上 下
86 / 215
第4章 国主編

第69話 内政の充実 ~フリードリヒ道路と農業革命~

しおりを挟む
 期せずして復活したロートリンゲン大公国であるが、まずは統治機構の整備が急を要する。
 ここまで国が大きくなってしまうとフリードリヒ一人で回していくのは不可能だからだ。

 ロートリンゲン大公国の中から優秀な人材を推薦させ、必要があれば外からもスカウトする。

 当面、宮中伯プファルツは日本の省の制度にならって次のような構成とした。必要があれば臨機応変に見直していくことになるだろう。

内務卿:スヴェン・フォン・ハグマイヤー
法務卿:フェルディナント・フォン・エッケルマン
財務卿:ヴァルター・フォン・ハント
外務卿:ヘルムート・フォン・ミュラー
軍務卿:レオナルト・フォン・ブルンスマイアー
農林水産卿:アーベル・フォン・エッゲブレヒト
文部科学卿:ゲプハルト・フォン・ツァーベル
厚生労働卿:ノーマン・フォン・シューマン
経済産業卿:ゴットハルト・フォン・ギルマン
国土交通卿:クリスト・フォン・ボルク

 内務卿はホルシュタインで家宰をやっていたスヴェン・ハグマイヤーを引っ張ってきた。彼はフライブルグ時代からフリードリヒの右腕として統治の実務を担ってきており、最も信頼がおける人物だからだ。内務卿に任ずるに当たり貴族に叙した。

 財務卿のヴァルター・ハントはタンバヤ商会の経営を任せているハント氏の息子である。巨大化したタンバヤ商会の経営をずっと手伝ってきたので、国の財布も安心して任せることができるだろう。彼も財務卿に任ずるに当たり貴族に叙した。

 軍務卿のレオナルト・フォン・ブルンスマイアーはかつての同僚でホーエンシュタウフェン家の近衛騎士団からヘッドハントしてきた。
 彼は近衛第5騎士団の第1中隊長にまで出世していたが、そこでくすぶっていたのだ。皇帝には悪いが、有能な人材を適切に遇しない方が悪い。

 経済産業卿には、商工組合総連合会理事長のゴットハルト・ギルマンを引っ張ってきた。他に人材を思いつかなかったからだ。彼も経済産業卿に叙するに当たり貴族に叙した。

 また、各宮中伯プファルツを支えるため官僚制度を整えることとした。近代的な官僚制度というのはもっと時代が下ってから整備されるのだが、これを先取りする。

 官僚は、身分を問わず試験による登用をすることにしたが、この時代の知識階級というのは貴族や大商人に偏ってしまう。これは短期的には仕方のないことだが、一方で学校制度の整備が急務であることも事実である。

    ◆

 フリードリヒが考えている公共事業に産業道路の整備がある。
 現在、自由貿易協定の締結によって、ホルシュタイン伯国、ザクセン大公国、ロートリンゲン大公国にわたる自由経済圏が形成されつつあり、このためのインフラストラクチャーの整備として必要だからである。

 フリードリヒは、国土交通卿のクリスト・フォン・ボルクを呼びこの話を伝えた。

 ボルクは言った。
「閣下。それはいかにも遠大な計画ですな。私などには想像もできませんでした」
「それでは困る。この道路はいずれアルル王国を通ってヨーロッパの産業の中心である北イタリアまでつなげるつもりだ。卿にもヨーロッパ全体を見据えた広い視点で政策を考えてもらいたい。
 公共事業については、ハグマイヤー内務卿が運河建設の経験があるから知恵を借りるといいだろう。
 また、ザクセン大公国内はザクセン公にやってもらわなければならないから、そこはミユラー外務卿と良く連携をとってやってくれ。必要ならばザクセン公との交渉は私がやってもよい」

「承知いたしました。一世一代の大仕事に身が引き締まる思いです」
「うむ。頼んだぞ」

 この道路整備についても、運河と同様に悪魔の労力を動員するつもりである。それについては折を見てボルグ卿に話す必要があるだろう。
 さて、どんな顔をするか楽しみだ。

 結局、この道路は結局半年を待たずして完成した。やはり悪魔の動員力というのは半端ない。

 ボルグ卿に悪魔のことを伝えたら口をあんぐりと開けて驚いたまましばらく硬直していた。
 あまりの反応ぶりにフリードリヒは噴き出すのをこらえるのがたいへんだった。

 現在は幹線部分から主要都市を結ぶ支線整備の段階に移っている。

 この道路は商人たちの間でたちまち評判となり、いつしか「フリードリヒ道路シュトラーシェ」と呼ばれるようになった。

    ◆

 もう一つフリードリヒが考えているのが農業改革である。

 この時代は三圃式さんぽしき農業という輪作の一種が普及していた。
 これは、農地を秋蒔きの小麦・ライ麦などの冬穀・春蒔きの大麦・燕麦・豆などの夏穀・休耕地=放牧地に区分しローテーションを組んで耕作する農法だが、飼料が不足する冬季に家畜を飼うことが困難という欠点があった。

 18世紀頃より飼料用のカブ等の根菜植物を導入した輪栽式農業、すなわちノーフォーク農法が主流となるが、これを先取りして導入する。

 農林水産卿のアーベル・フォン・エッゲブレヒト卿を呼び、このことを指示する。

「まずは、直轄地で実験的に試してみて問題点を洗い出したうえ、一般に普及するようにしてくれ」

「しかし、閣下。そのような知識をどこから仕入れているのですか?」
「なに。ちょっとした思いつきさ」

「はあ。そうでございますか…」
 エッゲブレヒト卿は納得していない様子だ。だが、さすがに前世の知識とは言えない。

 農業に関しては、もう一つ耐えられないことがあった。

 それはジャガイモ、トマト、トウモロコシという新大陸から渡ってきた作物がまだないことである。また、お茶もまだ普及していない。

 新大陸が未発見なのだから仕方がないのだが、ジャーマンポテトがないドイツなんてドイツじゃない。

 当初、テレポーテーションで新大陸に行きこれらの作物を探すことを考えたが、見つかったとしても原種であり、おそらくは美味しくはないだろう。

 そこでフリードリヒはダメ元であることを試してみることにした。
 フリードリヒの見るところ、この惑星は地球ではない。
 だとすると地球は別に存在している訳で、現在の地球から品種改良されたジャガイモ等の作物を物体取り寄せアポートで取り寄せることはできないだろうか?

 ダメ元でもとの地球を思いながら物体取り寄せアポートを試みるとなんとできてしまった。

 ジャガイモに続き、他の作物も試してみると全部できてしまった。

 早速、タンバヤ商会のハンス氏を呼び、試験栽培を依頼する。
「なんですかな。この作物は? 本当に食べられるのですか?」
「ああ。もちろんだ。ただ、ジャガイモは地下にできる芋を食べる、芽の部分には毒があるから気を付けろ」
「承知いたしました」

「とりあえず。ジャガイモとトウモロコシはドイツでも栽培できると思うが、トマトとお茶は南方のイタリアかアルル王国でないと難しいだろう。南方の農家と渡りをつけてくれ」
「しかし、フリードリヒ様。このようなものをどこから入手されたのですか?」
「それは…………秘密だ」
 ハンス氏は怪訝けげんな顔をしていたが、とりあえず引き下がってくれた。

 試験栽培は大成功に終わり、あっという間にロートリンゲン大公国の名物となった。現在は他国にも普及しつつある。

    ◆

 そういえば重要なことがある。
 お茶といえば茶器が必要ではないか。

 歴史的には茶器は中国から陶器を輸入していたが、やがてヨーロッパでも作られるようになる。ドイツではマインツの白磁の陶器が有名だ。
 ということは、マインツには陶器作りに適した土があるということだ。

 これは一朝一夕いっちょういっせきにはできないので、理系ゾンビのフィリーネに開発をオーダーする。
 焼き方や釉薬ゆうやくをどうするかなど結構難しいはずだ。
 さぞや開発しがいがあるだろう。

 中国からの輸入品の茶器を示しながら依頼する。

「また無茶な依頼を…」
 フィリーネは閉口してしまった。

「まあ。フリードリヒ様の無茶ぶりは今に始まったことじゃないですからね。やりますよ」
「とにかく、これが成功すれば世の中にブームを引き起こすはずだ。よろしく頼む」

 かなり苦労したようだが、程なくして試作品の作成に成功した。まだ絵柄のついていない白磁の陶器だが、絵付け職人については時間をかけて育てるしかないだろう。こればかりはしょうがない。

 予想通り、お茶の文化は程なくしてヨーロッパを席巻せっけんすることになる。

    ◆

 最後に税制改革である。

 この時代の税というのは人頭税という考え方が主流だった。
 いずれは近代的な所得税を導入したい。

 これについては、複式簿記の普及や税理士の育成など長期的に時組まなければならない課題が多くある。

 これは長期的課題として財務卿のヴァルター・フォン・ハントにオーダーしておいた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...