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初出勤

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-3月31日-

東京

下町

雨の降りしきる夜

通り沿いの10階建てマンション

オートロック付き、レンガ色の重厚感のある外壁

-スターリースカイ-
看板

男が屋上から非常階段で下りて来る

「ブファー」

5階部分で足を滑らせてそのまま転落した

マンションの非常階段の1階辺りから走り去る人影


翌朝

-4月1日-

スターリースカイ付近の大通り

タクシーが止まる

小白川蘭子(42歳)と仲村流星(36歳)が降りて来て仲村がトランクを開ける

キャリーケースを取り出す蘭子

蘭子、腕時計を見る

時計の針は7時55分を差している

スマホ片手にキョロキョロと辺りを見回す仲村

「この辺ッスね。それにしても昨夜の雨、酷かったッスね」

「止んで良かったわ。コホン、コホン」

蘭子、咳をする

「ダイジョブスッか?俺に風邪移さないでくださいよ」

「大丈夫よ。あっ、有った有ったわ。スターリースカイ。さすが流星君っ」

「うわー、立派なマンションッスね」

「一応分譲マンションよ。私は賃貸で住むけど」

「ったく、今日から警視庁に転勤になるって日に引っ越してきますかね。俺が先に東京来てなかったらどうしたんスか。もう出勤時間ギリギリッスよ」

「だから流星君に付き添い頼んだのよ」

「付き添いって、おいくつなんスか?」

「私方向オンチなのよ」

「今時はナビが有るからそうそう道に迷うなんて事無いッスよ」

「頼りにしてます流星君」

「チッ、調子良いいんだから」

「何か言った?」

「何でもないッス」

「コホン、コホン」

蘭子、咳をしながらオートロックを開けてマンションに入ろうとすると、矢口美穂(31歳)が娘のひなた(4歳)と共に一緒に入って来る

娘がクマのぬいぐるみを抱いている

足の裏にHの刺繍がしてある

4人一緒にエレベーターに乗り込む

「何階ですか?」

蘭子が聞く

「10階、お願いします」

「はい」

蘭子が10階と4階のボタンを押す

「新婚旅行の帰りですか?」

美穂がキャリーケースを見て言う

「し、し、新婚??」

仲村がドキマギしていると

「いいえ。今日からこのマンションに越してきました小白川です。長野県から来ました。宜しくお願いします」

と落ち着き払って蘭子が挨拶する

連られて仲村もお辞儀する

「そうだったんですね。私も半年前に越して来たばかりなんです。矢口と申します。宜しくお願いします」

蘭子と娘の目が合い蘭子がニコッと笑う

「お嬢ちゃんお名前は?おいくつ?」

蘭子が話かけると娘は恥ずかしそうに美穂の後ろに隠れた

「すみません。人見知りなもので。ひなたと言います。4歳です」

美穂が言ってひなたの頭に手をやって蘭子と仲村にお辞儀をさせる

4階でエレベーターが止まる

蘭子、

「ひなたちゃん、クマちゃん可愛いわね。バイバイ。失礼します」

と言って仲村と共に降りる


ー403号室ー

ドアを開けて中に入る蘭子と仲村

2LDKの室内

段ボール箱が山積みになっている

「足の踏み場もないッスね」

「ふぅー、もっと早く来れば良かったわ」

「だから言ったじゃないッスか」

仲村、ブツクサと文句を言いながら段ボール箱を片付け始めようとする

「ちょっとちょっと触らないでよ。何処に何があるかわからなくなっちゃうじゃない」

「じゃ、俺は何の為に呼ばれたんスか!」

「まー、いいじゃない」

「チッ」

仲村、不貞腐れる

「それより、着替えるから外出てて」

蘭子、腕時計を見る
8時5分を差している

「あー、もう絶対タクシーじゃなきゃ間に合わない」

蘭子キャリーケースを開けて中からスーツを取り出す

「早く、外行きなさいよ!」

「そ、外ぉ!マジで言ってます?はいはい分かりましたよ」

仲村、マンションの4階の廊下に出る

「ったく。何て日だ!」

仲村、ブツブツと独り言を言う


マンション廊下

仲村の居る廊下の向こうから

「キャー」

という悲鳴

湯浅加奈子(35歳)が駆けて来た

仲村、慌てて加奈子を抱き止める

「どうしました!」

「ご、ご、ご主人様が!」

非常階段を指差しわめく加奈子

仲村が見に行くと

4階の非常階段の踊り場に星野浩一(58歳)が後頭部から血を流し絶命している

側に画面が損傷したスマホが落ちている

廊下

「落ち着いて下さい。自分は警視庁の者です。ここから動かないで」

「分かりました」

仲村、急いで蘭子を呼んで来る

蘭子来る

「直ぐに警視庁に連絡するわ」

「了解ッス」

「かなちゃーん、かなちゃーん」

401号室から星野佑樹(4歳)が泣きながら加奈子の側にやって来る

「佑樹君!」

加奈子が駆け寄って抱き締める

「パパは?パパはどこなの?」

加奈子、黙って佑樹を強く抱き締める

警視庁捜査一課の西村葵(35歳)達と鑑識管達が来る

「うわー、スゲー美人!」

仲村、思わずうっとりする

「なぁに、鼻の下伸ばしてんのよ!」

蘭子、仲村の頭をバシッと叩く

鑑識官達が非常階段のゲソこんを取ったり現場検証をしている

「ところであなた達は誰?」

葵刑事が蘭子と仲村を怪訝そうに見る

「はい。今日から警視庁に配属になった小白川蘭子と」

「仲村流星です」

「この子は?」

「どうやら、被害者の息子さんの様です」

「貴女達はたまたま現場に居合わせたって訳?」

葵刑事がしかめっ面をしながら言う

「はい。今朝、私がここに越して来ました。被害者は401号室の星野浩一さん。こちらが第一発見者の湯浅加奈子さんです」

「湯浅加奈子です。星野さんのお宅の家政婦をしています」

「家政婦?」

葵刑事が言う

「は......い......」

加奈子、震えながら言う

「本部でお話お聞かせ願えます?」

「は......い......」

葵刑事、佑樹の頭を撫でながら

「この子は本部で保護するわ」


警視庁

鑑識課

鑑識官の桜井(45歳)が現場の写真を見ている

蘭子と仲村が入って来る

「改めまして、今日から警視庁に配属された小白川蘭子と」

「仲村流星です」

「お二人の評判はかねがねお聞きしております。とても息の合ったコンビだとか」

「それは光栄です」

蘭子と仲村、桜井にお辞儀する

「それより何か分かりましたか?」

蘭子、桜井に聞く

「それが......昨夜は大して寒くも無かったのに非常階段の5階部分の一部が凍っていたので調べた所、微量の酢酸ナトリウムが検出されました」

「酢酸ナトリウム?」

「はい。お湯に溶かしたら瞬間に凍る物質です。酢酸ナトリウムは食品添加物の一つで塩の様なサラサラとした白い粉状の物です。細菌等が増えるのを防いでくれる役割が有るのでお弁当やパンに使われる事も有ります。ネットでも買えますが薬局やドラッグストア、一部の家電量販店で取り扱われています」

「お弁当?......」

蘭子が言う

「尤も大半は昨夜の雨で流されていました。転落したのは5階からですが屋上にかすかに星野のゲソコンが残っていました。後、女性の物らしいゲソコンが有りました」

「屋上に上がった後?それに女性のゲソコン?」

「はい。酢酸ナトリウムもゲソコンも流される状況を想定しての犯行かと。その為、雨の日に実行する必要があった。綿密に計算されてます」

「犯人らしき人物のゲソコンは昨夜の雨で流されていた。それなのに女性らしき人物のゲソコンがあった。どういう事かしら......いずれにしても事故に見せ掛けた殺人て訳ですね。死亡推定時間は?」

「昨夜の20時から22時の間ですね」

「スマホが落ちていたけど通話履歴は?」

「はい。そちらはこれから調べます」

「マンションの監視カメラには?」

「あいにく、監視カメラはエレベーター内だけしか付いていませでした。でも、オートロックなのでこのマンションの関係者の犯行かもしれませんね......」

「そうね......ありがとうございました」


警視庁

捜査一課

葵刑事が蘭子に向かって

「偶然居合わせたって事もあるし事情聴取は貴女達のお手並み拝見と行きましょうか!」

と挑発的に言う

「お任せ下さい」

蘭子、胸元をパチンと弾く


取調室

蘭子と家政婦の加奈子が向かい合って座っている

側には仲村が立っている

蘭子が事情聴取を始める

「加奈子さんはどういういきさつで星野さんのお宅の家政婦さんに?」

「求人雑誌です。半年位前からです」

「そうですか。星野さんのお宅の鍵はお持ちで?」

「はい。オートロックなのでいちいち面倒臭いからと合鍵を渡されていました」

「そうですか。いつも何時からお手伝いに?」

「朝の8時から午後3時までです。今日もいつものように出勤したらご主人様が見当たらず、部屋で息子の佑樹君が一人で泣いていました。ご主人様は毎朝8時には佑樹君を保育園に送って行くのでおかしいと思って探しに出た所、非常階段で変わり果てたご主人様を発見しました」

「最近星野さんに変わった様子は有りませんでしたか?」

「特に変わった事は......」

「星野さんは何故、屋上に行ったのかしら?それにどうしてエレベーターを使わず階段を利用していたのでしょう?」

「ご主人様は屋上で星を観るのが好きでした。最もついでにタバコを吸う為も有った様です。何でもベランダで吸っていて苦情が来たとかで。最近は運動不足だと言う事もあって階段を利用していた様です」

「今時、屋上に上がれるマンションて珍しいわね」

「はい。こちらのマンションは屋上からの星空が売りみたいで、それでマンション名もスターリースカイだとか」

仲村が

「でも、昨夜から今朝にかけて雨で、星も観えなかったしタバコも吸えなかったはず。星野さん、誰かに恨まれていた様な事なかったですか?」

と言う

「そりゃあ、今の奥様にはそうとう恨まれていますよ」

と加奈子

「今の奥様?」

と蘭子

「はい。ご主人様のお話によれば離婚調停中だとか。なんでもご主人様、奥様に2億円を請求されてたみたいで......」

「2億!?それは大金ね。それに離婚調停中ですか......不仲だったのね。離婚の原因ご存知ですか?」

「さぁー、詳しい事は良く分かりません」

「失礼ですけど昨夜20時から22時の間どちらにいらっしゃいましたか?」

「その時間なら実家にいました。父が一人で暮らしているもので」

「ご実家に?」

「はい。父は足が悪いので、いつも夕飯の買い出しに行ってます。昨夜も7時位に行って寝る前の10時のお薬を飲ませてから帰宅しました。帰りにコンビニに寄りましたけど」

「そうですか。後1つ、加奈子さんが出勤した時、エレベーターは何階に止まっていましたか?」

「4階ですけど。それが何か?」

「いいえ。10階ではなくて4階?ですか?ありがとうございました」

加奈子、急に取り乱して

「佑樹くんは、佑樹くんは今どうしていますか?」

と言う

「こちらで保護していましたがお母さんと連絡がとれて迎えに来られたのでお母さんと一緒に帰りましたよ」

蘭子がなだめる

「そ、そうですか......」

加奈子、小さくうなだれる


















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