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第二章 エウクラトア聖王国

40話 クロスウェル公爵

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 レイナード達を助けてから一週間後。

 今私は、捕らわれていた子供達が精霊達と元気に中庭で遊んでいるのをバルコニーから見ていた。

 みんな助けられてからずっとリュミエール邸にいる。早く家族の元へと帰したいのは山々なんだけど、また教皇側に攫われたら大変、ということでお披露目パーティーが終わるまではリュミエール邸にいてもらっている。

 みんないい子達ばかりで納得してリュミエール邸にいてくれている。時々家族のことが恋しくなるようだけど、家族にも危険が及ぶと嫌だからと言って直接会うのを我慢していてくれる……。

 まあ、この生活を楽しんでいる逞しい子もいるけど。

 捕らわれていた子達は一般家庭に育った子もいれば孤児の子もいるし、貴族の子もいた。

 本当教皇派は見境なく精霊使いなら捕らえていたんだな……。

 本当好き勝手にし過ぎだわ。

 これからあるお披露目パーティーが憂鬱に思えてくる……。教皇に会ったこともないけど、絶対何かやらかすに決まっている!

 ああ、ちょっと聖域に戻りたいわ……とか思っていると、話しかけられた。

「アマネ様」

「うわっ!」

 突然話しかけられて驚く私。つい考え事をしていたから近づく気配に気づかなかった。

 私に話しかけてきたのはナディア。私が驚いたことに申し訳なさそうにしている。

「申し訳ございません……。 驚かせてしまいました……」

「ううん、気にしないでナディア! 私がボーッとしていたのが悪いから!」

 本当気にしないで欲しい。

「それで何かあったの?」

「はい、お客様がいらっしゃいました」

「お客様……?」

 誰が来たのだろう?それに私にお客様なんて来ないと思うの。マーエル達に来たんじゃないの?

「マーエル様にと言った方が正しいですけど、マーエル様がアマネ様もいらっしゃるようにと仰せなので……」

 はーん、私に紹介したい人が来たと言うことね!

「分かった。 支度をお願いできる?」

「もちろんでございます!」

 そう言って私はナディアに綺麗に支度してもらった。


 支度が終わるとマーエルとお客様がいる部屋へと案内される。ナディアが扉をノックしてから言う。

「旦那様、アマネ様をお連れ致しました……」

「入れ」

 マーエルの返事が聞こえるとナディアは扉を開けてくれた。

 私は部屋の中へと入ると、中にいたのはマーエルとナレス、そしてレイナードに初めましてのおじ様とおば様がいた。それから何故かそのおじ様の膝の上に座っているアドリアノちゃんがいる。

 アドリアノちゃんは捕らわれていた子供達の一番幼い子。

 初めましてのおじ様とおば様は格好からするに貴族で間違いない。まあ、リュミエール邸にお客様としてくるのだから大体は貴族だけれども……。

 だけど、私を見て驚いているのは何故だ?高貴なおじ様とおば様が固まっている。とりあえず……。

「遅れて申し訳ございません……」

「いや、突然呼んだからな……。 だけど、アマネ……にも紹介したかったからな」

 私のことを呼び捨てに慣れていないマーエル。詰まっちゃってるよ!

 密かに笑っているナレス。本当笑っちゃうよね……。

「アマネ、こちらの方々がクロスウェル公爵と公爵夫人だ」

 今もなお、動かない二人。だから、私は貴族令嬢もどきになる。

「初めまして、クロスウェル公爵様、公爵夫人。 この度リュミエール公爵の養女となりましたアマネと申します……。 どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言って挨拶をした。すると、二人は現実に戻ってきたようだった。

「こ、これはこれはとても美しいお嬢さんで! 思わず見惚れてしまいました。 なぁ、トレッサ?」

「ええ、そうですわね! これ程までに美しい女性をわたくし見たことがありませんわ! それこそ神の使徒様と言われても可笑しくございませんね!」

 的を得ている……。

「私はブランデン・クロスウェル。 そして、私の妻」

「トレッサ・クロスウェルでございます」

 二人はニッコリ笑った。そして、そのまま続ける。

「いや、私の息子と孫が貴方に助けられたと聞いてね、直接お礼が言いたくて呼んでもらったんだよ」

 息子と孫……??息子と孫とは……??一体どこに……と思った瞬間にレイナードと目が合う。そして、ニッコリ笑顔を見せてくる。それから、私はクロスウェル公爵のお膝に座っているアドリアノちゃんを見た。大変ご機嫌な様子……。

 今度は私が驚きのあまり固まった。

「えっ……? ということは……?」

「今までお伝え出来なくて申し訳ございません。 私はレイナード・クロスウェル。 まあ、私自身もアドリアノが僕の姪っ子だと知ったのは先程ですがね」

 なんということでしょう!まさかの事実!!レイナードは噂のクロスウェル公爵の息子だった!そして、アドリアノちゃんは公爵令嬢!

 レイナード自身もここ数年は旅に出ていてアドリアノちゃんとは会ったことがなかったのだという。まさか捕らわれていた子が姪っ子だとは思わなかったそう。

 マーエルはレイナードがクロスウェル公爵の息子だと知っていたし、ナレスはアドリアノちゃんを見たことがあるから今日クロスウェル公爵と夫人を呼んだという訳。

 出たよ。また、前情報を教えてくれなかったやつ……。

 もう!クスクス笑ってないでちゃんと説明してよね!マーエル!!ナレス!!


 
 
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