85 / 153
浴室の後戯 3
しおりを挟む
恥ずかしいから見ないでほしいとお願いしたばかりなのだけれど。なぜか通じない。
海綿を置いたシャンドラはセナの両膝に手をかけた。割り開こうとしたので、必死に膝を押さえて死守する。
「だめだめ! 見ちゃだめなんです!」
「見ないことにはなんとも言えません。どうなっているのか、少しだけでいいので見せてください」
「少しでもだめです……だめぇ……!」
抵抗を続けるセナの両膝が、ほんの少し開いた。
身を屈めたシャンドラは覗き込もうとしたけれど、すぐに姿勢を起こす。
「この体勢が良くないですね。とりあえず、髪から洗いましょう」
「はあ……」
あっさり引いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
シャンドラは膝にかけていた手を離すと、髪を洗うための石鹸を泡立て始めた。
どうやら諦めてくれたようだ。彼が本気を出せば、セナの膝なんて容易く割られていただろう。そのくらい、腕力の差は歴然としている。黒装束を纏っているときのシャンドラは細身に見えるが、裸身にはしっかりとした筋肉が付いていた。戦うための男の肉体だ。二の腕は盛り上がり、腹筋は割れている。それから天を衝く中心も、とても……立派なものだ。
セナはそっと目を逸らした。
シャンドラの雄芯はなぜか、屹立している。
どうして、欲情しているのだろう。
本人は全く気に留めていないようで、平然としていた。
「それでは髪を洗いますので、椅子に背を付けてください」
「あ、はい」
起こしていた体を、椅子の形に添わせて仰向けになる。いつも髪を洗ってもらうときのように、やや顎を上げた。
ところがシャンドラは、セナの体に覆い被さるようにして、黒髪に手を伸ばす。足場が必要なためか、彼の強靱な膝はセナの足の間に突いていた。まるで正常位のような格好を彷彿とさせ、慌てたセナは手足をばたつかせる。
「えっ? ちょっと、待って、この格好……」
「動かないでください。泡が目に入ってしまいます」
通常は、召使いが椅子の頭側に立って洗うものだ。
けれど人によってやり方が違うのかもしれない。特にシャンドラはラシードに命じられたから入浴の手伝いをしているだけで、他人の髪を洗うことには慣れてはいないのかもしれない。
制されたので、セナは暴れるのをやめて手を下ろした。
わしゃわしゃと泡の付いた掌で、髪を洗われる。意外にも丁寧で繊細な洗い方だった。
頭皮に触れる手の感触で、シャンドラの掌は想像よりずっと大きいのだとわかる。
「……手、大きいんですね」
「武器を握るので、掌が肉厚になるんです」
「そうなんですか……。短剣は結構重いのですか?」
「短剣の重量自体はさほどでもありませんが、握力がないと弾き飛ばされてしまうので、しっかり握るのは基本です。クナイを投げるときは握力より腕の力が必要になります」
「クナイって……なんですか?」
「東洋の飛び道具です。柄のない小さな短剣と考えてください」
戦いのための訓練など行ったことのないセナには、新鮮な会話だった。しかもシャンドラは特殊な武器を使用するらしい。
「それを使って……暗殺するんですか……」
「アサシンは暗殺稼業の者もいますが、それだけが仕事ではありません。特にトルキア国は統治体制が整っているためか、暗殺の依頼自体が極めて少ないかと。この国では要人の護衛が主になります」
「そうなんですか……。それを聞いて、ほっとしました」
「なぜです」
シャンドラはふと顔を傾けた。
互いの顔は唇が触れてしまいそうなほどに近い。
シャンドラは肘と膝を突きながら器用にセナの髪を洗っているけれど、彼の強靱な胸が重なり、腿には猛った楔が押し当てられている。セナは意識を逸らそうと、頭皮を撫でられる心地好い感触に集中して目を閉じた。
「シャンドラに、暗殺なんてしてほしくありませんから」
「……そういうものですか」
初めは怖い人に見えたけれど、色々と話ができて良かった。無表情で寡黙なシャンドラだが、彼の胸には優しさが秘められている気がする。
セナは、ふと首を捻った。
シャンドラはいつまで経っても泡を洗い流してくれない。もうそろそろ汚れも落ちた頃合いではないだろうか。
「あの……シャンドラ」
「なんでしょう」
「いえ、なんでもないです……」
恥ずかしい……腿に、熱いのが当たってる……
意識すれば、かぁっと頬が火照ってしまう。
そのとき、唇を柔らかいもので塞がれた。
「んっ」
なんだろう。
海綿を置いたシャンドラはセナの両膝に手をかけた。割り開こうとしたので、必死に膝を押さえて死守する。
「だめだめ! 見ちゃだめなんです!」
「見ないことにはなんとも言えません。どうなっているのか、少しだけでいいので見せてください」
「少しでもだめです……だめぇ……!」
抵抗を続けるセナの両膝が、ほんの少し開いた。
身を屈めたシャンドラは覗き込もうとしたけれど、すぐに姿勢を起こす。
「この体勢が良くないですね。とりあえず、髪から洗いましょう」
「はあ……」
あっさり引いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
シャンドラは膝にかけていた手を離すと、髪を洗うための石鹸を泡立て始めた。
どうやら諦めてくれたようだ。彼が本気を出せば、セナの膝なんて容易く割られていただろう。そのくらい、腕力の差は歴然としている。黒装束を纏っているときのシャンドラは細身に見えるが、裸身にはしっかりとした筋肉が付いていた。戦うための男の肉体だ。二の腕は盛り上がり、腹筋は割れている。それから天を衝く中心も、とても……立派なものだ。
セナはそっと目を逸らした。
シャンドラの雄芯はなぜか、屹立している。
どうして、欲情しているのだろう。
本人は全く気に留めていないようで、平然としていた。
「それでは髪を洗いますので、椅子に背を付けてください」
「あ、はい」
起こしていた体を、椅子の形に添わせて仰向けになる。いつも髪を洗ってもらうときのように、やや顎を上げた。
ところがシャンドラは、セナの体に覆い被さるようにして、黒髪に手を伸ばす。足場が必要なためか、彼の強靱な膝はセナの足の間に突いていた。まるで正常位のような格好を彷彿とさせ、慌てたセナは手足をばたつかせる。
「えっ? ちょっと、待って、この格好……」
「動かないでください。泡が目に入ってしまいます」
通常は、召使いが椅子の頭側に立って洗うものだ。
けれど人によってやり方が違うのかもしれない。特にシャンドラはラシードに命じられたから入浴の手伝いをしているだけで、他人の髪を洗うことには慣れてはいないのかもしれない。
制されたので、セナは暴れるのをやめて手を下ろした。
わしゃわしゃと泡の付いた掌で、髪を洗われる。意外にも丁寧で繊細な洗い方だった。
頭皮に触れる手の感触で、シャンドラの掌は想像よりずっと大きいのだとわかる。
「……手、大きいんですね」
「武器を握るので、掌が肉厚になるんです」
「そうなんですか……。短剣は結構重いのですか?」
「短剣の重量自体はさほどでもありませんが、握力がないと弾き飛ばされてしまうので、しっかり握るのは基本です。クナイを投げるときは握力より腕の力が必要になります」
「クナイって……なんですか?」
「東洋の飛び道具です。柄のない小さな短剣と考えてください」
戦いのための訓練など行ったことのないセナには、新鮮な会話だった。しかもシャンドラは特殊な武器を使用するらしい。
「それを使って……暗殺するんですか……」
「アサシンは暗殺稼業の者もいますが、それだけが仕事ではありません。特にトルキア国は統治体制が整っているためか、暗殺の依頼自体が極めて少ないかと。この国では要人の護衛が主になります」
「そうなんですか……。それを聞いて、ほっとしました」
「なぜです」
シャンドラはふと顔を傾けた。
互いの顔は唇が触れてしまいそうなほどに近い。
シャンドラは肘と膝を突きながら器用にセナの髪を洗っているけれど、彼の強靱な胸が重なり、腿には猛った楔が押し当てられている。セナは意識を逸らそうと、頭皮を撫でられる心地好い感触に集中して目を閉じた。
「シャンドラに、暗殺なんてしてほしくありませんから」
「……そういうものですか」
初めは怖い人に見えたけれど、色々と話ができて良かった。無表情で寡黙なシャンドラだが、彼の胸には優しさが秘められている気がする。
セナは、ふと首を捻った。
シャンドラはいつまで経っても泡を洗い流してくれない。もうそろそろ汚れも落ちた頃合いではないだろうか。
「あの……シャンドラ」
「なんでしょう」
「いえ、なんでもないです……」
恥ずかしい……腿に、熱いのが当たってる……
意識すれば、かぁっと頬が火照ってしまう。
そのとき、唇を柔らかいもので塞がれた。
「んっ」
なんだろう。
18
お気に入りに追加
1,904
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる