淫神の孕み贄

沖田弥子

文字の大きさ
上 下
127 / 153

宰相の裏切り 2

しおりを挟む
 何らかの事情があるのだと思いたかった。
 ファルゼフを利己的で冷酷な男だと断定したくない。
 せめて、咄嗟の仕方ない判断だとするならば、まだ彼らに絶望しなくて済む。
 セナは縋るように問いかけた。望む答えは到底返ってこないと知りながら。

「いえいえ、この計画を立てていたのは王都を出立するずっと以前ですね。正確には、宰相に抜擢されたときでしょうか。宰相の権限を活用すれば、秘密裏にアポロニオス王とやり取りを行うことが可能ですから」

 セナの問いは傷口に塩を塗るはめになってしまった。
 なんと今回の計画は、彼が宰相に就任した頃から練られていたものだという。
 ファルゼフはベルーシャ王家への復位を長年胸に秘め、アポロニオス王へおもねる絶好の機会を作り出すべく、虎視眈々と作戦を立てていたのだ。
 思えばファルゼフが口にしていた計画や作戦とは、このことだったのだ。彼はトルキア国の宰相として、神馬の儀を遂行しようなどという気は初めからなかった。
 ファルゼフを信じていたのに……
 彼が熱心に懐妊指導を施してくれるのは、セナのため、そしてトルキア国のためだと疑わなかったのに。
 すべては己の復位への土台だったなんて。
 セナの胸が哀しみに引き絞られる。眦からは涙が溢れ、透明な滴が零れ落ちた。

「そんな……ファルゼフを信じていたのに……」
「全く気づかなかったようですね。愚かなあなたがたへ向けて、わたくしはヒントを提供してあげました。わたくしはラシードを一度も、『王』と呼ばなかったではありませんか」
「……あっ、そういえば……」

 言われてみれば、思い当たる。
 ファルゼフはラシードのことを常に、『ラシード様』と呼んでいた。王のしもべであることを表すため、大臣や召使いたちは畏敬を込めて『我が王』と呼ぶことがままある。ラシードを名で呼ぶことができる者は限られているためでもあるが、ファルゼフがラシードに対して『王』という敬称を使ったことは、そういえば聞いた覚えがない。

「あれは、王と認めていないというわたくしのささやかな主張だったのですが、残念ながら誰も気づきませんでしたね。大神官やハリル殿は我々の出自をもとに疑っていましたが、ラシードの信頼を得ていればどうということはありません」

 もはやラシードを呼び捨てにするファルゼフを、セナは絶望的な気分で眺める。
 アポロニオスは獰猛な楔で花筒を突き上げながら、哄笑を響かせた。

「ハハハ! トルキアの王はひどく愚鈍なようだな。己の右腕の思惑にも気づかぬとは」
「世界中でもっとも賢明かつ勇猛な君主はアポロニオス王にほかなりません。あなた様こそ、我が王にございますれば」

 ファルゼフはアポロニオスと共謀して、今回の計画を企て、実行したのだ。
 彼の裏切りが一時の気の迷いではないと知り、セナの視界は真っ黒に染まる。

「あ、あぁ……そんな……あっ、あっ……」
「これで君も納得できただろう。安心して私に身を委ねるのだ。さあ、いきなさい」

 ぐっちゅぐっちゅと激しく腰を突き上げられ、華奢なセナの体は男の膝の上で躍る。
 ぐうっと太い亀頭に綻んだ子宮口を抉られ、鋭い快楽が身を貫いた。

「ひっ……ひぃ……いや、いきたく……ない……」
「そんなことを言う子にはお仕置きだ」

 きゅうっと両の乳首を摘まみ上げられる。その刺激にきつく背を撓らせたセナの意識は、快楽の波にさらわれた。

「あっあっあぅ、いや、いく、あうぅんん……あっあ、あ――……」

 絶頂に達した花筒が、咥え込んだ肉棒をきつく引き絞る。体の奥深くで熱杭が爆ぜるのと同時に、ささやかなセナの花芯は白蜜を吹き上げた。

「あ……あ……あぁん……」

 霞む視界にファルゼフと、跪いたシャンドラが映っている。
 彼らにすべて見られてしまった。
 セナが、アポロニオスの与える快楽に陥落するさまを。
 ふたりを裏切り者と糾弾したけれど、セナ自身もこうしてアポロニオスに抱かれ、精をその身に受けているのだ。しかも妃になることまで決められている。これがトルキア国やラシードへの裏切りと言わずになんと称するだろうか。
 がくりと項垂れたセナの体を、アポロニオスは再び揺する。すでに腹の中は彼の放った白濁でいっぱいだ。
 真相を聞いても、ひとつだけ譲れないことがある。
 セナは掠れた声を絞り出して嘆願した。

「お願いです……捕らえたアルファたちの命は助けてください……。僕はベルーシャ国へまいります。リガラ城砦も差し上げます。ですからどうか、彼らだけは逃がしてあげてくれませんか」

 アポロニオスへの献上品として、捕虜の命は含まれていない。城砦は手に入れたのだから、彼らの命を奪う必然性はないはずだ。武器を没収したうえで屋外へ放つだけでいい。そうすれば、騎士団員であるアルファたちは近隣の村までどうにか辿り着けるだろう。
 セナに尽くしてくれたアルファたちの命だけは助けたい。
 王都では彼らを待っている家族もいるのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...