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第二章 エウクラトア聖王国
48話 神に愛されし者……
しおりを挟む――教皇視点。
時は遡り、アマネがレイナードを助けた日……。
「何!? 精霊使いが一人もいないだと!?」
その日教皇であるフランソワ・エウクラトアは自身の部屋にて報告を聞いていた。
まだ、陽も落ちていない時間であるがフランソワの隣には綺麗なお姉様達が侍っている。
フランソワはお姉様達とこれから楽しむつもりだった。そんな時に急ぎご報告したいことがと言われ、お楽しみ時間を邪魔されたとすこぶる機嫌が悪い。
そんな中での報告。フランソワは怒りを滲ませている。
イライラしつつもお姉様達を一度部屋から出し、報告に来た枢機卿の一人、フレディ・コネリーの話を聞いた。
そして、冒頭の言葉を発することになった。
「はい……。 一人もいなくなっておりました……。 そして見つかったのは、地下で倒れていたカーソン大司教だけでした」
フランソワはフレディの報告にさらに怒りを滲ませる。
そんなフランソワの怒りに冷や汗が出てくるフレディ。
「して、精霊使いを連れ去った者は誰だ?」
枢機卿らの報告だと絶対に逃げることはできないと言われていたフランソワ。そして、もうだいぶ弱っているとも報告を受けている。
絶対に故意に逃した奴がいるばすだと思っている。そして、逃げたのなら教会の出入り口を通っているはず、だから容易に逃した犯人を断定できる。そう、疑っていないフランソワ。
しかし、答えは違った。
「それが……、今もなお分からないのです……」
「分からないだと……!?」
思わず声が大きくなる。教会は最早我々の手先がほとんどなはず。それが何故分からないだということになるのだろうかという思いがふつふつと湧いてくる。
「一切痕跡が無いのです!! 不審な人物が出入りした事実もありません! そして、事情を知っているだろうカーソン大司祭もまだ目を覚ましていない状態です。 何も手がかりが無く忽然と精霊使い達だけが姿を消したのです……!」
そんな馬鹿なことがあるか!そんな思いだったフランソワはあることを思い出す。
「それなら、キーランが手引きしたのではないのか?」
フランソワは教会での敵対派閥、キーラン大司教が何処からか精霊使い達のことを知って逃したに違いないと今度はそう思う。
しかし、また期待していた答えは返ってこなかった。
「私共もそう疑い調べましたが、キーラン大司教にはアリバイがあり、その部下達も怪しい動きはありませんでした」
「アリバイだと?」
「キーラン大司教の元にリュミエール公爵閣下、公爵夫人、公爵令嬢が訪れていました。 特に怪しいことは無くただキーラン大司教の元に新しく迎えた娘を紹介しに来たということです」
「なら、一体誰が精霊使い達を逃したのだというのか!!??」
イライラが頂点に達したフランソワは怒鳴り声を上げた。フレディは教皇の怒りが収まるのをじっと耐えるしか無かった。
そして、フランソワは焦っていた。
精霊使いが逃げた……。なら何処から力を集める?神の使徒だということを証明する為に莫大な力が必要だ。あのバルフォア公爵が連れて来た女は確かに光魔法が得意だけどそれは人間の枠組みではということだ。もっと奇跡的な力が無ければ神の使徒に相応しくない。
まずは力の水晶に別の力でもいい。何か代わりになる力で集めなくては……。
「力を集めなくてはならぬ。 誰でもいい、力の水晶に力を吸わせろ……。 分かったな?」
有無を言わせぬ口調。その指示にフレディは頭を下げて言う。
「承知いたしました……」
――しかし、翌日教皇の元に来た報告はこれまた最悪な報告だった……。
「教皇様!!」
慌ててフランソワの元に来たのは枢機卿の二人。昨日のフレディに加えてカーター・モルガンという男。
「ええい! なんだ、騒々しい!!」
「教皇様! 大変でございます!」
「水晶が、水晶が反応しません!!」
「なんだと!?」
聞くところによるとあれから枢機卿達は目覚めたカーソン大司教に何があったのか聞いた。しかし、何も覚えておらず、ただただ悪夢を見たと繰り返し言う。
そして、これは精霊の復讐だ!とか神の怒りだ!と言って力を集めることに反対だと言い始めた。
だから、手始めにカーソン大司教の力を水晶へと吸わせようとしたところ水晶がうんともすんとも言わなく、全く反応を見せないと言う。
それから、いくらかの人々の力を水晶へと吸わせようとしたけどダメだったことを報告された。
いくら報告されたとて良い案など思いつく訳でもなくただイライラが募るだけ……。
「お前たちでなんとかせぬか!!!!」
「しかしっ! 水晶があの状態では他の神器も……」
「朕がなんとかせぬかと言っているのが分からんのか!?」
「も、申し訳ございません……!」
フランソワの怒りは収まらず物へとあたる。
暴れる教皇を止める訳でもなくただひたすら落ち着くのを待つ枢機卿二人。
そんな中、一人の男がやって来た。
「教皇様、そんなに慌てることはありませんよ」
そう言って優雅に入って来た男に三人の視線が向く。
「バルフォア公爵」
「教皇様、何も水晶が力を吸わなくなっただけで今まで吸い続けた力は水晶の中に溜まっております故ご心配することではありません」
バルフォア公爵にそう言われるとなんとなく安心できるような気がするフランソワ。
「しかしっ、今後も奇跡の様な力を使うには……」
「何も大きな奇跡は一度きりで良いのです。 大勢の民の前で一度すれば後は使徒様には教会でゆるりと過ごされれば良いのです」
ニッコリと笑うバルフォア公爵の余裕のある態度にフランソワや枢機卿達はそれもそうかと安心した。
「其方がいうのなら大丈夫だろう……」
「ええ、お披露目パーティーは目前です。 これで教皇様が神に愛されたお方だと皆に自慢できますね」
バルフォア公爵にそう言われて機嫌良くなるフランソワ。
「そうだ、朕が神に愛されし者だということがこれで証明できる……。 朕は神に愛された者だ……」
そう言ってこれからの自分の未来を想像してフランソワはニヤリと笑った……。
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