淫神の孕み贄

沖田弥子

文字の大きさ
上 下
26 / 153

受胎の儀 5

しおりを挟む
ラシードの咎めるような眼差しが痛い。上半身が自由になったセナはどうにか身を起こし、両手で胸元を覆う。
儀式のためとはいえ、他の男に抱かれたばかりの体を晒すのは居たたまれない。

「あ……見ないでください」

消え入りそうな小さな声を出せば、ラシードの大きな手で頤を掬い上げられた。

「んっ、ぁ、ん……」

荒々しく唇を塞がれる。濡れた舌が挿し入れられて唇を割られると、冷たい水を流し込まれていく。
心地良い液体が、するりと喉を流れた。セナは口うつしで呑まされる水を夢中で嚥下する。
最後に、口端に零れた雫を舌で舐め取られて、ほうと淡い息を継いだ。

「美味しい……」

うっとりとして呟くと、その様子を凝視していたラシードの喉仏がごくりと上下する。
男に抱かれて何度も達したセナは芳醇な色香を纏っている。
翡翠色の眸は快感の残滓を映してとろりと蕩かされ、幾度も吸われた唇は紅く濡れている。華奢な肢体からは雄を誘う香りが匂い立っていた。
アルファを誘う、オメガの発情期の香りだ。
ラシードはセナを覆っていた布をすべて取り払う。隠されていた下半身が露わになり、その凄艶なさまにセナは息を呑んだ。
真紅の淫紋には己の放った白蜜が撒き散らされ、後孔からは幾筋もの白濁が零れ落ちて腿を伝っている。下半身に巻きついた神具は金の棒とリングは外されているが、淫液を纏いながら鎖の一端につながれていた。閨の中で何が行われたのか、セナの体が如実に物語っていた。

「セナ。私はそなたがいかに疲弊していようとも、休ませてやることはできない。この身に私の精を受ける覚悟はできているか?」

痛ましい色を浮かべた漆黒の眸で見つめてくるラシードに微笑みかける。
疲れてなんかいない。神の末裔の精がほしい。もっと。
淫紋は妖しく蠢き出す。セナは細い腕を伸ばすと、ラシードの首に巻きつかせた。

「覚悟はできています。ラシードさまの精を僕にください。体の奥深くに、たくさん注いでください」

さらりと淫らな願いが口から零れ出る。
こんなに大胆な台詞が言えるなんて、自分でも信じられなかった。
淫紋に支配された体は精を求め、オメガの本能はアルファを誘惑する。
華奢な背中をきつく抱きしめたラシードは紫色の寝台にセナの体を横たえた。
ラシードがガウンを脱ぎ去ると逞しい体躯が露わにされて、セナは驚きに眸を見開く。
王は閨でも衣服を纏い、局部だけを出して結合するのが作法なのだと思っていた。以前、淫紋の儀においてラシードに抱かれたときも、そのようにしていたのだから。
けれど一糸纏わぬ裸体を晒して寝台に伸し上がり、セナに覆い被さるラシードに迷いはない。王の衣服を纏っているときは溢れる気品と端正な顔立ちのためか華奢にも見えるのに、裸身になると彫刻のように雄々しい筋肉を纏うラシードを目にして、どきりと心臓が跳ねる。
逞しい腕に、ぎゅっと抱きしめられて悦びが胸に込み上げた。
恋人のように大切に扱ってくれて、嬉しい。
儀式なのだから、義務的に精を放って終わりかもしれないと危惧していたから。
もちろんそういった扱いでも、セナに文句を言う資格などないのだけれど。

「ラシードさま……うれしい」

肩口に頬を擦り寄せると、耳朶を軽く啄まれる。髪を撫でられたり、瞼や頬に口づけられたりして、恋人のような戯れに陶然とした。
ふいに人影が過ぎり、驚いたセナは天井を仰ぐ。

「あ……天井に……」

なんと寝台の天井には鏡が設置されていた。人影かと思ったのは、抱き合う自分たちだ。
このようなところに、なぜ鏡があるのだろう。
ラシードは薄く笑う。

「この鏡は贄が孕まされていることを自覚するためにある。より快感を増幅させる効果もあるゆえ、私に抱かれている最中にずっと眺めているといい」
「そんな……見ながらだなんて、恥ずかしいです」
「言うほど嫌ではないようだが? 試してみよう」

身を起こしたラシードはセナの細腰を掴む。既に硬く勃立している雄芯の先端が、濡れている後孔に宛がわれた。

「あっ……あ、あぁん」

ぐちゅん、と淫らな水音を立てて、新たな楔を蕾は美味そうに呑み込んでいく。
沼のようにぐずぐずに蕩けている肉筒は迎え入れるように蠕動した。

「あっ、あ、あ、どうしよう……きもちいい……」
「天井を仰げ。楔を呑み込んでいる己の姿はどうだ?」

仰いでみれば天井の鏡には、豪奢な紫色の寝台の上に、金の鎖に巻かれている華奢な肢体が大きく足を広げて雄を銜えている姿が鮮明に映っていた。しかも男に貫かれている者は、自分の顔をしているのだ。鏡なのだから当然のことなのだが、あるがままの姿を俯瞰して見せつけられることにより、たまらない羞恥が湧き起こる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...