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宰相の裏切り 2
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何らかの事情があるのだと思いたかった。
ファルゼフを利己的で冷酷な男だと断定したくない。
せめて、咄嗟の仕方ない判断だとするならば、まだ彼らに絶望しなくて済む。
セナは縋るように問いかけた。望む答えは到底返ってこないと知りながら。
「いえいえ、この計画を立てていたのは王都を出立するずっと以前ですね。正確には、宰相に抜擢されたときでしょうか。宰相の権限を活用すれば、秘密裏にアポロニオス王とやり取りを行うことが可能ですから」
セナの問いは傷口に塩を塗るはめになってしまった。
なんと今回の計画は、彼が宰相に就任した頃から練られていたものだという。
ファルゼフはベルーシャ王家への復位を長年胸に秘め、アポロニオス王へおもねる絶好の機会を作り出すべく、虎視眈々と作戦を立てていたのだ。
思えばファルゼフが口にしていた計画や作戦とは、このことだったのだ。彼はトルキア国の宰相として、神馬の儀を遂行しようなどという気は初めからなかった。
ファルゼフを信じていたのに……
彼が熱心に懐妊指導を施してくれるのは、セナのため、そしてトルキア国のためだと疑わなかったのに。
すべては己の復位への土台だったなんて。
セナの胸が哀しみに引き絞られる。眦からは涙が溢れ、透明な滴が零れ落ちた。
「そんな……ファルゼフを信じていたのに……」
「全く気づかなかったようですね。愚かなあなたがたへ向けて、わたくしはヒントを提供してあげました。わたくしはラシードを一度も、『王』と呼ばなかったではありませんか」
「……あっ、そういえば……」
言われてみれば、思い当たる。
ファルゼフはラシードのことを常に、『ラシード様』と呼んでいた。王のしもべであることを表すため、大臣や召使いたちは畏敬を込めて『我が王』と呼ぶことがままある。ラシードを名で呼ぶことができる者は限られているためでもあるが、ファルゼフがラシードに対して『王』という敬称を使ったことは、そういえば聞いた覚えがない。
「あれは、王と認めていないというわたくしのささやかな主張だったのですが、残念ながら誰も気づきませんでしたね。大神官やハリル殿は我々の出自をもとに疑っていましたが、ラシードの信頼を得ていればどうということはありません」
もはやラシードを呼び捨てにするファルゼフを、セナは絶望的な気分で眺める。
アポロニオスは獰猛な楔で花筒を突き上げながら、哄笑を響かせた。
「ハハハ! トルキアの王はひどく愚鈍なようだな。己の右腕の思惑にも気づかぬとは」
「世界中でもっとも賢明かつ勇猛な君主はアポロニオス王にほかなりません。あなた様こそ、我が王にございますれば」
ファルゼフはアポロニオスと共謀して、今回の計画を企て、実行したのだ。
彼の裏切りが一時の気の迷いではないと知り、セナの視界は真っ黒に染まる。
「あ、あぁ……そんな……あっ、あっ……」
「これで君も納得できただろう。安心して私に身を委ねるのだ。さあ、いきなさい」
ぐっちゅぐっちゅと激しく腰を突き上げられ、華奢なセナの体は男の膝の上で躍る。
ぐうっと太い亀頭に綻んだ子宮口を抉られ、鋭い快楽が身を貫いた。
「ひっ……ひぃ……いや、いきたく……ない……」
「そんなことを言う子にはお仕置きだ」
きゅうっと両の乳首を摘まみ上げられる。その刺激にきつく背を撓らせたセナの意識は、快楽の波にさらわれた。
「あっあっあぅ、いや、いく、あうぅんん……あっあ、あ――……」
絶頂に達した花筒が、咥え込んだ肉棒をきつく引き絞る。体の奥深くで熱杭が爆ぜるのと同時に、ささやかなセナの花芯は白蜜を吹き上げた。
「あ……あ……あぁん……」
霞む視界にファルゼフと、跪いたシャンドラが映っている。
彼らにすべて見られてしまった。
セナが、アポロニオスの与える快楽に陥落するさまを。
ふたりを裏切り者と糾弾したけれど、セナ自身もこうしてアポロニオスに抱かれ、精をその身に受けているのだ。しかも妃になることまで決められている。これがトルキア国やラシードへの裏切りと言わずになんと称するだろうか。
がくりと項垂れたセナの体を、アポロニオスは再び揺する。すでに腹の中は彼の放った白濁でいっぱいだ。
真相を聞いても、ひとつだけ譲れないことがある。
セナは掠れた声を絞り出して嘆願した。
「お願いです……捕らえたアルファたちの命は助けてください……。僕はベルーシャ国へまいります。リガラ城砦も差し上げます。ですからどうか、彼らだけは逃がしてあげてくれませんか」
アポロニオスへの献上品として、捕虜の命は含まれていない。城砦は手に入れたのだから、彼らの命を奪う必然性はないはずだ。武器を没収したうえで屋外へ放つだけでいい。そうすれば、騎士団員であるアルファたちは近隣の村までどうにか辿り着けるだろう。
セナに尽くしてくれたアルファたちの命だけは助けたい。
王都では彼らを待っている家族もいるのだ。
ファルゼフを利己的で冷酷な男だと断定したくない。
せめて、咄嗟の仕方ない判断だとするならば、まだ彼らに絶望しなくて済む。
セナは縋るように問いかけた。望む答えは到底返ってこないと知りながら。
「いえいえ、この計画を立てていたのは王都を出立するずっと以前ですね。正確には、宰相に抜擢されたときでしょうか。宰相の権限を活用すれば、秘密裏にアポロニオス王とやり取りを行うことが可能ですから」
セナの問いは傷口に塩を塗るはめになってしまった。
なんと今回の計画は、彼が宰相に就任した頃から練られていたものだという。
ファルゼフはベルーシャ王家への復位を長年胸に秘め、アポロニオス王へおもねる絶好の機会を作り出すべく、虎視眈々と作戦を立てていたのだ。
思えばファルゼフが口にしていた計画や作戦とは、このことだったのだ。彼はトルキア国の宰相として、神馬の儀を遂行しようなどという気は初めからなかった。
ファルゼフを信じていたのに……
彼が熱心に懐妊指導を施してくれるのは、セナのため、そしてトルキア国のためだと疑わなかったのに。
すべては己の復位への土台だったなんて。
セナの胸が哀しみに引き絞られる。眦からは涙が溢れ、透明な滴が零れ落ちた。
「そんな……ファルゼフを信じていたのに……」
「全く気づかなかったようですね。愚かなあなたがたへ向けて、わたくしはヒントを提供してあげました。わたくしはラシードを一度も、『王』と呼ばなかったではありませんか」
「……あっ、そういえば……」
言われてみれば、思い当たる。
ファルゼフはラシードのことを常に、『ラシード様』と呼んでいた。王のしもべであることを表すため、大臣や召使いたちは畏敬を込めて『我が王』と呼ぶことがままある。ラシードを名で呼ぶことができる者は限られているためでもあるが、ファルゼフがラシードに対して『王』という敬称を使ったことは、そういえば聞いた覚えがない。
「あれは、王と認めていないというわたくしのささやかな主張だったのですが、残念ながら誰も気づきませんでしたね。大神官やハリル殿は我々の出自をもとに疑っていましたが、ラシードの信頼を得ていればどうということはありません」
もはやラシードを呼び捨てにするファルゼフを、セナは絶望的な気分で眺める。
アポロニオスは獰猛な楔で花筒を突き上げながら、哄笑を響かせた。
「ハハハ! トルキアの王はひどく愚鈍なようだな。己の右腕の思惑にも気づかぬとは」
「世界中でもっとも賢明かつ勇猛な君主はアポロニオス王にほかなりません。あなた様こそ、我が王にございますれば」
ファルゼフはアポロニオスと共謀して、今回の計画を企て、実行したのだ。
彼の裏切りが一時の気の迷いではないと知り、セナの視界は真っ黒に染まる。
「あ、あぁ……そんな……あっ、あっ……」
「これで君も納得できただろう。安心して私に身を委ねるのだ。さあ、いきなさい」
ぐっちゅぐっちゅと激しく腰を突き上げられ、華奢なセナの体は男の膝の上で躍る。
ぐうっと太い亀頭に綻んだ子宮口を抉られ、鋭い快楽が身を貫いた。
「ひっ……ひぃ……いや、いきたく……ない……」
「そんなことを言う子にはお仕置きだ」
きゅうっと両の乳首を摘まみ上げられる。その刺激にきつく背を撓らせたセナの意識は、快楽の波にさらわれた。
「あっあっあぅ、いや、いく、あうぅんん……あっあ、あ――……」
絶頂に達した花筒が、咥え込んだ肉棒をきつく引き絞る。体の奥深くで熱杭が爆ぜるのと同時に、ささやかなセナの花芯は白蜜を吹き上げた。
「あ……あ……あぁん……」
霞む視界にファルゼフと、跪いたシャンドラが映っている。
彼らにすべて見られてしまった。
セナが、アポロニオスの与える快楽に陥落するさまを。
ふたりを裏切り者と糾弾したけれど、セナ自身もこうしてアポロニオスに抱かれ、精をその身に受けているのだ。しかも妃になることまで決められている。これがトルキア国やラシードへの裏切りと言わずになんと称するだろうか。
がくりと項垂れたセナの体を、アポロニオスは再び揺する。すでに腹の中は彼の放った白濁でいっぱいだ。
真相を聞いても、ひとつだけ譲れないことがある。
セナは掠れた声を絞り出して嘆願した。
「お願いです……捕らえたアルファたちの命は助けてください……。僕はベルーシャ国へまいります。リガラ城砦も差し上げます。ですからどうか、彼らだけは逃がしてあげてくれませんか」
アポロニオスへの献上品として、捕虜の命は含まれていない。城砦は手に入れたのだから、彼らの命を奪う必然性はないはずだ。武器を没収したうえで屋外へ放つだけでいい。そうすれば、騎士団員であるアルファたちは近隣の村までどうにか辿り着けるだろう。
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