にもあるのか? おそらく大聖堂からの許諾は取ってなさそうだけど。
こういうのが出回っているから、神官長の朗読会に市井の女子が多かったのか~。
「ははっ! すっごい、イケメンだよな~。リアルもこんな感じだよ。俺、今は聖堂騎士をやってるから上司みたいなもんで、よく顔を合わせるんだ」
「ええっ?! 羨ましい!」
「おまえ、王宮騎士じゃなかったのか?!」
親父の食いつきもなかなか激しい。
左遷されたなんて恥ずかしくて言ってなかったけど、この神官長アゲの流れなら言い出しやすくて助かる。
「あぁ、しばらく前からな。ま、多少の配置換えがあったもんでよ」
「そうか……おまえがそんな高尚な職場に。何か縁があったのかもなぁ」
王宮騎士の方がエリートだったし、聖堂は左遷なんだけど……。そんなことまで知らない親父たちは尊敬の目で俺を見てくる。
俺はなにも騙してないぞ。
「それなら頼みやすいな。アンナが父ちゃんと歩くのは恥ずかしいから、兄ちゃんがいいんだとさ」
「そうは言っても、俺の妹と会ってくれ、なんて言える立場じゃねぇよ? 出来ても、神官長の朗読会に連れていくくらいかなぁ」
「あぁ、それは問題ないんだ。もう神官長様には会う約束をとっているからな」
神官長と約束してる?!
「なんっ?! 知らなかった! 親父って神官長の友達だったのか?」
「ははは、まさか! 昔お世話になった人でな。あ、アンナ、馬たちに水をやってきてくれるか?」
「はーい」
アンナが厩舎に向かうと、親父の顔が真剣な表情になった。
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