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宰相の奸計 2
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アルとイスカの三種の性はまだ不明だ。大人になるまでわからない。
「あの……僕としては、神の子だとかそうでないとか、三種の性にかかわらず、王子たちのやる気や特性を生かしてあげたいんです。ふたりで協力してトルキア国の王位を継いでほしいですし、もしふたりが王になりたくないと言うなら、才能のある人に王を任せるだとか、そういう方法を取るのがみんなの幸せのためによいかと……」
セナの考えを言い終える前に、ファルゼフはもはや呆れた顔をしていた。
この馬鹿者めと言いたげな半眼で、セナを見下ろしている。
「セナ様の自由奔放なお考えはよくわかりましたが、法律や伝統というものは簡単に変えられるものではありません。皆の幸せのためと仰るのでしたら、最低でも三人の御子様を産んでください。それこそがトルキア国の幸福のためになります。それとも、御子様を産みたくない理由でもあるのですか?」
「そんなことはないです。できるなら産みたいです。ただ……僕はふつうの女性とは違う体ですし、特異な体質のオメガなので……また懐妊するのは難しいのかもしれません」
「それはそうでしょうとも。懐妊しない原因について、思い当たることはございますか? 陛下とハリル殿には毎晩精を注がれていますよね」
ファルゼフに閨のことを知られているのは当然かもしれないが、はっきり指摘されると羞恥が込み上げる。
セナは赤く染まった顔を俯かせながら、ぼそぼそと喋り出した。
「思い当たることは……あります」
「なんですか? 包み隠さず、お話しください」
「あの……実は、淫紋が、動かないんです」
セナの下腹に刻まれた赤い蔓のような淫紋は、初代国王の代から脈々と受け継がれたものである。淫紋の一族と呼ばれた王族の腹には、必ずこの淫紋があったという。
だが時を経た現在では、淫紋が刻まれているのはセナひとりになってしまった。
淫紋は体が快楽を感じると、生きた蔓のように蠢いて、快感をより増幅させる効果がある。淫神の儀式のときには、この淫紋が動くほどイルハーム神に快楽が捧げられるという重要な意味があった。
けれど、儀式を終えたときから、淫紋はちっとも動かなくなってしまったのである。
それは儀式が終了したからだろうと、セナは軽く考えていた。
もし、淫紋が動くことと、懐妊が連動しているとしたら。
ファルゼフは眼鏡の奥にある紫色の双眸を眇めた。
「神の手と同じ紋様といわれる淫紋ですね。儀式では生き物のごとく蠢いたという報告を聞いています」
「それが……儀式が終わったら動かなくなってしまったんです」
「動かないとは、常に、全く動かないということですか?」
「え……ええと……」
抱かれている最中にずっと観察しているわけではないので、一片たりとも動かないと自信を持って言えない。実はセナが見ていないところで、ほんの少し動いているのかもしれない。
「淫紋と快楽は密接に繫がっているそうですから、動かないということは、男根を挿入されて擦られても、全く快感を感じないということですか?」
ファルゼフはごく冷静に淫蕩な内容を質問する。
セナの頬は朱を刷いたように染まった。
「あの……その……」
「わたくしは事実を正確に伝えてほしいと願っています。この国の未来のために」
彼は宰相として、事実を確認するために訊ねているのだ。決してセナを辱めるために淫らな質問をしているわけではない。
そう解釈したセナは赤くなりながらも、正直に答えた。
「感じてます……」
「どの程度ですか?」
「……すごく」
「喘ぎ声は出ますか?」
「……出ます」
「どんなふうに?」
「……えっと……」
「いつものように喘いでみてください」
「え。ここで……?」
「そうです。今、ここで」
ファルゼフを見やれば、彼は数学の公式を説いているかのように平静そのものだ。恥ずかしがるセナの感覚がおかしいのかと思ってしまう。
仕方ないので、セナは小さな声で、寝台での自分の喘ぎを再現した。
「あ……あ……、とか」
「感じているとは思えないほど棒読みですね。本当にそのような喘ぎ声なのだとしたら、淫紋が動かないのも納得できます」
酷評されてしまった。実際はもっと大きい声が出ている……かもしれないけれど、ここで正確に喘ぎ声を再現する意味があるのだろうかと疑問に思う。
「再現するのは難しいです。普段から自分の喘ぎ声を意識して聞いてないですよ……」
「そうかもしれませんね。体のほうはどのように感じているのでしょう。腰は動きますか?」
「あの……僕としては、神の子だとかそうでないとか、三種の性にかかわらず、王子たちのやる気や特性を生かしてあげたいんです。ふたりで協力してトルキア国の王位を継いでほしいですし、もしふたりが王になりたくないと言うなら、才能のある人に王を任せるだとか、そういう方法を取るのがみんなの幸せのためによいかと……」
セナの考えを言い終える前に、ファルゼフはもはや呆れた顔をしていた。
この馬鹿者めと言いたげな半眼で、セナを見下ろしている。
「セナ様の自由奔放なお考えはよくわかりましたが、法律や伝統というものは簡単に変えられるものではありません。皆の幸せのためと仰るのでしたら、最低でも三人の御子様を産んでください。それこそがトルキア国の幸福のためになります。それとも、御子様を産みたくない理由でもあるのですか?」
「そんなことはないです。できるなら産みたいです。ただ……僕はふつうの女性とは違う体ですし、特異な体質のオメガなので……また懐妊するのは難しいのかもしれません」
「それはそうでしょうとも。懐妊しない原因について、思い当たることはございますか? 陛下とハリル殿には毎晩精を注がれていますよね」
ファルゼフに閨のことを知られているのは当然かもしれないが、はっきり指摘されると羞恥が込み上げる。
セナは赤く染まった顔を俯かせながら、ぼそぼそと喋り出した。
「思い当たることは……あります」
「なんですか? 包み隠さず、お話しください」
「あの……実は、淫紋が、動かないんです」
セナの下腹に刻まれた赤い蔓のような淫紋は、初代国王の代から脈々と受け継がれたものである。淫紋の一族と呼ばれた王族の腹には、必ずこの淫紋があったという。
だが時を経た現在では、淫紋が刻まれているのはセナひとりになってしまった。
淫紋は体が快楽を感じると、生きた蔓のように蠢いて、快感をより増幅させる効果がある。淫神の儀式のときには、この淫紋が動くほどイルハーム神に快楽が捧げられるという重要な意味があった。
けれど、儀式を終えたときから、淫紋はちっとも動かなくなってしまったのである。
それは儀式が終了したからだろうと、セナは軽く考えていた。
もし、淫紋が動くことと、懐妊が連動しているとしたら。
ファルゼフは眼鏡の奥にある紫色の双眸を眇めた。
「神の手と同じ紋様といわれる淫紋ですね。儀式では生き物のごとく蠢いたという報告を聞いています」
「それが……儀式が終わったら動かなくなってしまったんです」
「動かないとは、常に、全く動かないということですか?」
「え……ええと……」
抱かれている最中にずっと観察しているわけではないので、一片たりとも動かないと自信を持って言えない。実はセナが見ていないところで、ほんの少し動いているのかもしれない。
「淫紋と快楽は密接に繫がっているそうですから、動かないということは、男根を挿入されて擦られても、全く快感を感じないということですか?」
ファルゼフはごく冷静に淫蕩な内容を質問する。
セナの頬は朱を刷いたように染まった。
「あの……その……」
「わたくしは事実を正確に伝えてほしいと願っています。この国の未来のために」
彼は宰相として、事実を確認するために訊ねているのだ。決してセナを辱めるために淫らな質問をしているわけではない。
そう解釈したセナは赤くなりながらも、正直に答えた。
「感じてます……」
「どの程度ですか?」
「……すごく」
「喘ぎ声は出ますか?」
「……出ます」
「どんなふうに?」
「……えっと……」
「いつものように喘いでみてください」
「え。ここで……?」
「そうです。今、ここで」
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仕方ないので、セナは小さな声で、寝台での自分の喘ぎを再現した。
「あ……あ……、とか」
「感じているとは思えないほど棒読みですね。本当にそのような喘ぎ声なのだとしたら、淫紋が動かないのも納得できます」
酷評されてしまった。実際はもっと大きい声が出ている……かもしれないけれど、ここで正確に喘ぎ声を再現する意味があるのだろうかと疑問に思う。
「再現するのは難しいです。普段から自分の喘ぎ声を意識して聞いてないですよ……」
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