淫神の孕み贄

沖田弥子

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浴室の後戯 3

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 恥ずかしいから見ないでほしいとお願いしたばかりなのだけれど。なぜか通じない。
 海綿を置いたシャンドラはセナの両膝に手をかけた。割り開こうとしたので、必死に膝を押さえて死守する。

「だめだめ! 見ちゃだめなんです!」
「見ないことにはなんとも言えません。どうなっているのか、少しだけでいいので見せてください」
「少しでもだめです……だめぇ……!」

 抵抗を続けるセナの両膝が、ほんの少し開いた。
 身を屈めたシャンドラは覗き込もうとしたけれど、すぐに姿勢を起こす。

「この体勢が良くないですね。とりあえず、髪から洗いましょう」
「はあ……」

 あっさり引いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
 シャンドラは膝にかけていた手を離すと、髪を洗うための石鹸を泡立て始めた。
 どうやら諦めてくれたようだ。彼が本気を出せば、セナの膝なんて容易く割られていただろう。そのくらい、腕力の差は歴然としている。黒装束を纏っているときのシャンドラは細身に見えるが、裸身にはしっかりとした筋肉が付いていた。戦うための男の肉体だ。二の腕は盛り上がり、腹筋は割れている。それから天を衝く中心も、とても……立派なものだ。
 セナはそっと目を逸らした。
 シャンドラの雄芯はなぜか、屹立している。
 どうして、欲情しているのだろう。
 本人は全く気に留めていないようで、平然としていた。

「それでは髪を洗いますので、椅子に背を付けてください」
「あ、はい」

 起こしていた体を、椅子の形に添わせて仰向けになる。いつも髪を洗ってもらうときのように、やや顎を上げた。
 ところがシャンドラは、セナの体に覆い被さるようにして、黒髪に手を伸ばす。足場が必要なためか、彼の強靱な膝はセナの足の間に突いていた。まるで正常位のような格好を彷彿とさせ、慌てたセナは手足をばたつかせる。

「えっ? ちょっと、待って、この格好……」
「動かないでください。泡が目に入ってしまいます」

 通常は、召使いが椅子の頭側に立って洗うものだ。
 けれど人によってやり方が違うのかもしれない。特にシャンドラはラシードに命じられたから入浴の手伝いをしているだけで、他人の髪を洗うことには慣れてはいないのかもしれない。
 制されたので、セナは暴れるのをやめて手を下ろした。
 わしゃわしゃと泡の付いた掌で、髪を洗われる。意外にも丁寧で繊細な洗い方だった。
 頭皮に触れる手の感触で、シャンドラの掌は想像よりずっと大きいのだとわかる。

「……手、大きいんですね」
「武器を握るので、掌が肉厚になるんです」
「そうなんですか……。短剣は結構重いのですか?」
「短剣の重量自体はさほどでもありませんが、握力がないと弾き飛ばされてしまうので、しっかり握るのは基本です。クナイを投げるときは握力より腕の力が必要になります」
「クナイって……なんですか?」
「東洋の飛び道具です。柄のない小さな短剣と考えてください」

 戦いのための訓練など行ったことのないセナには、新鮮な会話だった。しかもシャンドラは特殊な武器を使用するらしい。

「それを使って……暗殺するんですか……」
「アサシンは暗殺稼業の者もいますが、それだけが仕事ではありません。特にトルキア国は統治体制が整っているためか、暗殺の依頼自体が極めて少ないかと。この国では要人の護衛が主になります」
「そうなんですか……。それを聞いて、ほっとしました」
「なぜです」

 シャンドラはふと顔を傾けた。
 互いの顔は唇が触れてしまいそうなほどに近い。
 シャンドラは肘と膝を突きながら器用にセナの髪を洗っているけれど、彼の強靱な胸が重なり、腿には猛った楔が押し当てられている。セナは意識を逸らそうと、頭皮を撫でられる心地好い感触に集中して目を閉じた。

「シャンドラに、暗殺なんてしてほしくありませんから」
「……そういうものですか」

 初めは怖い人に見えたけれど、色々と話ができて良かった。無表情で寡黙なシャンドラだが、彼の胸には優しさが秘められている気がする。
 セナは、ふと首を捻った。
 シャンドラはいつまで経っても泡を洗い流してくれない。もうそろそろ汚れも落ちた頃合いではないだろうか。

「あの……シャンドラ」
「なんでしょう」
「いえ、なんでもないです……」

 恥ずかしい……腿に、熱いのが当たってる……
 意識すれば、かぁっと頬が火照ってしまう。
 そのとき、唇を柔らかいもので塞がれた。

「んっ」

 なんだろう。
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