デキナイ男と病気の女

Yachiyo

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4 始まりは突然に(弥生の場合)

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4年前。

ジメジメと蒸し暑い夜。
下町の路地裏に古びた紫色の

「Bar雅」の看板。

開きの悪い重たい木製のドアを開けると昭和の匂い漂うレトロな雰囲気の店内。

カウンター越しにスキンヘッドのマッチョな男が振り向きながら

「あら、弥生ちゃんっ。いらっしゃ~い。今日も一人?」

とかん高い声で言った。この店のママの光(ひかる)さんだ。

弥生は

「そう」

とうなずきながらカウンターの椅子に腰かけた。

「いつもの。と…Eの3番」
「ハァーイ」

ママがグラスにウーロン茶を注ぎ弥生の前に置いてからジュークボックスに向かう。

ジュークボックスのボタンを押すとガチャガチャとそれが動きだした。

スパンダーバレーのトゥルーが流れる。

プツップツッと途切れ途切れの音が心地好い。

「あーこの曲最高に癒される。今度結婚したら結婚式で流そうねって葵(ひとみ)って悪友と約束してるの」

弥生は、ママのキャラにもひかれるていたがこの一時を味わう為に酒も呑めないくせに、この店に、足繁く通っているのだ。

曲に酔いしれながらバーボンでも呑むかのようにグラスに口を付けていた。

カランコロンというベルの音と共に店の入り口のドアが開き年配の男が入ってきた。

「あら、和茂ちゃん。今日も一人?」

何だかさっきも聞いたセリフだ。

「ここ、空いてるわよ」

気をきかせたつもりなのかママが弥生の席の隣に目配せしながら和茂を弥生の隣の席へ誘導した。

和茂が弥生の隣に座ると

「ママ、いつもの」

低い声で言う。

ママがグラスにウイスキーをそのまま入れて和茂の前に置く。

「はいいつものストレートね」
「ありがとう」

和茂がそれにゆっくり口をつける。

弥生は曲にひたすらひたる。

何とも気まずい雰囲気だ。それをさえぎったのは和茂だった。

「良く来るの?初めてだね。会ったの」

精一杯頑張った和茂の言葉を無視し曲にひたる弥生。

「オレさぁ…」

グラスに口をつけながら

「実はさぁ、もう男じゃないんだよなぁ…」

寂し気に弥生に呟いた。

弥生にしてみれば別にそんな事はどうでも良いことだったが何を思ったのか無言でいきなり和茂の左手をむんずとわしづかみにし自分の右胸に押し当てた。

すると

「これでも?」

といたずらに笑って見せた。

「ハァー!?」

飛び上がる程驚く和茂をあざわらいながら残りのウーロン茶を一気に飲み干して席を立つ。

「ママ、今日のお会計はこの人に」

と言い残すと弥生は店を後にした。





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