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第二章 エウクラトア聖王国
16話 その頃の聖都
しおりを挟む――マルヴィナ視点
「よいな! お前達の婚約を白紙に戻す! これは決定事項だ。 そして、パーシヴァルお前の新しい婚約者は神の使徒様であるリンジー・メイベリーだ。 分かったな!」
そう教皇様はわたくしと皇子、パーシヴァル殿下に強く言い放ちました。
わたくしは今の言葉に頭が真っ白になり、きっと顔色が悪いことでしょう……。
隣に並んでいる、パーシヴァル殿下も顔色が優れないように思えます。
そんなわたくし達の変化など気にしない教皇様や枢機卿の方々はリンジー・メイベリー様を囲んで褒め称えています。
「使徒様である、リンジー様はとてもお綺麗で皇子殿下にピッタリでございます!」
「さすが教皇様が選んだ使徒様です!!」
「しかも神の使徒様に相応しい、光の魔力がとてもお強い!!」
「リンジー様と結婚される皇子殿下が羨ましい限りでございます!!」
そう枢機卿の方々から言われ、満更でもない表情のリンジー様。
「そんな~。 わたしが神の使徒だなんてぇ……。 でも、夢の中で神様からのお告げを聞いたのはわたしが選ばれた神の使徒だからなんですねぇ~。 なら皇子様とわたしが結ばれることは当たり前なんですね!」
果たしてこの国の貴族令嬢なのかわたくしは疑うような態度と表情で話すリンジー様。
「使徒様であるリンジーと我が息子が結ばれることでウーラノス神もお喜びになる。 これは祝福されし婚約だ!」
教皇もリンジー様に賛同するように言う。
「皇子様もきっとお喜びですよね?」
そして、リンジー様はパーシヴァル殿下に言う。その言葉にパーシヴァル殿下に視線が集まった。
わたくしは祈るような気持ちでパーシヴァル殿下を見ていました……。
どうか、どうか!この婚約は嫌だと言ってください……!と思いながら。
わたくしの方を見たパーシヴァル殿下と目が合う。そして、教皇様の方へと向き直し言いました。
「婚約の件、承知しました……」
わたくしの祈りは届きませんでした……。
パーシヴァル殿下の答えを聞き、教皇様や枢機卿達は満足そうに、そしてリンジー様はわたくしに勝ち誇った顔を見せました。
わたくしはさほど反論することも出来ずにその場を後にしました。
――あの後、どうやってアーデン邸へと帰ってきたのか記憶が曖昧です。
そして、夜になりお父様が仕事から帰って来て早々にわたくしを呼びました。
「お父様、マルヴィナでございます……」
「入りなさい……」
わたくしはお父様の執務室へと入りました。すると、険しい表情をしたお父様がいました。
わたくしはお父様の方へと近づくと、お父様は執務室にあるソファーへと座るように言います。わたくしがソファーへと座るとお父様も反対側のソファーへと座りました。
「教皇様からパーシヴァル皇子殿下との婚約が白紙に戻されたことを聞いた……。 そのことについて皇子もお前も納得したと教皇様は言っていた。 ……お前は何故、すんなりと納得したのか?」
お父様の視線がわたくしを責めているように思えるのはどうしてでしょうか……?
確かに婚約を白紙にすることに反論らしいことは言って来ませんでした。ですが、今思うとあの場で反論などしたらわたくしだけでは無く、アーデン公爵家まで批判されることになるでしょう……。
ならわたくしはどうすれば良かったのでしょうか?
黙り込むわたくしにお父様は一つ溜息をつきました。
「はぁ……。 これからのことを考えなければ……。 何も話す気にならないのならお前はもう戻りなさい。 後のことは悪いようにはしない」
険しい表情のままのお父様。
「……はい、お父様」
わたくしはお父様の執務室を後にしました。
その後、夕食の時間になってもわたくしは食欲が無く、一人自分の部屋でこれからのことを考えました。
きっとこれからお父様が新たな婚約者を見つけてくると思います。ですが、わたくしの心は今までもこれからもずっと……パーシヴァル殿下に囚われたままだとそう思います。
7歳の頃にパーシヴァル殿下に初めてお会いしたその時からずっとパーシヴァル殿下に恋しています。
わたくしは運良くパーシヴァル殿下にも思いを返していただきました。
パーシヴァル殿下がはじめて思いを伝えてくれたあの日。手を繋ぎお散歩したあの日。一緒にダンスの練習をしたあの日。はじめて抱きしめてくれたあの日。そしてドキドキしながらキスをしてくれたあの日。
思い出せば思い出すほど幸せだった日々。
わたくしは気がつけば涙が溢れていました。
これからパーシヴァル殿下と一生を共に生きていけると疑問に思うことなく生きてきた罰でしょうか?
とても苦しくて、苦しくて、そして悲しくて涙が止まることはありません……。
パーシヴァル殿下がリンジー様との婚約を承知した時、わたくしの心はズタズタにされました。
……だけど、パーシヴァル殿下のことを責めることなんてわたくしには出来ませんでした。
わたくしが思いたいだけかもしれませんが、あの時のパーシヴァル殿下の表情と瞳が頭から離れないのです。
パーシヴァル殿下は確かに言葉では承知していました。ですが、表情は抜け落ち、瞳はまるで光を無くしたように虚ろでした。
そのパーシヴァル殿下の様子がわたくしとっての救いです。パーシヴァル殿下もまだわたくしと同じ気持ちだと信じたいから……。
そして、わたくしは思うのです。
わたくしはリンジー様が神の使徒様だとはとても思えません……。ですから本当に神の使徒様がいらっしゃるなら、どうか、どうか、助けてくださいと。
こんな私情こもったの願い、叶えてくれるとは思っていません。
ですが、その日だけは願わずにはいられなかったのです……。
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