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耽溺の別荘 14

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 覚えのある感触に、澪はびくりと体を震わせた。

「やっ、いやだ、挿れないで、中で出さないで……!」
「それは聞けません。ゆっくり擦るから、痛くないですよ」

 あやすような口調に反し、トキは凄まじい力で暴れる澪の腰を掴んだ。先端が蕾を捲り上げようとして、ぐいと腰を推し進めてくる。

「いやぁっ、若さま、若さまっ、たすけて」

 突如、伸し掛かっていた体の重みが消えた。
 鈍い音が鳴り、トキの体は衝撃に跳ね飛ばされる。
 憤怒に顔を歪めた晃久が、そこにいた。彼は拳を握りしめ、殴られた頬に手を遣るトキを憎しみを込めて見下した。

「貴様の忠義をわずかでも信じた俺が愚かだった。来い。望みどおり、殺してやる」

 低い声音で言い放ち、トキの襟首を掴んで引き立てる。
 晃久は本気でトキを殺すつもりだ。
 本宅の書斎の抽斗には拳銃が収納されている。きっとこの別荘の書斎にもあるはず。
 青ざめた澪は必死で晃久に取り縋った。

「待ってください、若さま! 殺すなんていけません」

 晃久に人殺しをさせてはいけない。しかもこの事態を招いたのは澪のせいなのだ。
 腕に縋る澪に冷めた眼差しをむけた晃久は冷徹に告げた。

「俺の言いつけを破ったな、澪。だが成り行きは分かっている。おまえがトキの計画通りにおびき寄せられたんだ。気づいたときには股を開かされていた」

 引き裂かれたシャツを掻き合わせた澪の眸は涙に濡れている。
 強制的な情交の痕を色濃く滲ませている澪は茫然と立ち竦んだ。
 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

「計画通りだなんて……ただ僕は食事のお手伝いをしようと……」
「おまえはいつもそうだろう。仮面を被った利口なやつに、簡単に騙される」

 人は誰しも仮面を被っているという。
 晃久は自分も含めてそういった人間に嫌気がさしていると語っていた。そして仮面を被っていない澪に惹かれると、彼は言ってくれた。
 あのときは、それを嬉しく思った。誇らしくさえあった。
 けれど澪が仮面という名の建前を全く理解していないので、こんなことになってしまったのだ。
 トキは厨房の床に土下座した。

「殺してください」

 床に額を擦りつける潔いトキを、晃久は鼻で嗤う。

「おまえは子爵のときも同じ技を使ったな。土下座して謝る者を殺す主人が悪ということになるものな。忠実な下男の仮面は付け心地が良いか? おまえの本性は欲望に塗れた獣だ」
「そのとおりでございます」
「頭を撃ち抜かれる前に答えろ、トキ。華族の愛でる者を寝取るのは気分が良いのか」

 少しの間があった。トキは頭を下げているので表情は窺えない。

「私は寝取りたいわけではありません。美しいものに触れたいと思う欲望を抑えきれないのです」

 その言葉は晃久の共感を得られたのか、彼の顔から殺意が消えた。
 だが静かな怒りを秘めている。狡猾な下男が罪を逃れるための慣れた言動に反感を覚えているようだった。

「おまえたちには罰を与える。来い」

 立ち竦んで動けない澪の腰が攫われる。別荘を訪れたときと同じように晃久の肩に担ぎ上げられて、厨房から運び出された。
 僕も、罰を受けて殺されるのだろうか。
 体が恐怖に震えてしまい、小刻みに揺れる振動は晃久にも伝わる。
 黙して後ろをついてくるトキは常と変わらぬように平静な顔をしていた。この状況で平気でいられるなんて、澪には到底信じられない。
 主寝室へ入ると、カーテンの開けられた天蓋付きのベッドに体を投げ出される。ベッドの端には午前中に読んだ本がそのまま置かれていた。

「そこに立って見ていろ」
「かしこまりました」

 晃久の命令により、トキはサイドテーブルの横に立つ。
 彼の目の前にはベッドがあり、カーテンが開けられているので、放り出された澪の肢体はよく見えていた。
 何が始められるのだろうか。
 身を起こした澪は不安げな顔で、晃久とトキを交互に見た。ふたりは落ち着き払った態度で、これから起こることを完全に把握しているようだった。澪だけが理解できていない。
 晃久は上着を脱いでネクタイを外すと、ベッドに乗り上げてきた。

「こいつにどんなふうにされた。同じように愛撫してやる」
「えっ……そんな」

 肩に纏わりついていたシャツを剥がれ、かろうじて腰で穿いていたスラックスを引き下げられる。全裸にされた澪は尻でベッドの端に下がる。
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