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第4章 国主編

第118話 ルシファーの結婚(2) ~ペートラの大変身~

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 それからペートラがヴィオランテの私室に呼びだされた。
 大公の正妻からの突然の呼び出しにペートラは仰天した。

 緊張したおもむきでペートラはヴィオランテの前に出た。
 見ると横にイザベルが控えている。そこでペートラは事情を悟った。

「急に呼びだしてごめんなさいね。驚いたでしょう」
「問題ありません」

「単刀直入に言うわ。あなたフェヒナー卿のことが好きなのでしょう」
「は、はい」

「でも、自分に自信がないと?」
「はい。私のような者がフェヒナー卿とつりあうはずがございません」

「それはどうかしら。私に言わせれば、あなたは宝石の原石みたいなものよ。磨けばいくらでも光るわ」
「そんなものでしょうか?」

「そうねえ。まずは服を脱いでみてくれる?」
「えっ!脱ぐんですか」

 恥ずかしかったが、ペートラは服を脱いだ。

 彼女は他の女性よりも少しばかり背が高かった。そして手も足もすらりと伸びており形も良い。いわゆるモデル体型だったのだ。

 ヴィオランテの目がキラリと光る。
 ペートラの体型がヴィオランテのファッション・デザイナー魂に火をつけてしまった。

 しかし、ペートラは自分の高い身長も少しコンプレックスに思っていた。確かにもてる女性は小柄な人が多い。それをもって、大女はもてないと思い込んでいたのだ。

 ヴィオランテはクローゼットに入ると服を何着か持ってきた。

「これを着てみてちょうだい」
「はい」

 服を着た姿を見てイザベルは目を見張った。さすがヴィオランテのチョイスである。
「ペートラ。綺麗よ」
「ほ、本当ですか?」
「嘘なんかじゃないわ」

 ヴィオランテが言った。
「私の服だからサイズが少しあっていないけれど、思ったとおり似合うわね。
 私決めたわ。ペートラ専用の侍女服を作る」
「そんな。もったいない」

「いいのよ。私の道楽でやるだけだから気にしないで」
「申し訳ございません」

「謝ることはないわ。
 それから髪とお肌のお手入れも必要ね。もちろんお化粧も覚えるのよ」
「ええっ! そんなに…」

「女が美しくなるのは一朝一夕ではできないの。たいへんなのよ。これもすべてフェヒナー卿のためと思いなさい」
「わかりました」

    ◆

 翌日。
 ペートラ用の侍女服が早くも出来上がった。
 ヴィオランテが待ちきれず徹夜で作ったらしい。

 ペートラは早速試着してみる。
「あのう。これサイズが間違っていませんか。ひざが出ちゃっているし、胸の谷間も見えちゃっているんですけど…」
「いいえ。予定どおりよ」

 ナンツィヒの城で使われている侍女・メイド服はヴィオランテがデザインしたもので、ふくらはぎが半分ほど出る長さのものだ。それでもこの時代は煽情的せんじょうてきだと話題になっており、貴族の間では評判になっていた。

 今回は一気に膝上まで短くした訳だ。

「やっぱり恥ずかしいです」
「仕方ないわね。じゃあストッキングをはいてみる?」

 ストッキングは現代のようなものは技術的に難しいので、いわゆるガーターベルトで止めるタイプのものである。
 が、これはこれでマニアには垂涎すいぜんのものだった。

 中にはガーターベルトに愛の告白の文字を入れ、スカートをめくりあげ、その文字を見せて告白するようなことをする者もいた。

 ストッキングを試着したペートラは言った。
「これならばなんとか我慢します」

「じゃあ。少し歩く練習をしましょう」
「歩く練習?」

 ヴィオランテの前世の紅葉くれは自身はモデルの経験はなかったが、デザイナーだからモデル歩きの指導くらいはできる。

 幸いペートラは運動神経がよく、少し練習するだけでそれっぽくなった。

 一連のことを見ていたイザベルは言った。

「ペートラ。綺麗というか、カッコいいです。感動しました」
「そんなあ。これでお城の中を歩くと思うとはずかしいですぅ」

 ヴィオランテがダメ押しをする。
「あなたの美しさは私が太鼓判を押すわ。あなたはさっき教えたとおり胸を張って堂々と歩けばいいのよ」
「はい。やってみます」

    ◆

 ペートラが城の中を歩くと、すれ違うもものが男も女も皆が驚き振り返る。しかし、よく見るとペートラだということがわかり、「なあんだ。ペートラか」という表情に戻った。

 そしてルシファーのところに顔を出した。
 ルシファーはペートラのあまりの変わりように目を見張った。

「恥ずかしいから、そんなに見ないでください」
「ああ。悪かった」

 ペートラはそれから何事もなかったかのように仕事を始めた。
「またあ。グレゴール様ったらだらしないんだから」
 といつもの愚痴を言いながら片付けをしている。

 ルシファーはむき出しになったふくらはぎや胸の谷間にチラチラと目が行くのを止められない。
 姿勢によっては太もももチラリと見える。

 ルシファーは赤面しそうになるのを覚え、視線を窓の外の景色に移した。

 ──地獄のあるじたるものがこれしきのことで動揺してどうする。

 必死に自分に言い聞かせていた。

 それからというもの、髪や肌の手入れの効果も表れ、お化粧も上達して日々小綺麗になっていくペートラに城の人々は認識を新たにしていった。「なあんだ。ペートラか」と思う人はもういない。

 ルシファーも日々高まっていく感情をいつか抑えきれなくなるのではないかと思い始めていた。

    ◆

 そしてルシファーが剣術の稽古を終え、着替えを手伝っている時、ペートラは感極まってルシファーの背中に抱きついてしまった。

「何をしている。汗臭いだろう」
「いいえ。いい匂いがいたします。この匂いを嗅いでいると幸せな気持ちになれるのです。私はもうグレゴール様なしでは生きていけません」

 しばらくの間があってルシファーが言った。

「これはいつかわかることだから言っておく。私を含め第4中隊は蠅騎士団フリーゲリッターと同じく、悪魔の軍団なのだ。
 それでもいいのか?」
「あのう。グレゴール様の悪魔としての本性も見せていただいてもよろしいですか?」

「ああ。構わない」
 そういうとルシファーは12枚の羽を生やした天使の姿となった。

 それをじっと見つめていたペートラは言った。
「とっても綺麗です。怖くなんかありません。それにロートリンゲンには異形いぎょうの人たちがたくさんいますから、これしきの事で驚いていてはお城務めなんかできませんよ」
「それもそうだな」

 2人はクスクスと笑いあった。

「ということで、私をグレゴール様の愛妾あいしょうにしていただけませんか?」
「いや。ダメだ」

「えっ!そんな…」
「おまえは私の正妻にする」

「しかし、私は貴族ではなく庶民の出ですが…」
「そんなことはどうでもよい」

「わかりました。不束者ですがよろしくお願いいたします」
「ああ。こちらこそよろしく頼む」

    ◆

 ルシファーとペートラの結婚式はナンツィヒの大聖堂で無事行われた。

 そして結婚初夜の日。
 ペートラは仰天した。

 グレーテルから色ごとについては、一通りのことは教わっていたのだが、ルシファーの一物を目の当たりにしたペートラは恐怖を覚えた。
 地獄のあるじルシファーの一物は大きさも長さも地獄級だったのだ。

 そして…

    ◆

 翌日。
 破瓜の痛みに耐えながらペートラはグレーテルのもとへ向かった。

「グレーテルさん。話が違いますよ。グレゴール様のあれはこんなに大きかったんですよ」

 それを聞いてもグレーテルは動じることはなかった。
「まあ。あれは個人差が大きいから仕方ないわね」
「グレーテルさんは驚かないんですか」

「私もそういう人と長年付き合ってきたから…」
「まさか大公閣下も…」

 グレーテルは無言でうなずいた。

「でもこの痛さは異常です。もしかして私のあそこは壊れてしまったかもしれません」
「そこまで言うなら見せてごらんなさい」

「えっ! あそこをですか?」
「見なければわからないじゃない」

 恥ずかしながらも脱いでいくペートラ。
「ほら。もっと足を広げないと見えないじゃない」
「わかりましたぁ」

 ペートラは恥ずかしさを我慢して足を開く。
「うーん。見たところ外傷はないわね。じゃあ、少し開いて中の方もちょっと見てみるね」
「いえ。そこまでは…ひゃっ」

「中も大丈夫みたいよ」
「そうですか良かったです」

「慣れてない男の人だと無理やりやって傷つけたりすることも珍しくないらしいから…グレゴール様が上手な人でよかったわね」
「それは…ありがとうございます」

「しかし、こんなことにずっと耐えられるのでしょうか」
「そこは女の体の神秘なところでね。やっていくうちにだんだんと体の方が適応していくから大丈夫よ。心配しないで」

「はあ。そういうものなのですね」

 それからはルシファーとペートラは上手くいっているらしく、ペートラがグレーテルのもとを再び訪ねることはなかった。

    ◆

 グレーテルから一連の話を聞いたフリードリヒは思った。
 ペートラ頑張れと…ルシファーが欲求不満になって暴れ出したりしたら世界が滅びかねないからな。
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