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第二章 エウクラトア聖王国
52話 偵察②
しおりを挟む近づくにつれて徐々に聞こえてくる会話。
もちろん、教皇達は私達が近づいている事など気づきもしない。
「いや~、皇子殿下と使徒様、お似合いですな!」
「やはり、神に愛された一族でありますね」
「教皇聖下のお陰でこの国の未来は明るい!」
「皇子殿下も使徒様を妃に迎えられてさぞかし嬉しいでしょう!」
最初に聞こえてきたのは枢機卿達のおべっかだった。
教皇は満足そうにしているけど、こっちは初めから胸くそ悪い……。
だってあの皇子の表情見てみ!あの表情で嬉しいとか喜んでいるとかないでしょ!お前らの目は節穴か!と言ってやりたいところ。
精霊達とレイナードも険しい表情をしている。
「それにしても、リュミエール公爵とクロスウェル公爵には困ったものですな」
「神の使徒様を疑うことなど不敬にも程がありますぞ!」
「教皇聖下、これは何らかの処罰を与えねばなりませぬ!」
「いくら精霊の血を引くとはいえ、神の使徒様に刃向かう事などあってはなりませんからね」
まじコイツらムカつくわ~。そもそも精霊の血を引く人間ではなく、精霊そのものだからね!言えないけど……。
すると、教皇が思い出したかのようにニタニタしながら言う。
「あのリュミエール公爵の娘美しかったな」
えっ?私……??
突然話題に出て静かに驚く私。
「確かに美しかったですな!」
「突如リュミエール公爵が養女を迎えたと言っていましたから愛人の子を迎えたと思っていましたが実際には生き別れた弟の子だとか……」
「まさか、あんなに美しい女性だなんて想像もつきませんでした」
「ただ……、エスコートしていた者が……」
その言葉に教皇達は苦い顔をした。
そして、声を潜めて話し始める。
「いなくなった精霊使いが目の前に現れた時は冷や汗が出ました」
「幸い、実際に接していたのはカーソン大司教だったゆえに助かりましたな」
「して、奴がエスコートしていたということは、やはり、クロスウェル公爵の手先が精霊使いを逃したのか?」
「逃した痕跡が見つからないので何とも……」
「うーむ、クロスウェル公爵とリュミエール公爵な……」
私達はじっと会話聞いている。まだ、精霊達は大人しくしていてくれている。
それと、思うんだけど……、この人達危機感無さすぎじゃない?だってこんなに人がいっぱいいる中でこんな話するかね!?
一応コソコソと話しているようだけれども!
でも、この会話で教皇達が故意に精霊使いを攫って捕らえていたという事実が明らかにされたね。この耳で聞きましたとも!!
すると、今まで黙っていたバルフォア公爵が教皇に言う。
「教皇聖下、神の使徒様をお連れした時褒美をくれると仰いましたね?」
バルフォア公爵からの突然の問いに教皇は何で今のタイミング?といったような顔で頷く。
「そうだな、確かに言ったな。 バルフォア公爵には大変世話になっているしな! どれ、どんな褒美がいいのだ? なんでもいいぞ!」
バルフォア公爵はその言葉に笑みを浮かべ嬉しそうにする。
そして、衝撃的なこと言う。
「では、褒美としてリュミエール公爵令嬢を私の妻にください」
「「「「「!?!?」」」」」
((((((……))))))
バルフォア公爵の発言に教皇達は驚き、私達は固まった。
「バ、バルフォア公爵? それは……」
「先程、教皇聖下はなんでもいいと仰いましたよね?」
バルフォア公爵は、にこやかなのにどこか圧のある言い方をした。
「うむ……」
教皇はバルフォア公爵に反論できない。先程何でもいいと言ったばかりに。
「どうして、渋るのですか?」
「それは……」
言い淀む教皇。すると枢機卿達もそれには反対で反論し始める。
「バルフォア公爵、いくら何でも突然過ぎます」
「それに、何故リュミエール公爵令嬢なのですか? 他にも令嬢はいますでしょうに」
「リュミエール公爵が許すとは思えませんけど……」
「リュミエール公爵家の者をこちら側に迎えるなど」
それぞれが言いたい放題。
「敵対する派閥だからこそ、友好の証としてリュミエール公爵令嬢を妻にと言えばリュミエール公爵も反論は出来ないでしょう。 それに私の妻に迎えればリュミエール公爵に対しての人質になりますゆえ……」
バルフォア公爵の言葉に枢機卿は黙った。そして、しばし考えた。
「確かに人質を得られるな……」
「そうするとクロスウェル公爵家はもっと孤立しますぞ!」
「アーデン公爵も気になるところだが、あやつは教皇様の言いなりだから大丈夫か」
「教皇聖下、これはいい案かもしれませんぞ!」
枢機卿達がバルフォア公爵の言ったことに賛同し始めた。しかし、教皇だけはまだ渋っていた。
「だがな~……。 リュミエール公爵令嬢は……」
「教皇聖下?」
皆の視線を一身に受け教皇は言う。
「何もバルフォア公爵の妻でなくもいいのではないか? 例えば、朕の妻とか……」
……はぁ????
バルフォア公爵を含め皆ポカンとしている。
「いやな、バルフォア公爵の妻より神に愛されている朕の妻になった方がリュミエール公爵令嬢も喜ぶと思うのだ! そして、幸せになれるであろう? だからバルフォア公爵、リュミエール公爵令嬢を妻にすることはできん! 朕の妻になるのだからなっ!」
教皇は自分の言ったことに満足そうにしている。
なんともいえない雰囲気が場を包み込んだ……。
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