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オメガの運命 1

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 朝の陽光を瞼の裏に感じ、薄らと目を開ける。

「あ……ここは」

 身を起こせば、そこは晃久の寝室だった。昨夜はいつの間にか気を失い、ベッドに運ばれたらしい。
 豪奢なベッドに晃久の姿はない。主人の寝台で使用人が寝ているなんて、なんという無礼なことをしているのだろう。慌てて降りようとすれば、腰の奥に走る疼痛と同時に湧き起こる疼きに襲われて動けなくなってしまう。

「う……んん……」

 途端に昨夜の痴態が脳裏に蘇る。晃久に激しく抱かれて、夜通し嬌声を上げ続けた。散らされた蕾からは、彼の放った白濁がぬるりと滴り、内股を濡らしている。
 その生々しい感触に青ざめる。
 けれど心とは裏腹に、体は劣情を刻んでいた。

「あ……どうして……」

 花芯は欲を求めて勃ち上がり、熟れた花筒は逞しい雄芯を欲するかのように熱を持っている。体が疼いて、たまらない。
 これでは淫売の男娼のようだ。
 昨夜は散々晃久に抱かれたというのに、この体は飽くことなく男を欲しがっている。
 どうして。
 疼く体を持て余して浅い息を継いでいると、ふいに寝室の扉が開いた。慌てて布団にもぐり、淫らな体を覆い隠す。

「澪、起きたのか。具合はどうだ?」

 晃久の声だった。安堵すると共に否応もなく昨夜の行為が蘇り、恥ずかしさに顔を上げられない。

「顔を見せてくれ。まずは水を飲んだらどうだ。喉が渇いたろう」

 気遣う声に、布団から目元だけを出して見上げる。盆に水の入ったコップと水差しを持ってきた晃久は白のシャツを纏っている。爽やかに問いかける彼の中に、淫靡な色は全く見られなかった。
 晃久が女中のように盆を携えている姿にも驚いたが、いつになく彼の眼差しが優しげに眇められているので、思わず布団から出て見返してしまう。
 いつも鋭い眼差しをしている晃久が、こんな風に目元を緩ませているのは珍しかった。
 サイドテーブルに盆を置いた晃久はベッドサイドに腰掛けて、澪の額に何のためらいもなく熱い手のひらで触れる。

「微熱があるようだな。今日は仕事を休め。サノには俺から言っておいた」

 女中頭であるサノは、大須賀伯爵家に長年勤めている老齢の女性だ。現在の当主である幸之介も信頼を寄せており、大須賀家の雑事や使用人を纏めている。愛人の子である澪にも侮蔑の目を投げたりせず、公平に接してくれていた。
 だからこそ甘えてはいけない。澪は布団から跳ね起きた。

「そういうわけにはいきません。僕、今から仕事に……あっ」

 途端に体の疼きが高まり、身を屈めて耐える。体は熱っぽく、頬は朱に染まっている。上手く息が継げず、浅い呼吸を繰り返した。

「その体では無理だ。声が嗄れているぞ。水を飲め」

 一晩中喘いでいたので、声は掠れていた。喉は乾ききっている。
 コップを晃久から手渡されて受け取る間際、ほんのわずか指先が触れる。

「……んっ……」

 小さな刺激と晃久の熱にも感じてしまい、あえかな吐息が零れる。
 晃久の見つめる傍らで、澪は濡れた眸を瞬かせながらコップの水を飲み干した。

「大丈夫です。少し落ち着きました」

 心配させたくないので平気なふりをして微笑をむける。
 晃久の行為のせいで澪の体調が崩れたなんてことにしてはいけない。昨夜のことは合意の上だ。むしろ、澪から誘ったのだ。晃久は責める気はないようだが、たとえ誰かに詰られても、澪が誘惑したということにしなければならない。事実そのとおりなのだから。
 喉元は冷たい水の感触で冷えた気がするが、体の熱には全く効果がなかった。依然として劣情は澪の体を蝕んでいる。
 空になったコップを取り上げた晃久は改まって告げた。

「落ち着いたのなら丁度いい。実はな、屋敷に長沢先生が来ている。澪に会いたいのだそうだ」
「長沢先生が?」

 大須賀伯爵家の主治医である長沢は、澪が屋敷に引っ越してきた幼い頃から、母と澪を診察してくれていた。母はどこか体が悪かったらしく、定期的に長沢から薬を処方されていた。
 母が亡くなってからも、長沢の世話になるのは申し訳ないと思っていたが、定期的に問診や健康観察を受けていた。
 今まで特に問題はなかったが、昨夜からの体の変化には何か原因があるのだろうか。もしかして病気なのだろうか。この体の疼きはどうにかしたいけれど、こんな体で人前に出るのは不安だ。
 俯いた澪を、晃久は静かに諭す。

「今日は体調が悪いと断ったんだが、だからこそ診るといってきかない。重要な話があるそうだ。俺も同席する。隣の応接室に長沢を来させる。他の誰も入室させない。隣の部屋まで出られるか?」
「……はい」

 晃久はとても澪を気遣ってくれている。長沢は医師なのだから、何も恥ずかしがる必要はないのだと己に言い聞かせた。
 澪は新しく用意された浴衣と半纏を着ると、晃久に付き添われて隣の応接室に足を運んだ。
 ソファに座ると、晃久が甲斐甲斐しく膝掛けをかけてくれる。これで昂ぶった体を隠せるのでありがたい。ソファは昨夜晃久に抱かれた場所で、そのことを思うとまた熱が上がるようだったが、意識しないよう努めた。ソファは情事の名残はなく、いつもどおり綺麗に整えられていた。
 ほどなくして入室してきた長沢はいつもの白衣姿で、革の診療鞄を提げていた。

「おはよう、澪」

 眼鏡の奥の怜悧な双眸に竦み上がりそうになるが、お医者様は秀才なのだから、晃久と同じようにきつい眼差しをしているのだろう。
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