100 / 153
アルファたちとの謁見 3
しおりを挟む
謁見を終えると、セナはすぐに医務室へ向かった。シャンドラの容態を確認するためである。
慌ててやってきたのでひとりだが、セナは自分で扉を開けることを躊躇しない。むしろ、なんでも召使いにやってもらうという環境に未だに慣れないくらいだ。
「失礼します……」
医務室の扉を開けた途端、ベッドから飛び降りるシャンドラの姿を目にする。セナが足を踏み入れたときには完璧な体勢で、シャンドラはセナの足元に跪いていた。
「シャンドラ、お願いです。ベッドに寝ていてください」
上衣を脱いで上半身だけ裸になったシャンドラは、左腕に包帯を巻いていた。白の包帯が痛々しさを醸し出している。
すっと立ち上がったシャンドラは、微笑を見せた。
「このくらいの怪我はいつものことなので、平気です」
アルファの中では小柄なシャンドラだけれど、当然のごとくセナのほうが背が低いので見下ろされる格好になる。
なんだかやたらと距離が近く、彼の唇はあと一歩でセナの額にくっついてしまいそうだ。
一度は体を重ねた相手なので、セナのほうが意識しすぎているのかもしれない。
「でも……怪我をしていたら戦いに支障が出ますよね? 僕がラシードさまを止めるべきだったのに、シャンドラを傷つけてしまって申し訳ないです」
商売道具とも言える戦士の腕を自ら傷つけさせるなんて、とても哀しいことだ。それが主君への忠誠を示す証なのだと言われれば、戦いを知らないセナは納得するしかないのだけれど。
シャンドラは意外なことを聞いたというふうに、軽く目を見開いた。
「セナ様は俺の立場で物を考えてくださるんですか……お優しいんですね。あなた様の地位なら、儀式に参加したあとのアルファの男根をすべて切断せよと命じても良いというのに」
今度はセナが目を見開かされる番だった。
そのような恐ろしい事態は考えたこともないし、想像すらしたくない。
「とんでもありません! 僕は誰も傷つけたくないし、誰にも傷ついてほしくないんです。僕が命令できるとしたら、今後決して自分を傷つけてはいけないと、まずはシャンドラに命じます」
ふっとシャンドラが笑ったと思った瞬間、セナの額に熱いものが押しつけられた。
「あっ……」
「御意にございます」
キスされた。
まるで初心な恋人の睦み合いのようにくちづけられて、セナの頬は朱に染まる。
「あ、あの……」
思わず額に手をやったとき。
隣から冷静な声音が降ってきた。
「ご心配には及びません、セナ様。腕の立つ者が自らを傷つける行為は調整が可能なので、見た目ほどの怪我ではないのです。シャンドラは太い血管を避けて……」
「ひゃあああああ⁉」
ファルゼフが隣にいたことに全く気づかなかったセナは大仰に驚いてしまい、足を滑らせてしまう。
転びそうになった体を、シャンドラがそつなく抱えてくれた。怪我をしている左腕で。
怪我人の腕を使わせてしまうなんて本当に申し訳ない。セナはシャンドラの腕から離れようともがきながら、どうにか体勢を整える。
「ファルゼフ……いつからそこに……?」
「初めからおりました。セナ様はシャンドラを案ずるあまり、わたくしの姿が目に入っていなかったようですね」
そのとおりなので、非常にいたたまれない。
……ということは、シャンドラにキスされて赤くなったことも間近から見られていたわけである。
両手で顔を覆うセナに、ファルゼフは淡々と説明した。
「陛下の指示は適切でした。あの場でシャンドラが忠誠を証明しなければ、大神官はおろか誰をも納得させることはできなかったでしょう。今回の計画におきましては、シャンドラの随行は不可欠です。無論わたくしも同行しますが、作戦の指揮は後ろからでも執れますからね」
ふと、セナは顔を上げる。
計画や作戦という単語がファルゼフの口から出たが、まるで戦争でも行うかのような仰々しさだ。
「作戦の指揮というと……そんなに大きな計画があるんですか?」
「もちろんです。神馬の儀は、国家の命運を決める重大な儀式ですからね。先程シャンドラが言った、儀式に参加したアルファたちの男根を切断するという逸話も、過去の神の贄が実際に下した命令ですよ。あなた様はそれだけの権力をお持ちなのです」
「そんな……! そんなこと絶対にしてはいけません。僕はそんなひどいこと望んでいません」
「了解しました。セナ様は慈悲深い神の贄でいらっしゃる……。神の末裔たちが必死になって奪い合うのも、よく理解できます」
慌ててやってきたのでひとりだが、セナは自分で扉を開けることを躊躇しない。むしろ、なんでも召使いにやってもらうという環境に未だに慣れないくらいだ。
「失礼します……」
医務室の扉を開けた途端、ベッドから飛び降りるシャンドラの姿を目にする。セナが足を踏み入れたときには完璧な体勢で、シャンドラはセナの足元に跪いていた。
「シャンドラ、お願いです。ベッドに寝ていてください」
上衣を脱いで上半身だけ裸になったシャンドラは、左腕に包帯を巻いていた。白の包帯が痛々しさを醸し出している。
すっと立ち上がったシャンドラは、微笑を見せた。
「このくらいの怪我はいつものことなので、平気です」
アルファの中では小柄なシャンドラだけれど、当然のごとくセナのほうが背が低いので見下ろされる格好になる。
なんだかやたらと距離が近く、彼の唇はあと一歩でセナの額にくっついてしまいそうだ。
一度は体を重ねた相手なので、セナのほうが意識しすぎているのかもしれない。
「でも……怪我をしていたら戦いに支障が出ますよね? 僕がラシードさまを止めるべきだったのに、シャンドラを傷つけてしまって申し訳ないです」
商売道具とも言える戦士の腕を自ら傷つけさせるなんて、とても哀しいことだ。それが主君への忠誠を示す証なのだと言われれば、戦いを知らないセナは納得するしかないのだけれど。
シャンドラは意外なことを聞いたというふうに、軽く目を見開いた。
「セナ様は俺の立場で物を考えてくださるんですか……お優しいんですね。あなた様の地位なら、儀式に参加したあとのアルファの男根をすべて切断せよと命じても良いというのに」
今度はセナが目を見開かされる番だった。
そのような恐ろしい事態は考えたこともないし、想像すらしたくない。
「とんでもありません! 僕は誰も傷つけたくないし、誰にも傷ついてほしくないんです。僕が命令できるとしたら、今後決して自分を傷つけてはいけないと、まずはシャンドラに命じます」
ふっとシャンドラが笑ったと思った瞬間、セナの額に熱いものが押しつけられた。
「あっ……」
「御意にございます」
キスされた。
まるで初心な恋人の睦み合いのようにくちづけられて、セナの頬は朱に染まる。
「あ、あの……」
思わず額に手をやったとき。
隣から冷静な声音が降ってきた。
「ご心配には及びません、セナ様。腕の立つ者が自らを傷つける行為は調整が可能なので、見た目ほどの怪我ではないのです。シャンドラは太い血管を避けて……」
「ひゃあああああ⁉」
ファルゼフが隣にいたことに全く気づかなかったセナは大仰に驚いてしまい、足を滑らせてしまう。
転びそうになった体を、シャンドラがそつなく抱えてくれた。怪我をしている左腕で。
怪我人の腕を使わせてしまうなんて本当に申し訳ない。セナはシャンドラの腕から離れようともがきながら、どうにか体勢を整える。
「ファルゼフ……いつからそこに……?」
「初めからおりました。セナ様はシャンドラを案ずるあまり、わたくしの姿が目に入っていなかったようですね」
そのとおりなので、非常にいたたまれない。
……ということは、シャンドラにキスされて赤くなったことも間近から見られていたわけである。
両手で顔を覆うセナに、ファルゼフは淡々と説明した。
「陛下の指示は適切でした。あの場でシャンドラが忠誠を証明しなければ、大神官はおろか誰をも納得させることはできなかったでしょう。今回の計画におきましては、シャンドラの随行は不可欠です。無論わたくしも同行しますが、作戦の指揮は後ろからでも執れますからね」
ふと、セナは顔を上げる。
計画や作戦という単語がファルゼフの口から出たが、まるで戦争でも行うかのような仰々しさだ。
「作戦の指揮というと……そんなに大きな計画があるんですか?」
「もちろんです。神馬の儀は、国家の命運を決める重大な儀式ですからね。先程シャンドラが言った、儀式に参加したアルファたちの男根を切断するという逸話も、過去の神の贄が実際に下した命令ですよ。あなた様はそれだけの権力をお持ちなのです」
「そんな……! そんなこと絶対にしてはいけません。僕はそんなひどいこと望んでいません」
「了解しました。セナ様は慈悲深い神の贄でいらっしゃる……。神の末裔たちが必死になって奪い合うのも、よく理解できます」
11
お気に入りに追加
1,897
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる