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第2章 学園・学校編
第30話 学校対抗試合 ~斜行陣~
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入学から半年が経った頃。
学級担任のレオンハルト・フォン・ゴスリヒが教室に入ってきて授業が始まる。
「今日は皆に知らせがある。毎年恒例のオーストリア軍事学校との対抗試合が行われることとなった。時期は一カ月後。」
途端にクラスが騒めいた。模擬戦とはいえ、皆戦いが好きなのだろう。
オーストリア軍事学校は、オーストリア大公国が設立している軍事学校だ。オーストリア大公国は神聖帝国の中でも発言力の大きな実力派である。地理的に近いこともあり、シュバーベン大公国とは旧来親交を結んでいた。
「ゴスリヒ先生。指揮官は誰がやるのですか?」とクラスの一人が質問した。
「指揮官役などは学校の方で決めて追って知らせる」
また、クラスが騒めいた。誰がどういう役割になるか口々に予想している。
結局、指揮官役はフリードリヒということになった。学年主席なのだからこれは当然だ。
戦いは右翼軍、中央軍、左翼軍の3軍に分けて構成するのが対抗試合の伝統だ。右翼軍の隊長はアダルベルト、中央軍はアロイス、左翼軍はマルコルフが隊長に指名された。
アロイスはちょっと意外だ。ひょっとして裏から手を回したのかもしれない。プライド高い奴ならあり得る。
そして指揮官役には副官が着くということだ。
これはB組からレギーナ・フォン・フライベルクという女性が指名された。軍事学校で女性というのも珍しいし、B組からというのも意外だ。何か裏があるのだろうか?
指名があった日。レギーナがフリードリヒのもとに挨拶にやってきた。
「ツェーリンゲン卿。初めまして。レギーナ・フォン・フライベルクと申します。以後、よろしくお願いいたします」
「これはフライベルク嬢。こちらこそよろしくお願いする」
レギーナは銀髪の髪をショートカットにした爽やかな感じの美人さんだった。軍人らしく体も引き締まっているが、筋肉が着き過ぎてマッチョな感じもない。これならどこかの姫と言われても通用しそうだ。
話を聞いてみると、レギーナはホーエンシュタウフェン家に使える軍事畑の伯爵家の次女ということだった。お家柄、女性でも軍事の道に進むのがフライベルク家のしきたりということだった。
副官には戦略の話をしておくべきと考え、後日レギーナと打ち合わせをする。
まず両軍の戦いの前提だが、学生ということもあるので、軽装歩兵と騎兵での戦いとなる。重装歩兵や弓兵は用いない。
陣は、右翼軍、中央軍、左翼軍の3軍に分けて構成する。
対抗試合は、伝統的には3軍を横に並べた横陣で戦ってきたという。だが、陣形に決まりはない。
あえて縦陣に編成し、敵の中央を突破し、その後反転して分断された右陣又は左陣を背後から各個撃破していくことも考えたが、敵の指揮官が優秀で混乱を早期に収拾できたとすると、各個撃破している背後を残っている陣で突かれるおそれがある。
ここは機をてらわず、横陣の一種である斜行陣にするか。
斜行陣は、左右どちらかの陣を厚くした陣形である。人は右利きが多いから通常は右陣を厚くすることが多い。これによって、横陣に不足しがちな突破力を補うのだ。
フリードリヒはレギーナに構想を話してみる。
「今回は皆学生だからあまり機をてらわない作戦がいい。陣形は横陣にしてセオリーどおり両翼に騎兵を配置するが、右陣を厚くした斜行陣で行こうと思う」
「なるほどアレキサンダー大王が得意にしていた戦法ですね」
──ほう。アレキサンダーの戦略を知っているとは…。
そこでフリードリヒは理解した。学校は戦略に明るい生徒をつけてくれたのだ。
フリードリヒとレギーナは詳細について詰めていく。騎馬突撃戦法一点張りのこの時代に戦略の議論ができるとは思わず、フリードリヒは楽しくなった。
女は武技ではかなわないから戦略で勝負といったところか。それはそれで見事な在り様ではないか。
配分としては、均等に配置するとそれぞれが50になるところ、左軍と中央軍から20ずつ右軍に回し、右軍を90とするが、そのうち20は騎馬の遊撃舞台とすることにした。
フリードリヒ組からは、左軍は薄い分持ちこたえてもらわなければならないので、隊長のマルコルフにアタナージウスとシュタッフスを補佐に付ける。
肝心の右軍であるが、アダルベルトは切り札として使う遊撃の騎馬部隊を引き連れてもらい、フィリップを補佐につける。
右軍の軽装歩兵はアウリール、ヤン、ジェラルド、パウルの4人で補強する。
問題の中央軍だが、隊長のアロイスが素直に言うことを聞くかが問題だが、フリードリヒが二刀流で無双すればなんとか持つと判断した。
レギーナは「それでは中央軍の戦力が弱いのでは?せめて右軍から1人だけでいいのでフリードリヒ組を補佐に付けた方がいいと思いますが…」と指摘したが。
「私が二刀流で5人分くらいの働きをするから心配ない」とフリードリヒは楽観的な答えを返す。
「二刀流だから5人分って意味がわからないんですけど…」
レギーナは呟いた。
しかし、学校ではフリードリヒの本気の戦闘など見た者がいないのだから、これは無理もない。
対抗戦は各校が交互に場所をあつらえていたが、今年はオーストリアの番だった。
そして対抗戦本番の日。
両行の布陣をみるとオーストリア学校の様子が明らかにおかしい。
まずはその数が200人くらいいる。
本来は両校が150ずつのはずなので若い現役兵士などを紛れ込ませているのだろう。
それから布陣する場所だが傾斜地でオーストリア学校の方が高地に配置されている。攻めるときは高地から攻め下る方が圧倒的に有利だ。
これを見たゴスリヒ教師はオーストリア学園に抗議する。
「この戦いはどう見てもフェアじゃない。布陣を見直すべきだ!」
「戦争というものは常に互角の条件で戦えるわけではないですぞ。むしろそれを跳ね返しての訓練というものです。仮に負けてもいい経験になるのではないですか?」
「しかし、これは戦争ではなく学校の授業の一環なのですぞ!」
そこにフリードリヒが口を挟んだ。
「ゴスリヒ先生。私はかまいませんよ。これしきの不利をはね解して勝利した例など掃いて捨てるほどありますから。
それにこれでオーストリア学校が負けたらこちらも痛快ではないですか」
ゴスリヒは「君がそこまでいうのなら」と渋々引き下がった。
フリードリヒは、布陣の調整をする。
戦いが平地でならば斜行陣であることを隠すために3軍を横一列に布陣するつもりだったのだが、傾斜地では敵からこちらの布陣が丸見えだ。
こうなっては隠しようもないので、左軍を後方に下げ、文字通り斜めの布陣とした。
そして全軍に指示を出す。
「作戦は事前に伝えてあるとおりだ。敵には現役の若手兵士が混じっていると想定される。フリードリヒ組を先頭にまずは強いやつからつぶしていけ。
相手はルールなど無視してくるだろう。私が許すから死なない程度に痛めつけてやれ。腕や足の1本2本折ってもかまわない。
では、気合を入れていけ!」
「おーーーーっ!!」
シュバーベン軍事学校の方は、相手が卑怯な手段で来たこともあり、やる気十分のようだ。
一方、オーストリア軍事学校の指揮官はというと…
「なんだ。あの奇妙な陣形は。あいつらは陣形もまともに組めないのか」とシュバーベン軍事学校を舐めきっていた。
陣立ても伝統的な横一列の陣で、3軍を均等に配置している。
副官が助言をする。
「敵の右軍が厚いです。こちらも左軍を厚くするなり何らかの対処をしませんとまずいのではないですか?」
「なに。数も立地もこちらが有利なのだ。小細工などせずに一気に攻め立てて殲滅するだけだ」
これには副官も呆れてしまった。数が多いといっても圧倒的な戦力差とはいえない。それに傾斜といっても緩やかで、それがどの程度有利かは判断が難しい。
すなわちそれだけでの材料では楽観視はできないということだ。そんなこともわからないのか…。
それに比べて敵陣は戦略と言うものを分かっている。
副官はいやな予感を覚えた。
さあ。そろそろ戦闘開始の時間だ。
フリードリヒはアレクのマスクを着けて準備をする。
「そのマスクは?」
「白銀のアレクのマスクだ」
「そのようなものを付けていたら目立つのではないですか」
「敵は白銀のアレクが指揮官だと知っているのですよ」
「だからこそだ。寄ってくる蟻どもを踏みつぶしてやるのだ」
「はあ。そうですか…」
フリードリヒの真の実力を知らないレギーナは、その自信がどこから来るのか全く理解ができなかった。
──ああ見えて、本当はナルシストのお馬鹿さんってことはないわよね。そうではないことを願いたい…。
そして戦闘開始の銅鑼が鳴った。
すると隊長のアロイスが先頭となって中央軍がまずは敵に攻め込む。おそらくフリードリヒの鼻を明かしてやろうと指揮官の首でも狙っているのだろう。
だが、フリードリヒにとっては好都合だった。フリードリヒもまずは中央軍で戦闘開始し、ここに注意を引き付けたタイミングで右軍を突撃させようと考えていたからだ。
期せずしてアロイスがそれを実践して見せた。
フリードリヒも敵陣めがけて切り込んでいく。
「おい。白銀のアレクだぞ。あいつを倒したら有名人だ」
「指揮官が自ら先陣を切るとは馬鹿なやつだ」
敵はどんどんとアレックスに群がってくるが、面白いようにやられていく。皆、利き腕や足の骨を折られたり、頭に剣を受けて気絶したりして無力化されていく。
そのころ敵の指揮官はというと。左右両軍からの援軍を指示していた。
「何をしている。俺様を守れ。指揮官がやられたら負けなのだぞ。左右両軍から援軍を寄こせ」
「左軍はいけません」と副官が忠告するが、全く耳に入っていない。
「アウリール。突撃だ!」アダルベルトはこの機を逃さず、シュバーベン右軍に突撃を命令した。
アウリール、ヤン、ジェラルド、パウルはフリードリヒの指示通り、まずは目に着く強い者から狩っていく。他の兵士も彼らに続いて奮戦している。
やがて敵の左軍が混乱を見せ始めた。
「よし!騎馬隊突撃だ!敵左軍の背後に回る」
アダルベルトが騎馬隊に突撃を命令した。
アダルベルトは獅子奮迅の活躍で敵を蹴散らしていく。それに続くフィリップも負けてはいない。他の者たちもフリードリヒ組の精鋭たちだ。
瞬く間に敵左軍は崩壊していき、中央軍の方に撤退していく。
これによって、オーストリア左軍の崩壊は決定的となった。
他方シュバーベン左軍のマルコルフ、アタナージウスとシュタッフスは少ない戦力ながら敵の攻撃に耐え、戦線を維持していた。
これによって、シュバーベン右軍が回転扉のように反時計回りに敵を押しつぶしていく形となった。
みるみる敵の数は減り、ついには戦意を失って逃走するものまで現れ始めた。が、容赦なく手や足の骨を折られたりしたら、それもわからないではない。
そろそろ終わりにしてやるか…。
フリードリヒは敵の指揮官へ向かって突進する。
守備兵が入れ代わり立ち代わり現れるが次々と倒されていく。
最後に副官らしき男が立ちはだかった。
少しだけ強く何合か打ち合ったが所詮フリードリヒの敵ではなかった。
指揮官は、恐怖のあまり顔が引きつり、「ひーーーっ」と悲鳴を上げている。
フリードリヒが剣を構えると指揮官は恐怖のあまり目をつぶった。剣も構えずに目をつぶるとは軍人失格だ。
フリードリヒは躊躇せず指揮官の頭に剣を振り下ろすと指揮官は気絶した。
「指揮官を打ち取ったぞーーーっ!!」
フリードリヒが叫ぶとシュバーベン軍事学校の生徒から一斉に歓声があがる。
一方のオーストリア軍事学校の生徒たちは、悔しさよりも戦闘が終わった安堵感の方が勝っているようだ。一様にホッとした顔をしている。
この様子をオーストリア軍事学校の教師は苦々しい思いで見ていた。
ゴスリヒ教師は晴れ晴れしい気持ちで言った。
「どうですかな?逆境を跳ね返した我が校の生徒たちは?」
「ふん。いろいろな幸運が重なっただけの話だ」
「しかし、貴校の生徒もみじめなものですな。あれだけの条件がそろっていながら負けてしまうとは」
「…………」
この勝利によって、学校内の尊敬を一身に受けることとなるフリードリヒなのであった。
学級担任のレオンハルト・フォン・ゴスリヒが教室に入ってきて授業が始まる。
「今日は皆に知らせがある。毎年恒例のオーストリア軍事学校との対抗試合が行われることとなった。時期は一カ月後。」
途端にクラスが騒めいた。模擬戦とはいえ、皆戦いが好きなのだろう。
オーストリア軍事学校は、オーストリア大公国が設立している軍事学校だ。オーストリア大公国は神聖帝国の中でも発言力の大きな実力派である。地理的に近いこともあり、シュバーベン大公国とは旧来親交を結んでいた。
「ゴスリヒ先生。指揮官は誰がやるのですか?」とクラスの一人が質問した。
「指揮官役などは学校の方で決めて追って知らせる」
また、クラスが騒めいた。誰がどういう役割になるか口々に予想している。
結局、指揮官役はフリードリヒということになった。学年主席なのだからこれは当然だ。
戦いは右翼軍、中央軍、左翼軍の3軍に分けて構成するのが対抗試合の伝統だ。右翼軍の隊長はアダルベルト、中央軍はアロイス、左翼軍はマルコルフが隊長に指名された。
アロイスはちょっと意外だ。ひょっとして裏から手を回したのかもしれない。プライド高い奴ならあり得る。
そして指揮官役には副官が着くということだ。
これはB組からレギーナ・フォン・フライベルクという女性が指名された。軍事学校で女性というのも珍しいし、B組からというのも意外だ。何か裏があるのだろうか?
指名があった日。レギーナがフリードリヒのもとに挨拶にやってきた。
「ツェーリンゲン卿。初めまして。レギーナ・フォン・フライベルクと申します。以後、よろしくお願いいたします」
「これはフライベルク嬢。こちらこそよろしくお願いする」
レギーナは銀髪の髪をショートカットにした爽やかな感じの美人さんだった。軍人らしく体も引き締まっているが、筋肉が着き過ぎてマッチョな感じもない。これならどこかの姫と言われても通用しそうだ。
話を聞いてみると、レギーナはホーエンシュタウフェン家に使える軍事畑の伯爵家の次女ということだった。お家柄、女性でも軍事の道に進むのがフライベルク家のしきたりということだった。
副官には戦略の話をしておくべきと考え、後日レギーナと打ち合わせをする。
まず両軍の戦いの前提だが、学生ということもあるので、軽装歩兵と騎兵での戦いとなる。重装歩兵や弓兵は用いない。
陣は、右翼軍、中央軍、左翼軍の3軍に分けて構成する。
対抗試合は、伝統的には3軍を横に並べた横陣で戦ってきたという。だが、陣形に決まりはない。
あえて縦陣に編成し、敵の中央を突破し、その後反転して分断された右陣又は左陣を背後から各個撃破していくことも考えたが、敵の指揮官が優秀で混乱を早期に収拾できたとすると、各個撃破している背後を残っている陣で突かれるおそれがある。
ここは機をてらわず、横陣の一種である斜行陣にするか。
斜行陣は、左右どちらかの陣を厚くした陣形である。人は右利きが多いから通常は右陣を厚くすることが多い。これによって、横陣に不足しがちな突破力を補うのだ。
フリードリヒはレギーナに構想を話してみる。
「今回は皆学生だからあまり機をてらわない作戦がいい。陣形は横陣にしてセオリーどおり両翼に騎兵を配置するが、右陣を厚くした斜行陣で行こうと思う」
「なるほどアレキサンダー大王が得意にしていた戦法ですね」
──ほう。アレキサンダーの戦略を知っているとは…。
そこでフリードリヒは理解した。学校は戦略に明るい生徒をつけてくれたのだ。
フリードリヒとレギーナは詳細について詰めていく。騎馬突撃戦法一点張りのこの時代に戦略の議論ができるとは思わず、フリードリヒは楽しくなった。
女は武技ではかなわないから戦略で勝負といったところか。それはそれで見事な在り様ではないか。
配分としては、均等に配置するとそれぞれが50になるところ、左軍と中央軍から20ずつ右軍に回し、右軍を90とするが、そのうち20は騎馬の遊撃舞台とすることにした。
フリードリヒ組からは、左軍は薄い分持ちこたえてもらわなければならないので、隊長のマルコルフにアタナージウスとシュタッフスを補佐に付ける。
肝心の右軍であるが、アダルベルトは切り札として使う遊撃の騎馬部隊を引き連れてもらい、フィリップを補佐につける。
右軍の軽装歩兵はアウリール、ヤン、ジェラルド、パウルの4人で補強する。
問題の中央軍だが、隊長のアロイスが素直に言うことを聞くかが問題だが、フリードリヒが二刀流で無双すればなんとか持つと判断した。
レギーナは「それでは中央軍の戦力が弱いのでは?せめて右軍から1人だけでいいのでフリードリヒ組を補佐に付けた方がいいと思いますが…」と指摘したが。
「私が二刀流で5人分くらいの働きをするから心配ない」とフリードリヒは楽観的な答えを返す。
「二刀流だから5人分って意味がわからないんですけど…」
レギーナは呟いた。
しかし、学校ではフリードリヒの本気の戦闘など見た者がいないのだから、これは無理もない。
対抗戦は各校が交互に場所をあつらえていたが、今年はオーストリアの番だった。
そして対抗戦本番の日。
両行の布陣をみるとオーストリア学校の様子が明らかにおかしい。
まずはその数が200人くらいいる。
本来は両校が150ずつのはずなので若い現役兵士などを紛れ込ませているのだろう。
それから布陣する場所だが傾斜地でオーストリア学校の方が高地に配置されている。攻めるときは高地から攻め下る方が圧倒的に有利だ。
これを見たゴスリヒ教師はオーストリア学園に抗議する。
「この戦いはどう見てもフェアじゃない。布陣を見直すべきだ!」
「戦争というものは常に互角の条件で戦えるわけではないですぞ。むしろそれを跳ね返しての訓練というものです。仮に負けてもいい経験になるのではないですか?」
「しかし、これは戦争ではなく学校の授業の一環なのですぞ!」
そこにフリードリヒが口を挟んだ。
「ゴスリヒ先生。私はかまいませんよ。これしきの不利をはね解して勝利した例など掃いて捨てるほどありますから。
それにこれでオーストリア学校が負けたらこちらも痛快ではないですか」
ゴスリヒは「君がそこまでいうのなら」と渋々引き下がった。
フリードリヒは、布陣の調整をする。
戦いが平地でならば斜行陣であることを隠すために3軍を横一列に布陣するつもりだったのだが、傾斜地では敵からこちらの布陣が丸見えだ。
こうなっては隠しようもないので、左軍を後方に下げ、文字通り斜めの布陣とした。
そして全軍に指示を出す。
「作戦は事前に伝えてあるとおりだ。敵には現役の若手兵士が混じっていると想定される。フリードリヒ組を先頭にまずは強いやつからつぶしていけ。
相手はルールなど無視してくるだろう。私が許すから死なない程度に痛めつけてやれ。腕や足の1本2本折ってもかまわない。
では、気合を入れていけ!」
「おーーーーっ!!」
シュバーベン軍事学校の方は、相手が卑怯な手段で来たこともあり、やる気十分のようだ。
一方、オーストリア軍事学校の指揮官はというと…
「なんだ。あの奇妙な陣形は。あいつらは陣形もまともに組めないのか」とシュバーベン軍事学校を舐めきっていた。
陣立ても伝統的な横一列の陣で、3軍を均等に配置している。
副官が助言をする。
「敵の右軍が厚いです。こちらも左軍を厚くするなり何らかの対処をしませんとまずいのではないですか?」
「なに。数も立地もこちらが有利なのだ。小細工などせずに一気に攻め立てて殲滅するだけだ」
これには副官も呆れてしまった。数が多いといっても圧倒的な戦力差とはいえない。それに傾斜といっても緩やかで、それがどの程度有利かは判断が難しい。
すなわちそれだけでの材料では楽観視はできないということだ。そんなこともわからないのか…。
それに比べて敵陣は戦略と言うものを分かっている。
副官はいやな予感を覚えた。
さあ。そろそろ戦闘開始の時間だ。
フリードリヒはアレクのマスクを着けて準備をする。
「そのマスクは?」
「白銀のアレクのマスクだ」
「そのようなものを付けていたら目立つのではないですか」
「敵は白銀のアレクが指揮官だと知っているのですよ」
「だからこそだ。寄ってくる蟻どもを踏みつぶしてやるのだ」
「はあ。そうですか…」
フリードリヒの真の実力を知らないレギーナは、その自信がどこから来るのか全く理解ができなかった。
──ああ見えて、本当はナルシストのお馬鹿さんってことはないわよね。そうではないことを願いたい…。
そして戦闘開始の銅鑼が鳴った。
すると隊長のアロイスが先頭となって中央軍がまずは敵に攻め込む。おそらくフリードリヒの鼻を明かしてやろうと指揮官の首でも狙っているのだろう。
だが、フリードリヒにとっては好都合だった。フリードリヒもまずは中央軍で戦闘開始し、ここに注意を引き付けたタイミングで右軍を突撃させようと考えていたからだ。
期せずしてアロイスがそれを実践して見せた。
フリードリヒも敵陣めがけて切り込んでいく。
「おい。白銀のアレクだぞ。あいつを倒したら有名人だ」
「指揮官が自ら先陣を切るとは馬鹿なやつだ」
敵はどんどんとアレックスに群がってくるが、面白いようにやられていく。皆、利き腕や足の骨を折られたり、頭に剣を受けて気絶したりして無力化されていく。
そのころ敵の指揮官はというと。左右両軍からの援軍を指示していた。
「何をしている。俺様を守れ。指揮官がやられたら負けなのだぞ。左右両軍から援軍を寄こせ」
「左軍はいけません」と副官が忠告するが、全く耳に入っていない。
「アウリール。突撃だ!」アダルベルトはこの機を逃さず、シュバーベン右軍に突撃を命令した。
アウリール、ヤン、ジェラルド、パウルはフリードリヒの指示通り、まずは目に着く強い者から狩っていく。他の兵士も彼らに続いて奮戦している。
やがて敵の左軍が混乱を見せ始めた。
「よし!騎馬隊突撃だ!敵左軍の背後に回る」
アダルベルトが騎馬隊に突撃を命令した。
アダルベルトは獅子奮迅の活躍で敵を蹴散らしていく。それに続くフィリップも負けてはいない。他の者たちもフリードリヒ組の精鋭たちだ。
瞬く間に敵左軍は崩壊していき、中央軍の方に撤退していく。
これによって、オーストリア左軍の崩壊は決定的となった。
他方シュバーベン左軍のマルコルフ、アタナージウスとシュタッフスは少ない戦力ながら敵の攻撃に耐え、戦線を維持していた。
これによって、シュバーベン右軍が回転扉のように反時計回りに敵を押しつぶしていく形となった。
みるみる敵の数は減り、ついには戦意を失って逃走するものまで現れ始めた。が、容赦なく手や足の骨を折られたりしたら、それもわからないではない。
そろそろ終わりにしてやるか…。
フリードリヒは敵の指揮官へ向かって突進する。
守備兵が入れ代わり立ち代わり現れるが次々と倒されていく。
最後に副官らしき男が立ちはだかった。
少しだけ強く何合か打ち合ったが所詮フリードリヒの敵ではなかった。
指揮官は、恐怖のあまり顔が引きつり、「ひーーーっ」と悲鳴を上げている。
フリードリヒが剣を構えると指揮官は恐怖のあまり目をつぶった。剣も構えずに目をつぶるとは軍人失格だ。
フリードリヒは躊躇せず指揮官の頭に剣を振り下ろすと指揮官は気絶した。
「指揮官を打ち取ったぞーーーっ!!」
フリードリヒが叫ぶとシュバーベン軍事学校の生徒から一斉に歓声があがる。
一方のオーストリア軍事学校の生徒たちは、悔しさよりも戦闘が終わった安堵感の方が勝っているようだ。一様にホッとした顔をしている。
この様子をオーストリア軍事学校の教師は苦々しい思いで見ていた。
ゴスリヒ教師は晴れ晴れしい気持ちで言った。
「どうですかな?逆境を跳ね返した我が校の生徒たちは?」
「ふん。いろいろな幸運が重なっただけの話だ」
「しかし、貴校の生徒もみじめなものですな。あれだけの条件がそろっていながら負けてしまうとは」
「…………」
この勝利によって、学校内の尊敬を一身に受けることとなるフリードリヒなのであった。
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よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
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