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第二章 エウクラトア聖王国
56話 愛し合う未来は……
しおりを挟む――皇子視点。
「ヴァル様と一緒ならどんなことでもわたくしは幸せです!」
そう言ってくれた彼女は陽の光を浴びてとても輝いていた。陽の光だけではなく彼女の笑顔も私にとってはとても眩しいものでずっとこの輝きがあるのだと思っていた……。
私はパーシヴァル・エウクラトア。このエウクラトア聖王国の皇子として生を受けた。
私は生まれた時から次期教皇だった。素質があってということでは無く、ただ単に私しか皇子がいないからだ。私の母上は私を産んだ際に難産だったらしくそれから子を望むのは命と引き換えになると医者に言われたらしい。
そんなこともあり、子は私だけとなった。この国は一夫一妻。それは教皇であっても例外はない。だから父上も母上以外の妃を迎えることは出来なかった。
まあ、それでも父上は母上以外との女性と会っていることは幼かった私でも分かったことだ。
その事は母上もきっと分かっていたに違いない。だから母上は私を良き教皇へと育てることに力を入れた。
『教皇は誰からも慕われなければなりません』『教皇は立派な人でなければなりません』『教皇は神に愛されなければなりません』『教皇は誰にでも笑みを見せてはなりません』『教皇は感情を露わにしてはなりません』
来る日も来る日も教皇はこうあるべきだと母上の思う教皇像を擦り込まれる毎日だった。
父上は私の事など眼中にもないのか自分のことばかり。私のことは自分を良く見せるだけのただの道具とかしか思っていないようだった。子を思う父親の振りをしていただけ……。
そんな息の詰まる毎日に光が差したのはある日のことだった。
その日は父上も母上も揃っていた。二人が揃うのはとても珍しいと子供ながらに思った。
「パーシヴァル、お前に婚約者が出来たぞ! アーデン公爵の娘、マルヴィナ嬢だ」
「アーデン公爵の娘ならとても優秀だと聞いていますわ。 良かったわね、パーシヴァル」
父上と母上は笑顔で言った。それから、今日挨拶に来ることも突然言われた。
「それで突然だが、今日アーデン公爵夫妻とマルヴィナ嬢が城に来ることになった。 お前は二人の顔合わせに付き合え」
「言われなくてもそう致しますわ」
母上はツンとした態度で教皇に言い返した。父上も母上の言い方にイラッとしたようだがはぁとため息をついて出て行った。
それから、マルヴィナ嬢との顔合わせのために着替えた。
マルヴィナ嬢は私と会う時、マルヴィナ嬢の母上と共に訪れた。アーデン公爵は父上のところにいるのだろうと思う。
マルヴィナ嬢とそのお母上はとても似ていた。親子で同じ髪色に瞳の色。二人ともピンクの髪に紫色の瞳をしていた。
二人が出す柔らかい雰囲気に私は思わず見惚れた。そして、どこか緊張しながらも私に一生懸命に挨拶をしてくれた。
「お初にお目にかかります! アーデン公爵の娘、マルヴィナと申します。 パーシヴァル皇子殿下にお会いできて大変嬉しゅうございます!」
最後にニコッと笑ったマルヴィナ嬢の笑みは一番輝いていた。それこそ、私の人生の中で一番の輝きだった。
「マルヴィナ嬢、初めまして。 これから婚約者としてよろしく……」
対して私が返した言葉はそうだった。ぶっきらぼうにしか言えない自分が悔しかったのを覚えている。
だけど、そんな私の態度にもマルヴィナ嬢は気にすることなくニッコリ笑ってくれていた。
「はい! どうぞよろしくお願いいまします!」
その時に私が思ったことは、『ああ、この子とならきっと未来は楽しいに違いない……』そう感じた。
それから、数年かけて私とマルヴィナは互いに思い合い、仲を深めていった。
初めて出会った時、私はマルヴィナに一目惚れしたことなど気づきもしなかった。感情に鈍感な私はマルヴィナへの恋心に気づくのがゆっくりだったが、運良くマルヴィナからも思いを返してもらうことが出来た。
マルヴィナと一緒にいる時が一番の私の幸せだった。とても穏やかで、だけどどこかくすぐったくて、それでもずっと一緒にいたくて、そんなことを思える自分が悪くなかった。
互いにヴァルとヴィナと呼ぶようになりさらに幸せは大きくなった。
この幸せがずっと続くと疑うことなく過ごしていた。
だか、突然それは終わりを告げた……。
神の使徒様がこの世界にご降臨したという神託が全世界に降りた。その事は大変喜ばしい出来事だった。
だけど、その喜ばしい出来事を自分のものにしようとした父上、教皇は神の使徒を自分で選ぶという愚かなことを選択した。
しかし、私は教皇に逆らう事など出来なかった。本来なら間違いを正さねばならないのにじっと黙って時が過ぎるのを待つしかなかった。
その時に私が抗わなかったから突如私の幸せは終わりを告げたのだと今になって気づく。
神の使徒様を名乗る女が私の婚約者になり、ヴィナは赤の他人になってしまった。
あの時のヴィナの顔が忘れられない。
だけど、他人になることでヴィナの安全が守れるならそれでもいいと思っていた。だから、この婚約を受け入れたのに……。
こともあろうかあの女は私の一番大切な人を傷つけることしか考えてない悪魔だった。
どうしてこの女が神の使徒様だといえよう……。
だから私は決心した。
遅くなってしまったけど私は抗うことにした。
例え、この身がどうなろうと私が一番愛しているヴィナを守ることが出来るなら、がむしゃらに抗ってみようと思った。
その為にもう一度だけでいいからヴィナの笑顔が見たい……。
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