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第二章 エウクラトア聖王国
57話 逢瀬
しおりを挟む皇子の後をついて行き、着いた場所はやはり庭園のようだ。
月明かりに照らされて幻想的な雰囲気を出している。そしてその庭園に佇む一人の女性。
本当、物語に出てきそうなシーンだ。
私達は反射的に死角になりそうな場所に隠れる。魔法をかけているから大丈夫なんだけどね。ついね。
皇子が女性の元へと近づいて行く。そして、声をかけた。
「ヴィナ……」
名を呼ばれた女性は振り返る。そして、嬉しそうにだけど切なそうな笑顔で皇子を見た。
「ヴァル……様」
やっぱりマルヴィナちゃんとの逢瀬だった!月明かりに照らされている二人は絵画のよう。絵になる二人。
二人ともしばし見つめ合い、皇子が更にマルヴィナちゃんに近づいて行く。だけど、それをマルヴィナちゃんが止めた。
「皇子殿下、それ以上は近づいてはなりません……」
そう言うマルヴィナちゃんはとても苦しそうな顔で言う。そして、皇子もその言葉にピシリと動きが止まり傷ついた表情をする。
なんかこっちまで切ない気持ちになってくる……。
「先程のように私のことを呼んでくれ……。 お願いだ……、ヴィナ」
マルヴィナちゃんは胸の前で両手をギュッと握り締め首を横に振る。
「いいえ……。 それはもう出来ません。 わたくしはもう皇子殿下の婚約者ではございません……。 皇子殿下には神の使徒様である婚約者がいます。 わたくしがそう呼ぶことによって使徒様のお心を煩わせる事など出来ません……」
そう言って下を向いてしまったマルヴィナちゃん。
だけど、皇子はめげなかった。
マルヴィナちゃんにそう言われて皇子は苦しそうな表情をしたけど、今度はグッと何かを決意した表情になった。
「……ヴィナ、ごめん」
そう言うと皇子はガバリとマルヴィナちゃんをぎゅーっと抱きしめた。
突然のことに驚くマルヴィナちゃん。それから、慌てて皇子に言う。
「皇子殿下っ! いけません、離してくださいっ……」
マルヴィナちゃんが離してと言う程に皇子はギュッと抱きしめる。まるで絶対に離すもんかというように。
最初はすごく抵抗していたマルヴィナちゃんも徐々に気持ちが溢れてくる。
「皇子……殿下っ」
「……」
「殿下っ」
「……」
「殿下……、ヴァル様……」
「ヴィナ……」
「ヴァル様っ!」
「ヴィナっ!」
二人は互いの愛称を呼び合ってきつく抱きしめ合う。
映画のワンシーンだね、これ。
思い合う二人が引き裂かれ、ひとときの逢瀬で互いを確かめ合う……的な。
ていうか、皇子めっちゃ表情あるじゃん!パーティー会場ではあんなに無表情だったのに!
やっぱり無理してたんだな……。それがマルヴィナちゃんの前でだけは表情豊かなんだね。
マルヴィナちゃんもパーティー会場で初めて会った時とは違い目に光がある。
誰の目から見ても二人が愛し合っているのが分かる。
そして皇子は何やら結界の様なものを張った。
あら?やっぱり皇子は魔法が得意な様。えっと、この結界は話を聞かれない為の結界かな?
私は冷静に張られた結界魔法について分析した。
聞かれたくない話かもしれないけど、ごめん!気になるので聞いちゃいます!
私達だけは聞こえる様に皇子の結界魔法を無効化する。この無効化は私達のみに効いているので他の人は聞こえない。
そして皇子はマルヴィナちゃんを抱きしめながら言う。
「ヴィナ……。 私は初めて抗うことに決めたよ」
その言葉にマルヴィナちゃんは少し離れ皇子の顔を見上げる。
今度は見つめ合いながら話す二人。
「抗うって……」
「私は教皇の言う通りにすれば守れると思ったんだ……。 しかし、それは間違いだった……」
マルヴィナちゃんはじっと皇子の話を真剣に聞いている。
「ヴィナを諦めたら教皇はヴィナを傷つける事はしない。 だけど、私が駄々を捏ねれば危害に遭うのはヴィナ。 だから、私は離れたのにっ……」
皇子は苦しそうに話す。
「それだけでは駄目だったらしい……。 あの女は自分が優越感に浸れる様に他者を傷つける。 そしてあの女はヴィナのことを狙っている。 ヴィナを傷つけることしか考えていない」
「っ!!」
皇子の話を聞いたマルヴィナちゃんが少し怯えた表情になった。
「そして、教皇達は神の使徒を本物にしたいが為、あの女のわがままを聞くことが多い。 無礼だと言って何人もの人が城を去った。 自分の気に入らない人には何をしても許されると思っている……」
何か心当たりがあるのだろうか?マルヴィナちゃんは顔を少し険しくさせた。
「ヴィナ、私は教皇や神の使徒を相手に反旗を翻そうと思う」
「っ!?」
「だから、ヴィナはアーデン公爵領に身を隠していて……。 本当は私が近くで守りたいけど、私の近くにいてはもし失敗した時ヴィナも罪に問われてしまうから」
突然の皇子の発言にマルヴィナちゃんは息を呑んだ。
それは私達もだった。
皇子が反旗を翻す決意をするまでに偽者さんはやりたい放題だったのか……。
「ヴァル様っ! それは危険です! ヴァル様が危険な目に合うことなどわたくしはっ……」
マルヴィナちゃんは皇子を止めようと必死になっている。だけど、皇子はゆっくり首を横に振った。
「ヴィナ、もう決めた事なんだ。 これから私の仲間になってくれそうな人物達に内緒で合う約束している。 もう一歩目は踏み出している……」
「そんな……」
マルヴィナちゃんはとても苦しそうで悲しそうな表情になる。
「大丈夫、必ず勝ってヴィナを迎えに行くからヴィナは安全なアーデン公爵領にいて? ね?」
皇子は優しい声でマルヴィナちゃんに言った。
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