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第4章 国主編
第109話 フィリップ・ユルプルの反乱 ~アレクのとんでもクエスト~
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フリードリヒは買収された貴族の一つを訪ねる。
まずは門番に誰何された。
「何用だ?」
「私は某家の家宰をやっておりますセバスチャンと申します。当家の主人からの伝言をお伝えしたいので、是非ともご当主様に面会させていただきたいのですが…」
「某家などと訳の分からぬ者を通すわけにはいかぬ」
「そうおっしゃらずに、まずはこれをお納めください」
というとフリードリヒは門番に金貨を一枚握らせた。
効果はてき面だった。主が主なら仕える者もそれなりにということなのだろう。
当主の部屋へ通されると横柄な態度で聞かれる。
「某家の家宰とはおまえか。そもそも某家とはどこなのだ?」
「ブランシュ様の後ろ盾とだけ言っておきます」
「ロートリンゲン公か?」
「…………」
「まあ良い。それで要件とは何か?」
「サンジェルマン伯から話のあった件ですが…」
「何のことだかさっぱりわからぬな。何者なのだそのサンジェルマン伯というのは?」
フリードリヒは物体引き寄せでサンジェルマン伯から渡されたダイヤモンドを引き寄せ、それを手にかざす。
「では、これは何でございますかな?」
「そ、それは…」
「とにかくお聞きください。当家の主は中立を保っていただけるのであれば同量を、寝返って王にご加勢いただけるのであれば倍の量のダイヤモンドをご提供すると申しております」
「倍だと…小国が一つ買えるではないか。そんな…あり得ない」
フリードリヒはマジックバッグからダイヤモンドを取り出し、実際に見せると、それをテーブルの上に無造作にばら撒いた。
当主の表情が歓喜の表情に一変する。
「わかった。王の加勢でもなんでもしよう。そのかわりこのダイヤモンドは私のものだ。後で返せとか言うなよ」
「もちろんでございます。では、この誓約書にサインをお願いいたします」
◆
次はサンジェルマン伯の詐術に論破された貴族のもとに向かう。
当主の部屋へ通されるといきなり詰問される。
「某家とはどこなのだ?」
「ブランシュ様の後ろ盾とだけ言っておきます」
「ロートリンゲン公か?」
「…………」
「まあ良い。それで要件とは何か?」
「サンジェルマン伯から話のあった件ですが…」
「国の安定のためには幼君では不足なのだ。ロートリンゲン公はそんなこともわからぬのか?」
「それを全面的には否定いたしませぬが、幼君というのは長じて親政するようになれば長期にわたり一貫した政策を展開できるというのは大きなメリットです。また、幼いからこそ摂政のブランシュ様がおられ、更にはその後ろ盾にロートリンゲン公がおります」
「ふんっ。ロートリンゲン公など他国の貴族ではないか。いざという時に当てになるものか」
「暗黒騎士団は神速の軍隊です。それに10倍の数のデンマーク軍を壊滅させた実績をよもや知らない訳ではありますまい。
仮に反乱軍が一時的に勝ったとしても、ロートリンゲン公が暗黒騎士団の派遣をいったん決めましたら反乱軍など一夜のうちに蹴散らされますぞ」
「そ、それは…」
「ご当主は暗黒騎士団と戦った経験がないから平然としていられるのです。先にフランス軍とたたかった時にはフランス軍は暗黒騎士団の一兵も損じることができなかったのです。疑問があれば実際に戦った兵士に聞いてみるがよろしい」
「そ、そうだな…サンジェルマン伯は何と言っておったかな…」
「サンジェルマン伯ではなく、ご当主のお考えをお聞かせ願いたい」
「そうだ、やはり血統は大事だということだ」
「血統という意味では嫡流なのですからフィリップ殿が王よりも優れているとは言えません。
それにフィリップ殿の器量の問題もあります。フィリップ殿は現在も政務は共同統治者のマティルド様に任せっきりだというではありませんか。仮にもそのような無為無策の者が王になられては国が滅びてしまいます」
「…………」
相手の反論のネタも尽きたようだ。
「とにかく、ご当家におかれては反乱の際に、王にご加勢いだだければ一番ですが、少なくとも中立を保っていただきたい。
要は、反乱後のご沙汰がどうなるかよく考えて行動されることですな」
「わ、わかった」
こうしてフリードリヒは反乱軍の切り崩しを行い、その数は約半数に及んだ。
◆
逆説得工作は隠密にやっていたとしてもいつかは敵の耳に入る訳で…
フィリップは激怒していた。
「サンジェルマン。どういうことだ。我が方の陣営が切り崩されているではないか」
「おおかたロートリンゲン公が動いているのでしょうな」
「何をのんきに言っておる」
「とにかく今残っている者の結束を固めましょう。あまり目立ちたくはなかったのですが、会合を開いて結束を再確認することといたしましょう」
「寝返った者は再説得しなくて良いのか?」
「そのような者が再び仲間になったとてあてにはなりません。むしろいつ寝首をかかれるかもしれませぬぞ」
「それもそうだな。わかった。」
◆
ルイⅨ世陣営でもフィリップに反乱の動きがあることは察知していたものの、それを討伐するだけの証拠を集められないでいた。
また、いちおう王陣営に属すると目される貴族も動きが鈍く、様子見といった雰囲気が蔓延していた。
ブランシュは焦った。
このままではフィリップに王家を乗っ取られてしまうのではないか。
そんな時。ロートリンゲン公から一通の手紙が届いた。
中にはナンツィヒの冒険者ギルドのクエストの発注用紙が一枚とメモが一枚入っていた。
発注用紙には既にクエストの内容が書き込まれていた。
それはルイⅨ世に対する反乱軍を撃退すること。
受注者も既に記入してあり、白銀のアレクとサインされていた。
後は発注者の欄を記入するだけとなっている。
ちなみに報酬は「ブランシュの愛」と書かれていた。事実上タダということである。
ブランシュは誰かの質の悪い悪戯なのではと疑った。しかし、筆跡は見慣れたロートリンゲン公の美しい筆跡そのものだった。これを見間違えるはずがない。
メモの方にはこう書いてあった。
「発注者欄に署名したら『クエストを発注します』と唱えてください。あなたの部屋にあるマリア像が光を発したら受注完了の印です」
ブランシュは半信半疑でクエスト用紙に署名すると「クエストを発注します」と唱えた。
すると本当にマリア像が美しい後光に包まれ光り輝いた。
ブランシュはこの神秘的現象に感動を覚えた。本当にロートリンゲン公という者は何者なのか?本人の言うように神の使いなのか?ならば、息子のルイⅨ世は神の承認を受けたということなのか?
いろいろ疑問はあったが、ブランシュは不思議な安堵感を覚えた。
◆
ある日の深夜。
ついに今日は反乱の決行の日である。
フィリップが檄を飛ばす。
「よく今日まで付いて来てくれた。今日でルイのやつの命運も尽きた。明日からは私がフランス王だ。この戦で勲功を上げたものは褒賞が思いのままだぞ!」
集まった兵力は従卒まで全部入れると2千人ばかり、対して城に詰めている守備兵は千人弱だ。勝算は十分にあるうえ、門番は買収してあり、反乱に呼応して城門を開けることになっている。
予定どおり進めば、赤子の手をひねるようにいくはずだった。
しかし、ルイⅨ世陣営にはフリードリヒから事前に情報が伝えられており、守備兵隊は容易万端で準備しており、ローザたちも城に控えていた。
買収されていた門番は当然に捕らえられている。
「よし。それでは出発だ」とフィリップが命じた時、反乱軍の前にポツンと一人の人物が立っていた。
冒険者の恰好をしており、顔には白銀のマスクを着けている。
「何者だ?」
「私は冒険者の白銀のアレク。ブランシュ様から反乱軍を撃退するというクエストを請けた」
「はっはっはっはっ。たった1人で何ができるというのだ。冗談も休み休み言え」
「それはどうかな? 見る者の目が曇っていると何も見えないものだ」
「何っ!」
フィリップは目を凝らしてみるが何も見当たらない。
それもそのはずでフリードリヒ以外にはアスタロト配下の悪魔200人を隠形させて控えさせていたのだ。
「面倒だ。殺ってしまえ」
命令を受けて先頭の兵卒が白銀のアレクに切りかかるが、見えない敵に袈裟懸けに切り裂かれ絶命した。
──何だあれは?
「集団で一気に決着を付けろ!」
数十名の兵士が一変に切りかかるが結果は同じだった。
見えない敵に次々と切り裂かれ白銀のアレクには指一本触れることができない。
そのままなし崩し的に戦闘が始まったが、反乱軍の兵士たちは見えない敵になす術もなくやられていく。
──おお。こんなに死体がいっぱいあるのにもったいない。
フリードリヒは闇魔法のクリエイトアンデッドで反乱軍兵士の死体からダークナイトを作ると、反乱軍にけしかけた。
その異形の姿に反乱軍の兵士は逃亡していく者が続出した。
白銀のアレクは、頃合いを見計らってフィリップに迫る。
あんな男でも最後まで守ろうという兵はいたが、所詮は白銀のアレクの敵ではない。
アレクの行くところ、血の花が咲き乱れた。
フィリップはいちおう抵抗の姿勢はみせたが、かなうはずもなくアレクはこれを一蹴すると、フィリップの首筋にオリハルコンの剣を突き付けた。
「私はフランスの王家に連なるものだ。殺せば罪は重いぞ」
最後の悪あがきといったところだが、まあ一理はある。
最終判断はブランシュに任せることにして、フィリップを縄で縛り、バイコーンに乗せると城に向かった。
そのころには反乱軍は逃亡するか、殺害されるかで一兵も残っていなかった。
◆
ブランシュとルイⅨ世は反乱軍の到着を今か今かと待ち構えていた。
そこへバイコーンに乗った冒険者がやってきた。
門番が誰何する。
「白銀のアレクという冒険者だ。ブランシュ様からクエストを請け負った。その報告に参った。
ここに居るのはフィリップだ。適当に拘束しておけ」
「わかった。ここにフィリップがいるということは反乱軍はどうした?」
「撃滅した。反乱軍はもう来ない」
それを聞いて城から歓声が上がる。
「ブランシュ様がお会いになるそうだ。こちらへ来い」
「承知した」
謁見の間に行くとルイⅨ世が玉座に座り、後ろにブランシュが控えていた。
ブランシュが耳元で囁くと「白銀のアレク。この度の働き大儀であった」とルイⅨ世が幼いながらも堂々とした声で言った。
これなら長じたらフィリップよりもよっぽどましな君主になるだろう。将来が楽しみだ。
その後。フリードリヒはブランシュの私室に呼ばれた。
私室に入るとブランシュはいきなりフリードリヒに抱きついてきた。
「もう。あんなクエストの紙なんか送ってくるから、いたずらかと思っちゃったじゃない」
「さすがに国として動くのは難しかったからね。クエストして請け負っただけだ」
ブランシュは赤い顔をしながら言った。
「お礼は本当に私の愛だけでいいの」
「もちろんだ。それ以上の宝がこの世のどこにあるというのだ?」
「今日はゆっくりして行けるのでしょう?」
「ああ」
ブランシュは静かに目を閉じた。
フリードリヒの唇がブランシュのそれに重ねられる。
そして…
◆
別室ではローラとアリーセが愚痴を言い合っていた。
「まったく。埋め合わせっていつになるのかしら」
「まあ、ブランシュ様は遠距離恋愛なんだから今日くらいは大目に見てやろうじゃないか。そのかわりナンツィヒに帰ったらたっぷりサービスしてもらう」
「それもそうですね…」
2人はクスクスと笑いあった。
◆
これには後日談がある。
買収された貴族の中にはサンジェルマン伯とフリードリヒの双方からダイヤモンドをせしめ、何もしない者も多かった。
そのような輩が多額の財産を持っていては、良からぬことをするに決まっている。
フリードリヒは、それらの者のダイヤモンドを時空魔法を使ってこっそりと黒い炭素の粉に戻しておいた。
その後金庫を覗いた当事者たちが相当落胆しているだろうことは想像に難くない。
◆
なお、サンジェルマン伯のその後の行方は杳として知れなかった。
少なくとも反乱軍の戦闘現場には姿を現さなかったので、早々に見切りをつけて逃亡していたのかもしれない。
だとすれば、相当に要領のいい人間だが、いかにもありそうではある。
フリードリヒは、サンジェルマン伯はどこか憎めないところがあり、機会があれば仲間に取り込めないかと考えているのだった。
まずは門番に誰何された。
「何用だ?」
「私は某家の家宰をやっておりますセバスチャンと申します。当家の主人からの伝言をお伝えしたいので、是非ともご当主様に面会させていただきたいのですが…」
「某家などと訳の分からぬ者を通すわけにはいかぬ」
「そうおっしゃらずに、まずはこれをお納めください」
というとフリードリヒは門番に金貨を一枚握らせた。
効果はてき面だった。主が主なら仕える者もそれなりにということなのだろう。
当主の部屋へ通されると横柄な態度で聞かれる。
「某家の家宰とはおまえか。そもそも某家とはどこなのだ?」
「ブランシュ様の後ろ盾とだけ言っておきます」
「ロートリンゲン公か?」
「…………」
「まあ良い。それで要件とは何か?」
「サンジェルマン伯から話のあった件ですが…」
「何のことだかさっぱりわからぬな。何者なのだそのサンジェルマン伯というのは?」
フリードリヒは物体引き寄せでサンジェルマン伯から渡されたダイヤモンドを引き寄せ、それを手にかざす。
「では、これは何でございますかな?」
「そ、それは…」
「とにかくお聞きください。当家の主は中立を保っていただけるのであれば同量を、寝返って王にご加勢いただけるのであれば倍の量のダイヤモンドをご提供すると申しております」
「倍だと…小国が一つ買えるではないか。そんな…あり得ない」
フリードリヒはマジックバッグからダイヤモンドを取り出し、実際に見せると、それをテーブルの上に無造作にばら撒いた。
当主の表情が歓喜の表情に一変する。
「わかった。王の加勢でもなんでもしよう。そのかわりこのダイヤモンドは私のものだ。後で返せとか言うなよ」
「もちろんでございます。では、この誓約書にサインをお願いいたします」
◆
次はサンジェルマン伯の詐術に論破された貴族のもとに向かう。
当主の部屋へ通されるといきなり詰問される。
「某家とはどこなのだ?」
「ブランシュ様の後ろ盾とだけ言っておきます」
「ロートリンゲン公か?」
「…………」
「まあ良い。それで要件とは何か?」
「サンジェルマン伯から話のあった件ですが…」
「国の安定のためには幼君では不足なのだ。ロートリンゲン公はそんなこともわからぬのか?」
「それを全面的には否定いたしませぬが、幼君というのは長じて親政するようになれば長期にわたり一貫した政策を展開できるというのは大きなメリットです。また、幼いからこそ摂政のブランシュ様がおられ、更にはその後ろ盾にロートリンゲン公がおります」
「ふんっ。ロートリンゲン公など他国の貴族ではないか。いざという時に当てになるものか」
「暗黒騎士団は神速の軍隊です。それに10倍の数のデンマーク軍を壊滅させた実績をよもや知らない訳ではありますまい。
仮に反乱軍が一時的に勝ったとしても、ロートリンゲン公が暗黒騎士団の派遣をいったん決めましたら反乱軍など一夜のうちに蹴散らされますぞ」
「そ、それは…」
「ご当主は暗黒騎士団と戦った経験がないから平然としていられるのです。先にフランス軍とたたかった時にはフランス軍は暗黒騎士団の一兵も損じることができなかったのです。疑問があれば実際に戦った兵士に聞いてみるがよろしい」
「そ、そうだな…サンジェルマン伯は何と言っておったかな…」
「サンジェルマン伯ではなく、ご当主のお考えをお聞かせ願いたい」
「そうだ、やはり血統は大事だということだ」
「血統という意味では嫡流なのですからフィリップ殿が王よりも優れているとは言えません。
それにフィリップ殿の器量の問題もあります。フィリップ殿は現在も政務は共同統治者のマティルド様に任せっきりだというではありませんか。仮にもそのような無為無策の者が王になられては国が滅びてしまいます」
「…………」
相手の反論のネタも尽きたようだ。
「とにかく、ご当家におかれては反乱の際に、王にご加勢いだだければ一番ですが、少なくとも中立を保っていただきたい。
要は、反乱後のご沙汰がどうなるかよく考えて行動されることですな」
「わ、わかった」
こうしてフリードリヒは反乱軍の切り崩しを行い、その数は約半数に及んだ。
◆
逆説得工作は隠密にやっていたとしてもいつかは敵の耳に入る訳で…
フィリップは激怒していた。
「サンジェルマン。どういうことだ。我が方の陣営が切り崩されているではないか」
「おおかたロートリンゲン公が動いているのでしょうな」
「何をのんきに言っておる」
「とにかく今残っている者の結束を固めましょう。あまり目立ちたくはなかったのですが、会合を開いて結束を再確認することといたしましょう」
「寝返った者は再説得しなくて良いのか?」
「そのような者が再び仲間になったとてあてにはなりません。むしろいつ寝首をかかれるかもしれませぬぞ」
「それもそうだな。わかった。」
◆
ルイⅨ世陣営でもフィリップに反乱の動きがあることは察知していたものの、それを討伐するだけの証拠を集められないでいた。
また、いちおう王陣営に属すると目される貴族も動きが鈍く、様子見といった雰囲気が蔓延していた。
ブランシュは焦った。
このままではフィリップに王家を乗っ取られてしまうのではないか。
そんな時。ロートリンゲン公から一通の手紙が届いた。
中にはナンツィヒの冒険者ギルドのクエストの発注用紙が一枚とメモが一枚入っていた。
発注用紙には既にクエストの内容が書き込まれていた。
それはルイⅨ世に対する反乱軍を撃退すること。
受注者も既に記入してあり、白銀のアレクとサインされていた。
後は発注者の欄を記入するだけとなっている。
ちなみに報酬は「ブランシュの愛」と書かれていた。事実上タダということである。
ブランシュは誰かの質の悪い悪戯なのではと疑った。しかし、筆跡は見慣れたロートリンゲン公の美しい筆跡そのものだった。これを見間違えるはずがない。
メモの方にはこう書いてあった。
「発注者欄に署名したら『クエストを発注します』と唱えてください。あなたの部屋にあるマリア像が光を発したら受注完了の印です」
ブランシュは半信半疑でクエスト用紙に署名すると「クエストを発注します」と唱えた。
すると本当にマリア像が美しい後光に包まれ光り輝いた。
ブランシュはこの神秘的現象に感動を覚えた。本当にロートリンゲン公という者は何者なのか?本人の言うように神の使いなのか?ならば、息子のルイⅨ世は神の承認を受けたということなのか?
いろいろ疑問はあったが、ブランシュは不思議な安堵感を覚えた。
◆
ある日の深夜。
ついに今日は反乱の決行の日である。
フィリップが檄を飛ばす。
「よく今日まで付いて来てくれた。今日でルイのやつの命運も尽きた。明日からは私がフランス王だ。この戦で勲功を上げたものは褒賞が思いのままだぞ!」
集まった兵力は従卒まで全部入れると2千人ばかり、対して城に詰めている守備兵は千人弱だ。勝算は十分にあるうえ、門番は買収してあり、反乱に呼応して城門を開けることになっている。
予定どおり進めば、赤子の手をひねるようにいくはずだった。
しかし、ルイⅨ世陣営にはフリードリヒから事前に情報が伝えられており、守備兵隊は容易万端で準備しており、ローザたちも城に控えていた。
買収されていた門番は当然に捕らえられている。
「よし。それでは出発だ」とフィリップが命じた時、反乱軍の前にポツンと一人の人物が立っていた。
冒険者の恰好をしており、顔には白銀のマスクを着けている。
「何者だ?」
「私は冒険者の白銀のアレク。ブランシュ様から反乱軍を撃退するというクエストを請けた」
「はっはっはっはっ。たった1人で何ができるというのだ。冗談も休み休み言え」
「それはどうかな? 見る者の目が曇っていると何も見えないものだ」
「何っ!」
フィリップは目を凝らしてみるが何も見当たらない。
それもそのはずでフリードリヒ以外にはアスタロト配下の悪魔200人を隠形させて控えさせていたのだ。
「面倒だ。殺ってしまえ」
命令を受けて先頭の兵卒が白銀のアレクに切りかかるが、見えない敵に袈裟懸けに切り裂かれ絶命した。
──何だあれは?
「集団で一気に決着を付けろ!」
数十名の兵士が一変に切りかかるが結果は同じだった。
見えない敵に次々と切り裂かれ白銀のアレクには指一本触れることができない。
そのままなし崩し的に戦闘が始まったが、反乱軍の兵士たちは見えない敵になす術もなくやられていく。
──おお。こんなに死体がいっぱいあるのにもったいない。
フリードリヒは闇魔法のクリエイトアンデッドで反乱軍兵士の死体からダークナイトを作ると、反乱軍にけしかけた。
その異形の姿に反乱軍の兵士は逃亡していく者が続出した。
白銀のアレクは、頃合いを見計らってフィリップに迫る。
あんな男でも最後まで守ろうという兵はいたが、所詮は白銀のアレクの敵ではない。
アレクの行くところ、血の花が咲き乱れた。
フィリップはいちおう抵抗の姿勢はみせたが、かなうはずもなくアレクはこれを一蹴すると、フィリップの首筋にオリハルコンの剣を突き付けた。
「私はフランスの王家に連なるものだ。殺せば罪は重いぞ」
最後の悪あがきといったところだが、まあ一理はある。
最終判断はブランシュに任せることにして、フィリップを縄で縛り、バイコーンに乗せると城に向かった。
そのころには反乱軍は逃亡するか、殺害されるかで一兵も残っていなかった。
◆
ブランシュとルイⅨ世は反乱軍の到着を今か今かと待ち構えていた。
そこへバイコーンに乗った冒険者がやってきた。
門番が誰何する。
「白銀のアレクという冒険者だ。ブランシュ様からクエストを請け負った。その報告に参った。
ここに居るのはフィリップだ。適当に拘束しておけ」
「わかった。ここにフィリップがいるということは反乱軍はどうした?」
「撃滅した。反乱軍はもう来ない」
それを聞いて城から歓声が上がる。
「ブランシュ様がお会いになるそうだ。こちらへ来い」
「承知した」
謁見の間に行くとルイⅨ世が玉座に座り、後ろにブランシュが控えていた。
ブランシュが耳元で囁くと「白銀のアレク。この度の働き大儀であった」とルイⅨ世が幼いながらも堂々とした声で言った。
これなら長じたらフィリップよりもよっぽどましな君主になるだろう。将来が楽しみだ。
その後。フリードリヒはブランシュの私室に呼ばれた。
私室に入るとブランシュはいきなりフリードリヒに抱きついてきた。
「もう。あんなクエストの紙なんか送ってくるから、いたずらかと思っちゃったじゃない」
「さすがに国として動くのは難しかったからね。クエストして請け負っただけだ」
ブランシュは赤い顔をしながら言った。
「お礼は本当に私の愛だけでいいの」
「もちろんだ。それ以上の宝がこの世のどこにあるというのだ?」
「今日はゆっくりして行けるのでしょう?」
「ああ」
ブランシュは静かに目を閉じた。
フリードリヒの唇がブランシュのそれに重ねられる。
そして…
◆
別室ではローラとアリーセが愚痴を言い合っていた。
「まったく。埋め合わせっていつになるのかしら」
「まあ、ブランシュ様は遠距離恋愛なんだから今日くらいは大目に見てやろうじゃないか。そのかわりナンツィヒに帰ったらたっぷりサービスしてもらう」
「それもそうですね…」
2人はクスクスと笑いあった。
◆
これには後日談がある。
買収された貴族の中にはサンジェルマン伯とフリードリヒの双方からダイヤモンドをせしめ、何もしない者も多かった。
そのような輩が多額の財産を持っていては、良からぬことをするに決まっている。
フリードリヒは、それらの者のダイヤモンドを時空魔法を使ってこっそりと黒い炭素の粉に戻しておいた。
その後金庫を覗いた当事者たちが相当落胆しているだろうことは想像に難くない。
◆
なお、サンジェルマン伯のその後の行方は杳として知れなかった。
少なくとも反乱軍の戦闘現場には姿を現さなかったので、早々に見切りをつけて逃亡していたのかもしれない。
だとすれば、相当に要領のいい人間だが、いかにもありそうではある。
フリードリヒは、サンジェルマン伯はどこか憎めないところがあり、機会があれば仲間に取り込めないかと考えているのだった。
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よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
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