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7 気分転換
しおりを挟む次の日の朝6時。
弥生は仕事が休みだったがキッチンで朝食を作っていた。
するとガチャガチャと玄関の鍵が開きドアを開ける音。
葵(ひとみ)のご帰宅だ。(合鍵を作って持たせてある)
葵(ひとみ)はヨロヨロと玄関になだれ込み
「たらいま~」
虚ろな目で言った。
「随分呑んでるわね?」
弥生が抱えて部屋に上げる。
「うん。仕事終わってからマッチングサイトで意気投合した信吾(しんご)と会ってた~」
呂律の回っていない酒臭い息を強く吐きながら言った。
「相変わらずオモテニなるわね」
弥生が皮肉まじりの独り言を言うと
「寝る!」
と葵(ひとみ)が言って化粧も落とさずそのままソファーにダイブした。
そこへ和茂が起きて来る。
「葵(ひとみ)ちゃん、朝帰り?やるなぁ~」
感心した様に言う。
「店のお客と?」
「ううん。マッチングサイトで知り合った信吾って子だって」
「すっげーな」
和茂はソファーの葵(ひとみ)をチラッと覗き込みながら言った。
その日の昼。
リビングでパスタとサラダを食べている和茂と弥生。和茂の右手に赤い水。
「いつまでいるのかな?葵(ひとみ)ちゃん?」
と和茂。
「さぁ?」
弥生は気の無い返事。
「ずぅ~っといてもいいのにな」
「冗談じゃないわ。私達一応新婚なのよ」
弥生は少し荒々しく言うと食べ終わった皿を流しにドスンと置き洗い物を残したまま
「ちょっと出掛けてくるわ」
と言って家を出た。
駅前の美容室「Y」の看板。
アンティーク調の白いウッドのドアを開ける。
入口にいた右側だけ刈り上げて2ブロックのショートヘアの若い女が、
「いらっしゃいませ」
と弥生を見て言った。
「あのー、大門(だいもん)さんいますか?」
弥生が言うと、店の奥から軽快に茶髪で耳にピアスの30代半ばの男が弥生に歩み寄って来た。
「橘さん?いらっしゃい。今日予約でしたっけ?」
「ううん。予約してないんだけど急に思い立っちゃって。今空いてる?」
「大丈夫ですよ。じゃ、どうぞ」
大門が言って弥生を鏡の前の椅子に案内する。
弥生が椅子に座ると、
「今日はどうされます?」
大門が腰に巻き付けた皮のベルトから櫛を取り出し弥生の長い黒髪をとかしながら言う。
「バッサリいっちゃって」
弥生は何のとまどいもなく言った。
「エッ?マジッすか?」
驚く大門。
「うん。気分転換よ」
弥生の意志は固い。
「本当にいいんすか?」
和茂と弥生のマンション。
リビング。
昨日のタイトな服のままの葵(ひとみ)と相変わらず短パン一丁の和茂。2人で赤い水を呑んでいる。
「弥生どこ行ったのかな?」
と葵(ひとみ)がワインの入ったグラスをクルクルと回しながら言う。
「その内帰って来るだろ」
和茂が言うと丁度玄関のドアが開く音。
「ただいま」
弥生が言ってリビングを無言で通り過ぎ寝室に行き部屋着に着替える。
和茂と葵(ひとみ)は、赤い水を呑む手を止め顔を見合せ目をパチクリさせて驚く。
弥生がリビングに現れると、
「何?その頭?」
葵(ひとみ)がケタケタと笑う。
「何かおかしい?」
弥生がつんけんと言うと、
「どうしたんだ?弥生ちゃん?」
和茂が割り込んで言った。
「気分転換よ」
「何の気分転換?」
和茂が続けると、
「どーでもいいのよ」
ふて腐れた様に弥生が言った。
弥生は、いつまでも綺麗でイケイケの葵(ひとみ)に比べて、普通のオバサンになってしまった自分を変えたかったのだった。
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