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第4章 国主編
第133話 ナンツィヒの再開発 ~宗教施設の拡充~
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アル=カーミルは約束どおりモスクの建築技術者を派遣してくれた。
いよいよモスクの建設が始まる。
それに当たってナンツィヒ在住のイスラム商人の代表者がフリードリヒに拝謁したいということなので、これを許した。
「この度はモスク建設にご配慮くださり誠にありがとうございます。ドイツにいながらモスクで礼拝できるなど夢のようです」
「こちらの方こそ、随分と待たせてしまった。こういうことは教皇がうるさいからな」
「教皇の方は本当に大丈夫なので?」
「強硬な人物らしいが、先日の戦ではたっぷりと恥をかかせてやった。よほどのバカでない限りロートリンゲンに兵を向けたりしないだろう」
「閣下の軍隊は天使の加護を受けておられるのでしたな」
「そういうことだ」
「そんな国に十字軍を派遣してみろ。恥の上塗りをするだけだ」
「それはもっともでございますな」
「そもそもキリスト教の教えでは『隣人を愛せ』とある。これにはキリスト教徒も異教徒も関係ないと思うのだ。
それにキリスト教もイスラム教も信ずる神は同じではないか」
意外に知られていないが、キリスト教でいうエホバも、イスラム教でいうアラーもヘブライ語でいうヤハウェのことを指す。要は同一人物なのだ。
◆
モスクは利便性を考えてイスラム街に隣接して建設することにした。
イスラムの礼拝は1日5回ある。
場所は家の中でも良いとされるが、できるだけモスクでの集団礼拝が好ましいとされる。
イスラム教は戒律が厳しいだけに、ナンツィヒ在住のイスラム教徒にとっては、モスク建設は悲願だった訳だ。
基本的にアイユーブ朝から派遣された技術者を中心に行うが、慣れてきたら悪魔たちに手伝わせる予定だ。
モスクにはミナレット(礼拝を呼びかけるアザーンが流される塔)を付属して作る予定だ。その方が断然カッコいいということもあるし、宗教的権威を表すものでもある。
◆
イスラム教のモスクばかり立派になってひがまれてもこまるので、カトリックの大聖堂も立派なものに改修することにした。
この時代、高層の建築物といえば宗教施設だから、みすぼらしいものであっては都合が悪い。
フリードリヒはかなりの金額を大聖堂の改修用ということで教会に寄進した。
寄進の担当者は修道女だった。
「大公閣下。このように過分な寄進をありがとうございます」
「なに。キリスト教の聖堂がイスラムのモスクに負けていてはシャレにならないからな。立派なものに改修して欲しい」
「閣下には聖槍もお借りしており、そのうえこのようなことまで…本当に心から感謝いたします」
そういうと修道女はキラキラとした目でフリードリヒを見つめている。
──そんな目でみられても困るんだけどな…
◆
シスター・アンゲラはナンツィヒ在住の鍛冶屋の娘として生まれた。
一家は熱心なカトリック信者でアンゲラは自然とカトリックの熱心な信者となった。
教会へ通い、寄付を行い、奉仕活動にも積極的に参加した。
生来頭の良かった彼女は、教会とのつながりを持つうちに読み書きや計算を覚え、聖書にも詳しくなっていった。
12歳で成人すると、ためらいなく「貞潔、清貧、従順」の修道誓願を行い、3年を経た15歳のときに終生誓願を立て、正式な修道女となった。
彼女は、実は霊的能力にも優れていた。幽霊、妖怪、妖精の類が小さい頃から見えていたのである。
子供の時は妖精のピクシーや下級天使のハラリエルと友達になり、隠れて遊んだこともある。
しかし、見える、聞こえると幽霊や妖怪にバレてしまうと彼らは彼女のところに寄って来てはちょっかいを出してくる。
これに懲りた彼女はできるだけこの能力を隠すことにした。
数年前、ナンツィヒが諸侯の反乱にあい攻められた。
アンゲラは城内に避難していたが、友人の下級天使ハラリエルの言葉にハッとした。
「大天使ミカエル様だわ!」
窓に駆け寄ると大天使ミカエルが中空に多数の天使を伴って現れた。
その背からは眩後光を放っている。
──ああ! なんと神々しい…
ミカエルに祈りを捧げようとした時、もう1人眩く神々しいオーラを放っている人物に気がついた。
見た感じだと暗黒騎士団とかいう軍隊の指揮官のようだ。
「あの方は?」とアンゲラはハラリエルに聞いた。
「ああ。あれはたぶんツェーリンゲン卿ね」
「あんな神々しいオーラを放つなんて、どんな方なの?」
「なんでも天界の噂じゃあミカエル様のこれらしいよ」とハラリエルはそう言いながら親指を示した。
──熾天使と人族が! そんなバカな!?
「何で皆はミカエル様ばかり見ているの?」
「ミカエル様はあえて人族に見えるようにしているからね。でも、彼は違う」
「それって私にだけ見えてるってこと?」
「ああ。霊能力のある人にしか見えていないね」
「それでみんなわからないのね…」
あんな神々しいオーラを放つ人なのだ。よく考えてみればミカエル様の×××ということも、あながちあり得ない話ではないのかもしれない…
アンゲラはそう思った。
◆
それから数年後。
ロートリンゲン公フリードリヒが世間で聖槍であると評判の槍を貸与してくれることとなった。
大公は自ら槍を持ってやってきた。
アンゲラは、司教と大公のやり取りを遥か後方から見ている。
「貴重な聖槍をこれは大公閣下自らお持ちとは恐縮でございます」
「聖槍かどうかは知らないが、どうも他の人間が持つと機嫌を損ねるみたいでね」
「左様でございますか」
「で、こいつはどこに置けばいい?」
「いや。お手を煩わせる訳には…あとは手前どもでやりますので…」
「そうか…」
一人の助司祭が進み出て槍を受け取るが、慌てて手を離してしまった。槍が音を立てて転がる。
「馬鹿者! 何ということを…」
「しかし、持った瞬間に手が痺れてしまって…」
「なんと…」
フリードリヒは言った。
「では、やはり私がやろう」
アンゲラはその槍に聖ロンギヌスを幻視していた。
大公閣下は誤魔化しているが、あれは間違いなく聖槍だ。
帝国レガリアの聖槍に配慮して、あえて誤魔化しているのだろう。
それにしても大公のオーラのなんと神々しいことか。以前ははるか遠くから見ただけだったが、こうして近くでみると神にも等しい感じがする。
このとき彼女はフリードリヒに憧れの感情を抱いた。
◆
修道女となったアンゲラは、女性には珍しく祓魔師となった。
彼女ほどではないにしても、教会には霊能力を持つ者がおり、彼女の能力を見抜かれたのだ。
アンゲラは、不安を覚えながらもハラリエルなどの力を借りながら祓魔師の仕事をこなしていった。
しかし、不思議とナンツィヒでトラブルを起こす悪魔や悪霊は雑魚ばかりだった。
実はフリードリヒが配下の天使や悪魔を使って人間に深刻な害を及ぼすような悪魔や悪霊の類を追い払っていたのだ。
アンゲラは、ナンツィヒの町ではやたらと高位の天使や悪魔が徘徊していることに気づいていた。
だが、悪魔の方も誰かの命令に従っているようで、人間に害を及ぼす様子はない。
──いったいどういうことなのかしら?
◆
ナンツィヒの町が発展するにつれ、教会への寄付なども増え、教会の経理規模も拡大・複雑化していった。
そして、教会も今流行りの複式簿記を取り入れることになった。
もともとナンツィヒの町の祓魔師に高度な能力は求められない。
ならば計算が得意なアンゲラに任せようということになった。
アンゲラは必死に複式簿記を勉強し、数か月でマスターした。
──それにしても何とよくできた仕組みなんだろう…
だが、聞いたところによると複式簿記はロートリンゲン公フリードリヒが子供の頃に考案したものだという。
アンゲラは呆れた。なんと非常識な人なのか…
◆
そして先日。
フリードリヒが聖堂改修のための寄付金を持って自らやってきた。
アンゲラは、この時初めてフリードリヒと面と向かって対面した。
何と眉目秀麗な優男なのか…アンゲラは目を見張った。
そして何と言ってもこの眩く高貴なオーラ…
アンゲラは少しの間、フリードリヒのオーラに酔いしれた。
──ダメよ。ちゃんとお礼を言わなくては…
「大公閣下。このように過分な寄進をありがとうございます」
アンゲラは、フリードリヒが去ったあと大きなため息をついた。
当分の間、フリードリヒのことが頭から離れそうもない…
◆
この世界の宗教は、キリスト教はやはり力を持っているが前世の中世ほど独占的な状況にはなっていない。
神聖帝国はローマ帝国の後継を主張していたからゼウスなどのオリュンポスの神々も信仰されていたし、位置的にヨーロッパ北部に属するだけにオーディンなどの北欧神話の神々もしかりである。
そういう訳で、ナンツィヒの町にも都市の守護神たるアテナの処女宮神殿が存在していた。
そこでモスク建設の裏で、アテナの神殿の横に、もう一つ神殿を建設することにした。
フリードリヒの母、ガイアの神殿である。
ガイアは原初神の一柱として名前は知られているが、現状ではオリュンポスの12神やなんといってもキリスト教勢力に押されて、信仰の対象とは言い難い状況にある。
以前、ダーナ神族から言われたとおり、神の力の源泉は人々が神を信ずる心だ。
このままでは、ガイアが神としての力を失ってしまうのではないかとフリードリヒは心配していた。
それに将来的にはガイアの名前を大々的に使わせてもらおうかという構想もないではなかった。
これはその布石という意味もある。
ガイアの神殿はフリードリヒの直轄工事で行うこととし、意匠は凝りに凝ったものとなった。
聖職者もしかるべきところから招請するが、後は番人が必要だな。
スプリガンのグリュンキントは聖槍の番をしているから、残りは…
フリードリヒが念じると召喚陣から三つの頭を持ち首の周りには蛇が生え、尾も蛇という巨大な犬が姿を現した。
地獄の番犬、ケルベロスである。
「これは主殿。我をお召しとは珍しい」
「おまえはアバターが飛ばせるのであったな」
「然り」
「では、この神殿の番犬として働いてもらいたい。もちろん普段は隠形していてくれ」
「この神殿は?」
「神ガイアの神殿だ」
「おお。主殿の母上の神殿であったか。それであれば全力を持って守らせてもらう」
「頼んだぞ」
ガイア神殿をアテナ神殿の横に建てた効果はすぐにあらわれた。
人とは現金なもので、アテナの神殿に参った後は、ついでにガイアにもお参りしていくことが定着していった。
そこは日本人と似ていて、良くわからない神でも、とりあえずお参りすれば何かご利益はあるだろう程度の意識なのだろう。
だが、しばらくするとガイア神殿は霊障を払うことで有名となっていった。
悪霊に取り付かれた者がガイア神殿に近づいただけで悪霊は逃げて行くのだという。
それは実はガイアのご利益ではなくて、悪霊が地獄の番犬を恐れて逃げて行くだけの話なのだが、悪いことではないので放置しておいた。
こうしてガイア神殿も徐々にナンツィヒの町の名物となっていくのだった。
いよいよモスクの建設が始まる。
それに当たってナンツィヒ在住のイスラム商人の代表者がフリードリヒに拝謁したいということなので、これを許した。
「この度はモスク建設にご配慮くださり誠にありがとうございます。ドイツにいながらモスクで礼拝できるなど夢のようです」
「こちらの方こそ、随分と待たせてしまった。こういうことは教皇がうるさいからな」
「教皇の方は本当に大丈夫なので?」
「強硬な人物らしいが、先日の戦ではたっぷりと恥をかかせてやった。よほどのバカでない限りロートリンゲンに兵を向けたりしないだろう」
「閣下の軍隊は天使の加護を受けておられるのでしたな」
「そういうことだ」
「そんな国に十字軍を派遣してみろ。恥の上塗りをするだけだ」
「それはもっともでございますな」
「そもそもキリスト教の教えでは『隣人を愛せ』とある。これにはキリスト教徒も異教徒も関係ないと思うのだ。
それにキリスト教もイスラム教も信ずる神は同じではないか」
意外に知られていないが、キリスト教でいうエホバも、イスラム教でいうアラーもヘブライ語でいうヤハウェのことを指す。要は同一人物なのだ。
◆
モスクは利便性を考えてイスラム街に隣接して建設することにした。
イスラムの礼拝は1日5回ある。
場所は家の中でも良いとされるが、できるだけモスクでの集団礼拝が好ましいとされる。
イスラム教は戒律が厳しいだけに、ナンツィヒ在住のイスラム教徒にとっては、モスク建設は悲願だった訳だ。
基本的にアイユーブ朝から派遣された技術者を中心に行うが、慣れてきたら悪魔たちに手伝わせる予定だ。
モスクにはミナレット(礼拝を呼びかけるアザーンが流される塔)を付属して作る予定だ。その方が断然カッコいいということもあるし、宗教的権威を表すものでもある。
◆
イスラム教のモスクばかり立派になってひがまれてもこまるので、カトリックの大聖堂も立派なものに改修することにした。
この時代、高層の建築物といえば宗教施設だから、みすぼらしいものであっては都合が悪い。
フリードリヒはかなりの金額を大聖堂の改修用ということで教会に寄進した。
寄進の担当者は修道女だった。
「大公閣下。このように過分な寄進をありがとうございます」
「なに。キリスト教の聖堂がイスラムのモスクに負けていてはシャレにならないからな。立派なものに改修して欲しい」
「閣下には聖槍もお借りしており、そのうえこのようなことまで…本当に心から感謝いたします」
そういうと修道女はキラキラとした目でフリードリヒを見つめている。
──そんな目でみられても困るんだけどな…
◆
シスター・アンゲラはナンツィヒ在住の鍛冶屋の娘として生まれた。
一家は熱心なカトリック信者でアンゲラは自然とカトリックの熱心な信者となった。
教会へ通い、寄付を行い、奉仕活動にも積極的に参加した。
生来頭の良かった彼女は、教会とのつながりを持つうちに読み書きや計算を覚え、聖書にも詳しくなっていった。
12歳で成人すると、ためらいなく「貞潔、清貧、従順」の修道誓願を行い、3年を経た15歳のときに終生誓願を立て、正式な修道女となった。
彼女は、実は霊的能力にも優れていた。幽霊、妖怪、妖精の類が小さい頃から見えていたのである。
子供の時は妖精のピクシーや下級天使のハラリエルと友達になり、隠れて遊んだこともある。
しかし、見える、聞こえると幽霊や妖怪にバレてしまうと彼らは彼女のところに寄って来てはちょっかいを出してくる。
これに懲りた彼女はできるだけこの能力を隠すことにした。
数年前、ナンツィヒが諸侯の反乱にあい攻められた。
アンゲラは城内に避難していたが、友人の下級天使ハラリエルの言葉にハッとした。
「大天使ミカエル様だわ!」
窓に駆け寄ると大天使ミカエルが中空に多数の天使を伴って現れた。
その背からは眩後光を放っている。
──ああ! なんと神々しい…
ミカエルに祈りを捧げようとした時、もう1人眩く神々しいオーラを放っている人物に気がついた。
見た感じだと暗黒騎士団とかいう軍隊の指揮官のようだ。
「あの方は?」とアンゲラはハラリエルに聞いた。
「ああ。あれはたぶんツェーリンゲン卿ね」
「あんな神々しいオーラを放つなんて、どんな方なの?」
「なんでも天界の噂じゃあミカエル様のこれらしいよ」とハラリエルはそう言いながら親指を示した。
──熾天使と人族が! そんなバカな!?
「何で皆はミカエル様ばかり見ているの?」
「ミカエル様はあえて人族に見えるようにしているからね。でも、彼は違う」
「それって私にだけ見えてるってこと?」
「ああ。霊能力のある人にしか見えていないね」
「それでみんなわからないのね…」
あんな神々しいオーラを放つ人なのだ。よく考えてみればミカエル様の×××ということも、あながちあり得ない話ではないのかもしれない…
アンゲラはそう思った。
◆
それから数年後。
ロートリンゲン公フリードリヒが世間で聖槍であると評判の槍を貸与してくれることとなった。
大公は自ら槍を持ってやってきた。
アンゲラは、司教と大公のやり取りを遥か後方から見ている。
「貴重な聖槍をこれは大公閣下自らお持ちとは恐縮でございます」
「聖槍かどうかは知らないが、どうも他の人間が持つと機嫌を損ねるみたいでね」
「左様でございますか」
「で、こいつはどこに置けばいい?」
「いや。お手を煩わせる訳には…あとは手前どもでやりますので…」
「そうか…」
一人の助司祭が進み出て槍を受け取るが、慌てて手を離してしまった。槍が音を立てて転がる。
「馬鹿者! 何ということを…」
「しかし、持った瞬間に手が痺れてしまって…」
「なんと…」
フリードリヒは言った。
「では、やはり私がやろう」
アンゲラはその槍に聖ロンギヌスを幻視していた。
大公閣下は誤魔化しているが、あれは間違いなく聖槍だ。
帝国レガリアの聖槍に配慮して、あえて誤魔化しているのだろう。
それにしても大公のオーラのなんと神々しいことか。以前ははるか遠くから見ただけだったが、こうして近くでみると神にも等しい感じがする。
このとき彼女はフリードリヒに憧れの感情を抱いた。
◆
修道女となったアンゲラは、女性には珍しく祓魔師となった。
彼女ほどではないにしても、教会には霊能力を持つ者がおり、彼女の能力を見抜かれたのだ。
アンゲラは、不安を覚えながらもハラリエルなどの力を借りながら祓魔師の仕事をこなしていった。
しかし、不思議とナンツィヒでトラブルを起こす悪魔や悪霊は雑魚ばかりだった。
実はフリードリヒが配下の天使や悪魔を使って人間に深刻な害を及ぼすような悪魔や悪霊の類を追い払っていたのだ。
アンゲラは、ナンツィヒの町ではやたらと高位の天使や悪魔が徘徊していることに気づいていた。
だが、悪魔の方も誰かの命令に従っているようで、人間に害を及ぼす様子はない。
──いったいどういうことなのかしら?
◆
ナンツィヒの町が発展するにつれ、教会への寄付なども増え、教会の経理規模も拡大・複雑化していった。
そして、教会も今流行りの複式簿記を取り入れることになった。
もともとナンツィヒの町の祓魔師に高度な能力は求められない。
ならば計算が得意なアンゲラに任せようということになった。
アンゲラは必死に複式簿記を勉強し、数か月でマスターした。
──それにしても何とよくできた仕組みなんだろう…
だが、聞いたところによると複式簿記はロートリンゲン公フリードリヒが子供の頃に考案したものだという。
アンゲラは呆れた。なんと非常識な人なのか…
◆
そして先日。
フリードリヒが聖堂改修のための寄付金を持って自らやってきた。
アンゲラは、この時初めてフリードリヒと面と向かって対面した。
何と眉目秀麗な優男なのか…アンゲラは目を見張った。
そして何と言ってもこの眩く高貴なオーラ…
アンゲラは少しの間、フリードリヒのオーラに酔いしれた。
──ダメよ。ちゃんとお礼を言わなくては…
「大公閣下。このように過分な寄進をありがとうございます」
アンゲラは、フリードリヒが去ったあと大きなため息をついた。
当分の間、フリードリヒのことが頭から離れそうもない…
◆
この世界の宗教は、キリスト教はやはり力を持っているが前世の中世ほど独占的な状況にはなっていない。
神聖帝国はローマ帝国の後継を主張していたからゼウスなどのオリュンポスの神々も信仰されていたし、位置的にヨーロッパ北部に属するだけにオーディンなどの北欧神話の神々もしかりである。
そういう訳で、ナンツィヒの町にも都市の守護神たるアテナの処女宮神殿が存在していた。
そこでモスク建設の裏で、アテナの神殿の横に、もう一つ神殿を建設することにした。
フリードリヒの母、ガイアの神殿である。
ガイアは原初神の一柱として名前は知られているが、現状ではオリュンポスの12神やなんといってもキリスト教勢力に押されて、信仰の対象とは言い難い状況にある。
以前、ダーナ神族から言われたとおり、神の力の源泉は人々が神を信ずる心だ。
このままでは、ガイアが神としての力を失ってしまうのではないかとフリードリヒは心配していた。
それに将来的にはガイアの名前を大々的に使わせてもらおうかという構想もないではなかった。
これはその布石という意味もある。
ガイアの神殿はフリードリヒの直轄工事で行うこととし、意匠は凝りに凝ったものとなった。
聖職者もしかるべきところから招請するが、後は番人が必要だな。
スプリガンのグリュンキントは聖槍の番をしているから、残りは…
フリードリヒが念じると召喚陣から三つの頭を持ち首の周りには蛇が生え、尾も蛇という巨大な犬が姿を現した。
地獄の番犬、ケルベロスである。
「これは主殿。我をお召しとは珍しい」
「おまえはアバターが飛ばせるのであったな」
「然り」
「では、この神殿の番犬として働いてもらいたい。もちろん普段は隠形していてくれ」
「この神殿は?」
「神ガイアの神殿だ」
「おお。主殿の母上の神殿であったか。それであれば全力を持って守らせてもらう」
「頼んだぞ」
ガイア神殿をアテナ神殿の横に建てた効果はすぐにあらわれた。
人とは現金なもので、アテナの神殿に参った後は、ついでにガイアにもお参りしていくことが定着していった。
そこは日本人と似ていて、良くわからない神でも、とりあえずお参りすれば何かご利益はあるだろう程度の意識なのだろう。
だが、しばらくするとガイア神殿は霊障を払うことで有名となっていった。
悪霊に取り付かれた者がガイア神殿に近づいただけで悪霊は逃げて行くのだという。
それは実はガイアのご利益ではなくて、悪霊が地獄の番犬を恐れて逃げて行くだけの話なのだが、悪いことではないので放置しておいた。
こうしてガイア神殿も徐々にナンツィヒの町の名物となっていくのだった。
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