上 下
183 / 215
第5章 皇帝編

第165話 機構の拡充 ~欧州条約機構~

しおりを挟む
 大ハーンの死によってモンゴル帝国との緊張関係が緩んだ今。
 同盟のきずなをより強固にしていくチャンスだ。

 モンゴル帝国はキプチャク汗国のバトゥと摂政トレゲネとの対立で数年間は大ハーンが選ばれないはず。
 その数年間が勝負だ。

 外務卿のヘルムート・フォン・ミュラー、軍務卿のレオナルト・フォン・ブルンスマイアーと経済産業卿のゴットハルト・フォン・ギルマンを呼び今後の方針を協議する。
 当面は、次回の東欧条約機構の総会へ向けての準備に集中する。

 現状はまだ東欧条約機構という器を作ったに過ぎず、実務的な取り決めなどは何らなされていなかった。

「さて、ブルンスマイアー卿。東欧条約機構でまずやらなければならないのは相互防衛のための仕組み作りだ。
 軍事情報の相互提供、有事の際の多国籍軍の編成手順、実際に多国籍軍を編成しての軍事訓練など、実務的に仕上げなければならないことは山積している。
 次回総会までにやれるだけやっておきたい。よろしく頼む」
御意ぎょい

「ギルマン卿。次に進めたいのは自由貿易協定を中心とした経済産業分野の協力のための枠組み作りだ。やってくれるな」
(しばらく大人しかったと思ったら…また無茶ぶりを…)

「何か言いたいことでも?」
「いえ…承知いたしました」

「そしてミュラー卿。各分野の実務協力を進めることもあるが、それに先立って東欧条約機構の統治機構を整えなければならない。
 最高意思決定機関は各国君主からならなる総会として、その下部機関として安全保障、経済産業など各分野の委員会を設ける。
 そしてそれを事務面で支える事務局を設ける。
 そんな形で考えているのだがどうかな?」
「陛下。いったいどこからそのようなアイデアが湧いて出るのですか?私には文句のつけようがありません」

 ──いや。単に国際連合をパクっただけなんだけど…

「単なる思い付きだからな。見過ごしている点もあるだろう。卿の方で案を精査してくれ」
御意ぎょい

「それから事務局長は卿に兼務してもらうからな。承知しておいてくれ」

 ──いきなりそんな大役を!

「……御意ぎょい

「それから機構の最高権力者は総会議長ということになるからな。このポストはなんとしてもちんが確保したい。根回しをしっかりたのんだぞ」

 ──さすがに陛下に盾突く勇気のある国はないと思いますが…

御意ぎょい

「あとは名称なのだが、次回総会では参加を表明した神聖帝国内の国・都市の参加が承認されるだろう。そうすると『東欧』というのはふさわしくないからな。将来的に参加国が増えることも見据えて『欧州条約機構』という名前に変更しようと思うが、いかがであろうか?」
「それは良き案かと思います」とミュラー卿が即答した。

「うむ。ではそれで行こう。では、各員行動開始だ!」
御意ぎょい

    ◆

 そして半年後、ついに定例総会の日がやってきた。

 フリードリヒはスタッフとともに、テレポーテーションでブタ・ペストに向かう。

 まず初めに、総会議長人事であるがこれは神聖帝国皇帝フリードリヒということですんなりと決まった。
 いまのところ機構は相互防衛が目玉であるから、軍事的に一番力を持っているフリードリヒが議長となることに異を唱える者はいなかった。

 続いて参加を表明している神聖帝国内の国・都市の加盟であるが、こちらも問題なく了承された。皆、大きいことはいいことだという発想なのだろう。
 前皇帝のフリードリヒⅡ世が国王を務めるシチリア王国であるが、ギリギリまで様子見をしていたのだが、総会直前に参加を表明し、加盟もギリギリで間に合った。

 そこで第1回総会が開かれたのだが、相互防衛の枠組みについてはすんなりと合意されたのだが、経済分野については喧々諤々けんけんがくがくの議論となった。

 これまで自由貿易などの発想がまったくない保護主義派とリューベック、ハンブルグなどの自由主義の威力を実感している一派との全面対決となったのだ。

 しかし、これはあらかじめフリードリヒの意図したことだった。あえて激しい議論を行うことにより、雨降って地固まることを狙ったのである。

 ──まるで商工組合総連合会の立ち上げの時のようだ。

 フリードリヒはもちろん自由主義派の立場から、保護主義派が提出した論点を前世の経済学・経営学の知識を総動員して一つ一つ丁寧に論破していった。

「理屈としてはわかるが、そのようなことが本当に上手うまくいくのか…」と各国代表からそんなつぶやきが聞こえる。

 確かに経済学の理論は感覚ではつかみにくいところがあるのは確かだ。

「ここ数年のハンザ都市やフランドル地方の繁栄ぶりをみていただければそれが証拠です。もし結果が出なければ、もう一度総会で善後策を議論しましょう」

 フリードリヒのこの言葉をきっかけに、総会代表たちは年寄りにはできないこの若き皇帝の発想に賭けてみようという雰囲気になった。

 これでまずは自由主義的方向で経済協力を進めることが決まった。

 最後に名称変更の問題であるが、こちらもあっさりと決まった。
 東欧諸国が多少抵抗するかとは思っていたが、こだわりはなかったようだ。要は自分たちの安全がしっかりと保障される枠組みとなっていれば、こだわりはないらしい。

 本部事務局だが、ナンツィヒに置くことになった。
 ロートリンゲンは機構の分担金の最大のスポンサーであり、最強の軍事力を持つということで、反論はしにくい雰囲気だった。

 問題はこれまで置かれていたブタ・ペストの本部であるが、モンゴルの脅威はまだ去っていないということで、支部事務局として残すこととなった。

 こうして第1回の欧州条約機構の総会は終わった。

    ◆

 その夜。機構の第1回総会の祝賀パーティーが開かれた。
 このような場合、ヨーロッパでは婦人同伴と相場は決まっているが、フリードリヒのパートナーは当然に正妻のヴィオランテである。

 ハンガリー王ベーラⅣ世が挨拶あいさつにやってきた。
「これは皇帝陛下。今日は陛下の独壇場でしたな」
「独壇場というのは大袈裟だが、概ね予定していた案件はこなした。順調で何よりだ」

「ところでそちらの皇后陛下はうわさたがわずお美しいですな。それにその衣装も見事です」
「この衣装は私がデザインしたものですが、これもフランドルで自由経済が発展した賜物たまものなのですよ」

 ──ヴィオラ。ナイスフォロー!

「なるほど。こうして実物を見せられると納得がいきますな。
 ところで陛下。ちんには娘が何人かおるのですが…」
 と嫁取りの話が始まってしまった。

 こうなると話は止まらず、結局ハンガリーのベーラⅣ世の三女ヨラーン、ポーランドのシロンスク公・ヘンリクⅡ世の次女コンスタンツィアとボヘミア王ヴァーツラフⅠ世の長女ボジェナと婚約する羽目になってしまった。

 この三国については対モンゴルの最前線に立たされているのだから、機構による相互防衛というだけでなく、縁戚関係によって強固に結びつきたいということがあるのだろう。
 気持ちとしてはわかるので、こちらは断り切れなかった。

    ◆

 これで機構は更なる拡充を遂げた訳ではあるが、フリードリヒの頭の中ではこれで終わりということはなかった。

 さて、次の一手をどうするかな…
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...