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襲撃
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「拷問……それはすごいですね。神馬の儀を行う部屋は、どこなのですか?」
まさか拷問部屋では……と怯えたセナは上目でファルゼフを見る。
優しげな笑みを湛えたファルゼフは、セナの髪をそっと撫でた。
「地下になります。そこにはイルハーム神の授けた神器が眠っていると言い伝えられています」
「神器……」
それが、神馬の儀で使用するものなのだろうか。
だが、セナは疑問を呑み込んだ。
一瞬なのだが、笑みを浮かべるファルゼフの口端が、引き攣ったような気がしたから。
なんだろう。彼は、何かに緊張している。
そのとき、馬車を護衛していた騎士たちから声が上がった。
「ベルーシャ軍だ! ここはトルキア国の領内だぞ!」
「待ち伏せだ、丘に隠れていやがったんだ!」
驚いて目を向ければ、周辺の丘の陰から強固な鎧で身を固めた部隊が次々に姿を現した。初めて目にするベルーシャ人はとても大柄で、巨人族という噂に違わない。彼らは手に、巨大な戦斧を携えている。
両脇から中隊と後方部隊が挟まれた陣形なので、今から城砦へ駆け込むことはできない。城砦への道を遮られてしまった。どうして待ち伏せされていたのだろう。
ベルーシャ軍の登場に、騎士たちは馬上で武器を構える。
ハリルは咄嗟に叫んだ。
「下馬しろ!」
馬から飛び降りたハリルは地面に伏せる。
騎士団長の命令に素早く反応した騎士たちは、次々に馬から降りて地面に這った。
その瞬間、空を薙ぎ払い、巨大な戦斧が弧を描いて飛来する。
「ひいっ!」
騎士たちの頭上を通り過ぎた刃は、馬の首を一撃で切り落とした。
血飛沫が上がり、斬首された馬が、どうと地に倒れる。
凄惨な光景を目の当たりにしたセナは、息を呑む。
「セナ様、伏せてください! 窓から顔を出してはなりません!」
ファルゼフにきつく抱き留められて、馬車の隅に移動する。しかし、狭い車内に逃げ場はない。隅からでも窓の外の光景は見て取れた。
「でも、みなさんが危険です……!」
ベルーシャ軍は馬から降りた騎士たちを、次第に取り囲む。その数はこちらの倍以上はいるだろうか。大柄なので、より圧迫感があった。
馬の首を落とした戦斧は鮮血を撒き散らして空を切りながら、一際大柄な男の手に戻る。
「ハハハ! トルキア国の騎士団は随分と臆病なものだ。我が戦斧で奴隷のように這いつくばるのだからな。もっとも、巨人王の放つバトルアックスの前には、どんな勇者だろうと平伏せざるを得ないだろう」
ベルーシャ軍の間から哄笑が響き渡る。それは巨人が蟻を前にして、圧倒的な勝利を誇る笑いだった。
巨人王ということは、あの男がベルーシャ国のアポロニオス王なのだ。
なぜ王がここにいて、戦を仕掛けるような真似をするのだろうか。
アポロニオスは手に戻ってきたばかりの戦斧を軽々と振りかぶった。
「そら、食らえ!」
ハリルは槍を構えながら姿勢を低くして、再び怒鳴り声を上げた。
「来るぞ! バトルアックスは地面ぎりぎりは通過できない。頭を下げるんだ!」
ゴォッ……と風が唸りを上げる。
バトルアックスは騎士たちの頭上を薙いでいった。
セナの位置からは小さく見えるが、馬の首を一撃で切り落とすほど、あの戦斧はとてつもなく巨大なのだ。命中すれば人間の首が簡単に吹き飛んでしまうだろう。
だが、ブーメランのように飛ばして持ち主の元に戻ってこなければならない仕様なので、ハリルの指摘どおり、地面付近を軌道にすることはできないようだ。頭を下げていれば攻撃を受けない。
勝機はあるのだと思われた、そのとき。
騎士団を包囲したベルーシャ軍が踏み込み、直接戦斧を振り上げて攻撃してきた。
姿勢を低くしていた騎士団員たちは咄嗟に逃げられず、かろうじて槍を突いて距離を取る。
「ファルゼフ、馬車を出せ! セナを逃がすんだ!」
ハリルの怒号が轟いた。
槍で応戦するものの、じわりじわりと中隊は後退させられていく。このままでは取り囲まれ、一網打尽にされてしまう。セナを護衛してくれている騎士たちは、馬車を守ろうと馬の前に出た。
馬車を戦斧で狙われたら、彼らが切られる。
セナはファルゼフの腕を振り解いて、咄嗟に車外へ出ようとした。
「いけません! 馬車の前に立たないでください。僕は走って……」
「お待ちください、セナ様」
やたらと冷静なファルゼフの口調を不思議に思い、振り返ったとき。
まさか拷問部屋では……と怯えたセナは上目でファルゼフを見る。
優しげな笑みを湛えたファルゼフは、セナの髪をそっと撫でた。
「地下になります。そこにはイルハーム神の授けた神器が眠っていると言い伝えられています」
「神器……」
それが、神馬の儀で使用するものなのだろうか。
だが、セナは疑問を呑み込んだ。
一瞬なのだが、笑みを浮かべるファルゼフの口端が、引き攣ったような気がしたから。
なんだろう。彼は、何かに緊張している。
そのとき、馬車を護衛していた騎士たちから声が上がった。
「ベルーシャ軍だ! ここはトルキア国の領内だぞ!」
「待ち伏せだ、丘に隠れていやがったんだ!」
驚いて目を向ければ、周辺の丘の陰から強固な鎧で身を固めた部隊が次々に姿を現した。初めて目にするベルーシャ人はとても大柄で、巨人族という噂に違わない。彼らは手に、巨大な戦斧を携えている。
両脇から中隊と後方部隊が挟まれた陣形なので、今から城砦へ駆け込むことはできない。城砦への道を遮られてしまった。どうして待ち伏せされていたのだろう。
ベルーシャ軍の登場に、騎士たちは馬上で武器を構える。
ハリルは咄嗟に叫んだ。
「下馬しろ!」
馬から飛び降りたハリルは地面に伏せる。
騎士団長の命令に素早く反応した騎士たちは、次々に馬から降りて地面に這った。
その瞬間、空を薙ぎ払い、巨大な戦斧が弧を描いて飛来する。
「ひいっ!」
騎士たちの頭上を通り過ぎた刃は、馬の首を一撃で切り落とした。
血飛沫が上がり、斬首された馬が、どうと地に倒れる。
凄惨な光景を目の当たりにしたセナは、息を呑む。
「セナ様、伏せてください! 窓から顔を出してはなりません!」
ファルゼフにきつく抱き留められて、馬車の隅に移動する。しかし、狭い車内に逃げ場はない。隅からでも窓の外の光景は見て取れた。
「でも、みなさんが危険です……!」
ベルーシャ軍は馬から降りた騎士たちを、次第に取り囲む。その数はこちらの倍以上はいるだろうか。大柄なので、より圧迫感があった。
馬の首を落とした戦斧は鮮血を撒き散らして空を切りながら、一際大柄な男の手に戻る。
「ハハハ! トルキア国の騎士団は随分と臆病なものだ。我が戦斧で奴隷のように這いつくばるのだからな。もっとも、巨人王の放つバトルアックスの前には、どんな勇者だろうと平伏せざるを得ないだろう」
ベルーシャ軍の間から哄笑が響き渡る。それは巨人が蟻を前にして、圧倒的な勝利を誇る笑いだった。
巨人王ということは、あの男がベルーシャ国のアポロニオス王なのだ。
なぜ王がここにいて、戦を仕掛けるような真似をするのだろうか。
アポロニオスは手に戻ってきたばかりの戦斧を軽々と振りかぶった。
「そら、食らえ!」
ハリルは槍を構えながら姿勢を低くして、再び怒鳴り声を上げた。
「来るぞ! バトルアックスは地面ぎりぎりは通過できない。頭を下げるんだ!」
ゴォッ……と風が唸りを上げる。
バトルアックスは騎士たちの頭上を薙いでいった。
セナの位置からは小さく見えるが、馬の首を一撃で切り落とすほど、あの戦斧はとてつもなく巨大なのだ。命中すれば人間の首が簡単に吹き飛んでしまうだろう。
だが、ブーメランのように飛ばして持ち主の元に戻ってこなければならない仕様なので、ハリルの指摘どおり、地面付近を軌道にすることはできないようだ。頭を下げていれば攻撃を受けない。
勝機はあるのだと思われた、そのとき。
騎士団を包囲したベルーシャ軍が踏み込み、直接戦斧を振り上げて攻撃してきた。
姿勢を低くしていた騎士団員たちは咄嗟に逃げられず、かろうじて槍を突いて距離を取る。
「ファルゼフ、馬車を出せ! セナを逃がすんだ!」
ハリルの怒号が轟いた。
槍で応戦するものの、じわりじわりと中隊は後退させられていく。このままでは取り囲まれ、一網打尽にされてしまう。セナを護衛してくれている騎士たちは、馬車を守ろうと馬の前に出た。
馬車を戦斧で狙われたら、彼らが切られる。
セナはファルゼフの腕を振り解いて、咄嗟に車外へ出ようとした。
「いけません! 馬車の前に立たないでください。僕は走って……」
「お待ちください、セナ様」
やたらと冷静なファルゼフの口調を不思議に思い、振り返ったとき。
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